エンディングが近づいてきたドラマ『終幕のロンド―もう二度と、会えないあなたに―』の第8話が12月1日に放送されました。
母・鮎川こはる(風吹ジュン)を失った真琴(中村ゆり)の心の支えになることを伝えた、遺品整理人の鳥飼樹(草彅剛)。二人はお互いに大切な存在となっていきます。
しかし、真琴には夫・御厨利人(要潤)がおり、離婚を切り出しても拒否をされてしまいます。さらに、利人の父親・剛太郎(村上弘明)が社長を務めている御厨ホールディングスのグループ会社の社員がこの10年で多くの自殺者を出していることに対し、遺族が訴訟を起こす動きも本格化します。
樹が勤務する会社・heaven’s messengerの社長である礒部豊春(中村雅俊)。彼の愛息子もまた、御厨ホールディングスで働いた末に命を落としてしまいました。礒部は息子を亡くした遺族の一人として訴訟団に加わることになり、樹、真琴、利人の関係も色濃く交わることに。
第8話では、御厨ホールディングスのグループ会社である御厨ホームズの元社員で、自ら命を絶った小林太陽(末廣拓也)の弟・陽翔(山時聡真)が、ショックのあまり、自分を見失ってしまいます。
陽翔は実名でSNSに御厨ホールディングスの闇を暴露。そうしたことで御厨ホールディングスは陽翔に対する訴訟を検討します。そんな中、陽翔は、兄が死を選んだ場所へ向かってしまうのです。遺品整理をきっかけに知り合った 樹は陽翔を追いかけ、彼の感情を受け止めます。
SNSで実名を名乗って暴露・告発した、陽翔の絶望感
前述したように第8話では、陽翔が実名でSNSにさまざまな暴露・告発を行います。その様子をご覧になった視聴者の中には、「さすがに実名でそんなことはやらないだろう」と首を捻る方もいらっしゃるかもしれません。
現実では、自分の素性を明かして暴露する人はほとんどいません。多くは、正体を隠して発信するものです。ではなぜ陽翔はそうしたのか?これはあくまで筆者の推察ですが、それだけ彼の悲しみ、怒り、悔しさが大きかったからでしょう。
なにより大切な兄が“許されざる死”を迎えてしまった事実を伝えるため、彼は、自分の名前を晒(さら)す必要性を感じたのではないでしょうか。
もちろんその代償は大きく、実際に御厨ホールディングスからは3000万円という多額の賠償金を求められます。しかし、陽翔にはそんなことは関係なかったと思います。なぜならそれは、命を懸けた暴露だったから。
つまり、彼の憎しみと悲しみの深さを示す行為でもあったのです。もちろん、自暴自棄になってしまったことから冷静さを欠いた行動だったとも読み取れます。
現代ではSNSが、“怒りの発露”と“真実の告白”の境界を曖昧にする場になっています。陽翔の暴露は、その危うさを象徴していたようにも思えます。そして、その危うささえも飲み込んでしまうくらい、陽翔は兄を想い、絶望していたのです。
視聴者にも問いかける「幸せってなに?」
そんな陽翔の“暴走”の前に現れたのが、樹でした。兄の後を追おうとした陽翔を間一髪のところで止めたのです。そして号泣する陽翔を抱きしめ、樹も一緒に大声をあげて泣きます。これは『終幕のロンド』の全編を通して、もっとも印象的な場面の一つになるのではないでしょうか。
樹がここまで感情を表に出す姿は見たことがありませんでした。いつも冷静に物事を見極め、どんな相手に対しても物腰柔らかく接し、にこやかな表情を崩さなかった彼が、このドラマで初めて取り乱すところを見せたのです。
陽翔はずっと、兄の太陽に支えてもらってきました。そして太陽にとっても、弟の陽翔は心の拠りどころだったのです。つらくても、苦しくても、相手がいてくれたらなんとかやっていける。
そうやって二人は生きてきたのでしょう。そんな大事な弟を置いていくほど、太陽は追い詰められていた――。想像するだけで胸が締め付けられるようです。
思慮深い樹はきっと、いろんなことを思い巡らせ、あの涙と叫びにつながったのではないでしょうか。同時にあらためて御厨ホールディングスの非情さが強調された部分でもありました。
そこにはもちろん、直接的ではないにしても真琴も関係しています。そのどうしようもなさも、樹の脳裏をよぎったのかもしれません。
第8話終盤では、樹と真琴の気持ちが引き裂かれるような出来事も起きてしまいます。ただ事情はどうあれ、樹と真琴にも相応の“大人の責任”が求められるという、現実の苦味を表しているように感じました。
ちなみにこの第8話では、これまでドラマの世界を盛り上げてきた千葉雄喜さんによる主題歌「幸せってなに?」が流れませんでした。生と死や幸せの意味を問いかける同曲ですが、悲痛な叫びが続く今回においては、ストーリーそのものが「幸せってなに?」だったのかもしれません。
果たして誰が「幸せ」になるのか。「幸せ」になるためには、どれだけの「苦しみ」が必要なのか。幸せを願う者ほど、誰かの不幸を背負っている――。そんな残酷な真実を突きつけられた回でもありました。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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