見てみよか

「顔が大事」アイドル・シホ(なえなの)が捨てた過去

2024.10.21

「顔が大事」アイドル・シホ(なえなの)が捨てた過去

『モンスター』第2話レビュー

エンディングのシホ(なえなの)の笑顔を見て、胸にじんわり広がる優しい感情を抱いたのは、筆者だけではないはず。『モンスター』第1話が人間の恐ろしさがテーマだったとすれば、第2話は人間の弱さと、それに立ち向かう勇気に焦点が当たった回だったと言えるかもしれません。

地下アイドル『ハッピー☆ラビット』のメンバーとして活動し、歌詞の盗作疑惑をかけられたシホを演じるのは、インフルエンサーやタレントとして活躍するなえなのさん。2022年に『ハレ婚。』(朝日放送テレビ)で地上波連続ドラマ初出演を果たし、今年は『東京タワー』(テレビ朝日系)で彼氏に浮気される女子大生を熱演して、高い演技力が話題を集めています。そして今作『モンスター』でも、世間の批判や隠したい過去と必死に戦う女性を繊細に演じていました。

シホ(なえなの)

相変わらず冷静沈着な主人公・亮子(趣里)。アイドル事務所社長の益岡伸也(津村知与支)がシホの盗作疑惑について相談を持ちかけ、「はっきり言ってただのイチャモンなんですけどね」と訴えても、すぐに歌詞を見せるように切り出します。問題の本質はどこか、先入観を持たずに見定めようとする賢明さ、さすがは亮子です。

対して杉浦(ジェシー)は、初手の段階で「パクリ」と決めつけてしまいます。それもそのはず、1年前にシホの前事務所で発表された楽曲の歌詞と、9割方同じなのだから。「似すぎてません?てかほぼ同じですよ!」と、気持ちいいくらいに視聴者の思いを代弁してくれる杉浦に、完全に同感です。

負け戦を確信して不安な表情を見せる杉浦に、「出禁になった人の連絡先、調べといて」といつの間にやら亮子はタメ口に。早々に所長の大草圭子(YOU)の信頼を勝ち取る亮子に不満を見せつつも、「はい」と従順に返事をしてしまいます。それを見守る村尾洋輔(宇野祥平)・由紀子(音月桂)夫婦の笑顔にほっこり。

相次ぐ自身への疑惑・批判の声に、SNSから目が離せなくなっていくシホ。盗作は確実と思われますが、どこか物言いたげです。そしてどちらかというと、盗作疑惑以上に外見の批判に過敏になっているような様子も。一体、シホはどんな事情を抱えているのか?十分かわいらしいのに。

益岡伸也(津村知与支)、シホ(なえなの)

そんな中、シホがコンビニ店員に対して怒鳴りつけている動画が拡散され、そこに盗作を認めるような発言が残されていたことで炎上してしまいます。シホの熱狂的なファン・寺田に“誠意”を見せてなんとか面会にこぎつけた、音楽事務所の元スタッフに事情を聞いても、なおも盗作の疑惑が深まる結果に。さらに社長の益岡までシホを信じず、この際AIに書かせたことにして世間に謝罪しようと諦める始末。

事態は、過去のステージ映像に映り込んでいたシホの母親を亮子が訪ねたことをきっかけに急展開を迎えます。鍵を握るのは、シホの高校時代の卒業アルバム。次第に明らかになっていく整形の過去。だから外見を気にしていたのか……。

「あんな歌詞、書くんじゃなかった」「人生が終わる」と必死に過去を隠そうとするシホの切実さに、胸が痛みます。「顔と歌詞、どっちかを選ばなきゃいけないなら、顔のほうが大事」と言い切る彼女の心境を思うと、どうしようもなく切ない。過去を明るみにしないために、証拠となる卒業アルバムは絶対に裁判で出さないでほしいと主張するシホに向き合い、この窮地を亮子はどう乗り越えるのか……。

城野尊(中川翼)、神波亮子(趣里)

裁判での証人尋問、そして亮子の提出した証拠映像での立証シーンで、筆者は思わず涙ぐんでしまいました。人生を終わらせられると思い込んでいた過去に、今救われている。前を見据え、「この歌詞は私が書いたものです」と言い切るシホは、大嫌いな過去の自分を受け止める覚悟を決めたかのように見えました。最後に、亮子が寺田に示した“誠意”の謎が明らかになるのには驚かされましたね。

どんな外見も肯定する、新たな価値観が受け入れられるようになった昨今ですが、それでも未だルッキズムの考えは根強く存在しています。整形を公に発信する人も増えましたが、強いコンプレックスを感じて過去を隠そうとする人もいる。でもどんなに過去から逃れようとしても、いずれは向き合わなければならなくなる日が来てしまうもの。第2話では、インターネット社会になった現代における、盗作と外見至上主義という複合的なテーマにスポットライトを当てていました。

神波亮子(趣里)、シホ(なえなの)

ドラマ放送後のX(旧Twitter)では、「裁判に勝つだけじゃない 心を救ってくれるいい話だったな」「悪意のある動画の切り取りは撲滅してほしい」などの声のほか、「アイドル完コピかわいすぎるし弁護士として優秀すぎる」と亮子の多才さに驚きを示す反響も。

先週に引き続き、やはりタイムリーな社会問題への感度が高い内容でした。来週はどんな社会の“闇”に立ち向かうのでしょうか。
文・神田 佳恵
フリーライター 兼 一児の母。
取材・インタビュー、エンタメ記事、エッセイなど、複数媒体・分野で執筆中。
miyoka
0