草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第8話 レビュー
罪を犯した若者たちが人生のやり直しをかけて挑む「元受刑者特別支援プログラム」。
ムードメーカーだった夢愛(井頭愛海)の突然の死は、想像以上の衝撃となり、樹(草川拓弥)たちに降りかかる。たとえ心を入れ替えようとしても、一度道を踏み間違えた者が許されることはないのだろうか。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分~、フジテレビ/毎週木曜深夜0時45分~ ) が一貫して問い続けているテーマに、改めて思いを馳(は)せずにはいられない回だった。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』8話 高村樹(草川拓弥)、立花理子(渡邉美穂)、小森琥太郎(高野洸)
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「まともな環境だったら罪を犯さなかったのか」──そんな問いを打ち消すかのように、第8話では、会社で大金を横領した理子(渡邉美穂 )に審判が下される。将来有望だったはずの彼女が、なぜ過ちを犯したのか。一見真面目そうな理子のエピソードから見えたのは、現代の若者たちが置かれたあまりに世知辛(せちがら)い現実なのである。
理子を演じる渡邉は、日向坂46在籍時から演技班として活躍していたメンバーの一人。2022年の卒業以降は役者の道を進んでおり、2024年の朝ドラ『虎に翼』(NHK総合)では、裁判官になった寅子(伊藤沙莉)の部下・秋山真理子役を好演。母になる喜びと自身のキャリアの狭間で揺れる等身大の姿が印象的だった。
約6,000万円という大金を横領した理子の罪は、当然ながら許されるものではない。ただ、その行為によって、誰かの命、またはそれ相応のものが奪われたわけではないはずだ。では、理子の“裁き”のスイッチを握っているのは誰なのか。 それは、他でもない伯母の森野芽衣子(宮地雅子)だ。理子によって、芽衣子たち家族は“犯罪者の親族”として、誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)を受けていたのだ。
「私さ、学生の時、結構イケてたんだよね。成績はトップだったし、男子からも人気あって。周りからは、なんもしなくても“なんでも出来る人”だって思われてた」
「でもさ、本当は、勉強も美容のことだって誰よりも努力してた。就職だって必死になって一流企業に入ったの…普通にしててそんな人生手に入るわけないじゃん」
「ずっとそう思ってた。でも、違ったんだよね。なーんもしなくても、完璧な人生、送ってる人間もいる…」
親に頼れなかった樹や夢愛を思うと、理子の悩みは贅沢(ぜいたく)に映るかもしれない。けれど、同じく地方から上京してきた身としては、彼女の苦しみを軽んじることはできないのである。
似たような環境で育った人たちが集う“学校”のような空間では、努力は比較的フェアに反映される。努力できるかどうかが、そのまま評価の軸になることも多いだろう。 しかし、一歩社会に出れば、努力だけではどうにもならない現実がいくつも立ちはだかる。とりわけ理子のように地方出身者にとっては、東京で一人暮らしをすること自体が既に高いハードルだ。たとえ大手企業に就職できたとしても、レベルの高い周囲の“普通”に合わせるだけで精一杯になってしまったのだろう。
さらに理子の劣等感を加速させたのは、皮肉にも両親からの「普通でいい」という言葉だった。本来なら“ありのままの娘を受け入れる”優しい言葉のはずなのに、「今の世の中、普通=底辺ってことだから」と言う娘の苦しみを和らげるものではなかった。
そして、ふとした出来心で罪を犯してしまった理子の代償は、『地獄は善意で出来ている』史上、最も残酷な形で突きつけられるのだ。
いまだ謎に包まれたカトウ(細田善彦)も、目が離せない存在だ。
彼の中にも何かしらの変化が芽生えたのではと思っていたものの、ある出来事をきっかけに、理子の裁きを辞退しようとする芽衣子を激しく煽(あお)り立てる。まるで、自分たちの行いを正当化しようとするかのように。
もしかすると、彼も誰かに傷つけられた被害者の一人なのだろうか。そんなことが頭を過った矢先、思いもよらぬ人物の“裏切り”が、ついに明らかになる──。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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