『春になったら』第3話レビュー
「死ぬまでにやりたいこと」をかなえようと、雅彦(木梨憲武)は亡くなった妻・佳乃(森カンナ)と出会った静岡県伊豆市の海岸に、娘の瞳(奈緒)を連れていく。記念写真を撮ろうとした瞬間、激しい痛みに襲われる雅彦を前に、何もできない瞳。痛み止めで症状はおさまったものの、薬が医療用の麻薬であると知った瞳は、一馬(濱田岳)との結婚に反対する雅彦に突きつけた「結婚までにやりたいこと」リストを訂正します。
結婚までにやりたいことリスト
□一人暮らしをする → お父さんとこれからも一緒に暮らす
□美奈子(見上愛)と2人で旅行に行く → お父さんと2人で旅行に行く もう一度!
□エステに行く (「そんなことしてる場合じゃない」とつぶやいて消す)
□料理教室に通う → 食事療法を勉強する
□お父さんにかず君との結婚を認めてもらう
倒れ込む父を思い返し、最後の一行を消そうとする瞳でしたが……目に涙を浮かべながら手帳を閉じました。いちばんいいのは、一馬の実力と人柄を認めてもらった上で雅彦が結婚を祝うこと。前回、一馬のプロフィールを次々に繰り出して雅彦を失望させ、生きることに執着させようとした瞳でしたが、次は“正攻法”で父を安心させようとします。
そんな中で浮上した、一馬のお笑い賞レース出場。これまで予選落ちが続いた一馬に、瞳は「優勝してよ!そうしたら、お父さんも安心してくれる」と発破をかけます。ちょっと待って、決勝に進めるのはわずか「8組」でしょう?途方もない目標にすがる瞳、目に狂気が宿って……なんか怖いんですけど!ドラマ『あなたの番です』(2019年)で奈緒さんが演じたサイコパスキャラを連想して、笑ってしまいました。
そして雅彦は「死ぬまでにやりたいこと」リストに入れていた遊園地に、瞳を誘います。妻を亡くし男手ひとつで子育てする必要のあった雅彦は、仕事に追われ幼い瞳をレジャーに連れ出せず悲しませた過去がありました。やっと誘えるようになっても、成長した瞳は思春期まっさかり。親との外出をうとましく感じる年ごろの娘に、遊園地行きを冷たく断られてしまう回想シーンがなんとも切なかった。そんな場所にやっと瞳と向かえると思いきや……ネタづくりに行き詰まった一馬とその息子・龍之介(石塚陸翔)もやって来るのは、笑える悲劇!
ただ、イヤイヤながらも一馬や龍之介とコミュニケーションを図る雅彦の姿は、義理の息子や孫と戯れる「祖父」のように見えるんですよね。瞳のつくった弁当を4人で囲む姿は「家族」同然で、帰り道に龍之介から「僕のママは瞳ちゃんだよ。“おじいちゃん”は邪魔しないで」とたしなめられるし。うろたえながらも受け入れる雅彦の様子から、一馬に対する気持ちの変化が読み取れます。
一馬への理解を示す雅彦に対して、瞳は「新しい家族をつくるの、いいなって思ったけど……結婚はいったん待ってほしい」と一馬に打ち明けます。その心は「いまはお父さんと向き合いたいから」。そこへ遊園地の帰り道、手をつなぐ3人のあとをトボトボついて来る雅彦のさみしそうな姿が回想シーンではさまれる。結婚反対の風向きが瞳に有利な方へ変わったとしても、父との残された時間を大切にしたい。リスト訂正時、「お父さんにかず君との結婚を認めてもらう」の扱いをためらった瞳の決意に、もう涙腺崩壊です。
その一方で、思いを寄せる瞳から結婚式の司会を任された岸(深澤辰哉)の笑える悲劇ぶりも健在。普段は葬儀屋に勤めているからか、告別式のテンションで「それでは、ただいまより、新郎新婦の入場です」としめやかに進行してしまう練習風景には大いに笑わされました。岸を密かに思う美奈子ですら、「それ、葬式の司会じゃん」と強烈なツッコミを入れざるを得ません。「男が飛び込んできて、花嫁(=瞳)を奪わないかなぁ」と無謀な願望を抱き、「でもその男、俺じゃないのかよ……」と頭を抱える岸をさえぎって「ちょっとトイレ行ってくる」と背を向ける美奈子の後ろ姿、切なかったなぁ。
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文:岡山朋代
編集・ライター。朝日新聞社「好書好日」、ぴあ各メディアなどで主にカルチャーやエンタメ分野の取材・インタビュー・執筆を手がける。
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