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55万円は「買い」?超絶技巧のミャクミャクを生む伝統工芸

2025.03.28

55万円は「買い」?超絶技巧のミャクミャクを生む伝統工芸
2025年4月13日(日)から、いよいよ大阪・関西万博が開幕します。
先日、あべのハルカス近鉄本店(大阪市阿倍野区)にて、万博会場内オフィシャルストア西ゲート店KINTETSUで販売されるミャクミャクグッズをはじめとする限定品のお披露目がおこなわれました。(本記事は報道内覧会を取材したものです)
なかでも、際立って目を引いたのが、1716年創業の「中川政七商店」(本社・奈良県奈良市)とのコラボレーション商品である“4種の超絶技巧のミャクミャク”のオブジェ。特に値段が55万円の「鍋島焼のミャクミャク」のインパクトは、報道陣に衝撃を与えました。
中川政七商店の広報・佐藤菜摘さんに「超絶技巧のミャクミャク」(第1弾)の制作秘話や魅力、そして、「暮らしに寄り添うミャクミャク」(第2弾)について伺いました。(価格はすべて税込み)

職人さんの腕が鳴る!超絶技巧「鍋島焼のミャクミャク」

正体は不明、細胞と水がひとつになったことで生まれたふしぎな生き物である大阪・関西万博公式キャラクター・ミャクミャク。見た目からも分かるように、「細胞」を表現している赤い部分など、かなり複雑な構造をしています。「この姿を精巧に焼き物で表すのは、かなりのチャレンジでした。職人さんもどう作ればよいのか悩んだほどです」と佐藤さん。

この難しい制作に挑んだ作り手は、佐賀県伊万里市の鍋島焼窯元「虎仙窯(こせんがま)」です。九州の佐賀エリアには、有田焼や唐津焼、伊万里焼など数多くの焼き物の産地がありますが、江戸時代に鍋島藩(佐賀藩)の御用窯が置かれた伊万里市大川内(現在の伊万里市大川内山)で、将軍家や諸大名への献上品として作られていた焼き物が「鍋島焼」です。その希少さから、当時は門外不出の技術でした。

鍋島焼のミャクミャク

50年以上の実績をもつ鍋島焼熟練の職人さんがミャクミャクの複雑な形を9つの型に分けて、ひとつひとつ焼いています。さらに「水」にまつわるデザインを取り入れ、穏やかな波の流れのような「青海波(せいがいは」(※)や渦を巻くように力強く広がる「蛸唐草」、水中を魚が泳ぐような鱗(うろこ)文様が一筆一筆、目を見張るほど繊細に描かれています。気が遠くなるほどの精緻な筆さばきは、ぜひ、実際に万博会場内オフィシャルストアを訪れ、実物で確認して欲しい逸品です。ちなみに細胞のような顔の丸い部分のひとつひとつはすべて文様が異なるほどの凝りようです。
「窯元でも、こういった高度なものを制作する機会は、なかなかありません。職人さんの腕が鳴る仕事だったのではと思います」(佐藤さん)
(※)日本の伝統的な大海原の波を表した幾何学的な扇形が上下左右に繰り返して配置された文様

鍋島焼ミャクミャク
画像提供:中川政七商店

手仕事ならでは、唯一無二のミャクミャクたち

その他にも、全国の超絶技を持つ工芸メーカーと深い関係にある中川政七ならではのミャクミャクオブジェが3タイプあるので、そちらも注目です。

中川政七商店・超絶技巧のミャクミャクオブジェ4種類

水のような透明感があるガラスのミャクミャクは、なんと型を使わず、職人の手の感覚だけで作り上げたもので、ひとつとして同じ形がありません。ある意味一期一会のミャクミャクです。作り手は、千葉県九十九里のガラスメーカー「菅原工芸硝子」で、熟練の職人のみが成しえる超絶的な技により、あの複雑で独創的な姿をやわらかなフォルムで制作しています(192,500円)。

ガラスのミャクミャク
画像提供:中川政七商店 

伝統な手漉き(てすき)和紙の技術と3次元グラフィックスで立体物データを形成する「3Dモデリング」という最新テクノロジーを掛け合わせて生み出された「手漉き和紙のミャクミャク」は、本当に紙でできているの?と信じられないくらい、精巧で立体的な姿です。佐藤さんは、「光を受けて美しい陰影を生み出すので、ぜひ窓辺に置いて欲しいです」と魅力を語ります。(作り手は、愛媛県西予市の和紙工房「りくう」77,000円)

手漉き和紙のミャクミャク
画像提供:中川政七商店

福を呼ぶミャクミャクも。融点が低く、金属のなかで一番やわらかい錫(すず)の特性をいかし、なめらかな質感が美しくと金属ならではの力強さがあります。錆びにくく、朽ちにくい錫は縁起がよいとされているのだとか。(作り手は、富山県高岡市の鋳物メーカー「能作」49,500円)

錫のミャクミャク
画像提供:中川政七商店 

どのミャクミャクも超絶技巧にビックリ(値段にもビックリ)ですが、手仕事ならではの味わいが生み出す唯一無二の存在感が光っています。(すべて限定生産で個数に限りあり)
超絶技巧のミャクミャクの販売場所
・中川政七商店 近鉄あべのハルカス店
・中川政七商店オンラインショップ
・万博会場内オフィシャルストア西ゲート店KINTETSU
※販売は2025年4月13日から

もっと身近な、暮らしに寄り添うミャクミャクも

とはいっても、超絶技巧のミャクミャクは値段的に手が出ないという方に、第2弾の「暮らしに寄り添うミャクミャク」が登場しました。どれも関西だけにとどまらず、日本全国の工芸技術を紹介したいとの思いから、その土地の素材や風習をいかしたデザインです。(全12種類)

暮らしに寄り添うミャクミャク 

注目は、だるまの一大産地である群馬県高崎市の「高崎だるま」ならぬ、「ミャクミャクだるま」(各5,500円)。目玉が6つありますが、ちゃんと1カ所目玉を書き入れることができます。他にも、中川政七商店の人気定番商品として知られる奈良の工芸品・かや織りふきんがミャクミャクデザインに(880円)。お手頃で、日常生活の中にしっかりミャクミャクを取り入れることができます。すべて、万博会場内オフィシャルストア西ゲート店KINTETSUのみの販売。

今後さらに、第3弾の発表もあるとのことなので、どんなタイプのミャクミャクが飛び出してくるのか楽しみですね。

かや織り 綿100% 
ミャクミャクふきん

暮らしに寄り添うミャクミャク販売場所
・万博会場内オフィシャルストア西ゲート店KINTETSUのみ
※販売は2025年4月13日から

なぜ超絶技巧のミャクミャクを?

ところで、なぜ「超絶技巧のミャクミャク」を作ろうと考えたのでしょうか?
中川政七商店は、江戸時代に地場産業である奈良晒し(ならざらし)の商いから始まった創業約 300年の老舗。現在は「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、日本の工芸界で幅広い活動をおこなっています。
そんな同社は、100年前のパリ万博(1925年)とも縁がありました。当時、日本の美術工芸品を「日本の最先端のものづくり」として、世界に紹介しようとの政府の働きかけもあり、「麻織物のハンカチーフ」を出展したのだとか。

パリ万博に出展された麻織物のハンカチーフ
画像提供:中川政七商店 

「私たちは、普段、日本全国の工芸技術をいかした日常の暮らしに寄り添う商品を扱っていますが、今回の日本の伝統工芸技術によるオブジェのような制作は、今までにあまりない試みでした」と佐藤さん。
「100年の時を経て、再び万博とご縁を結んだので、この機会に日本の驚くようなすばらしい工芸技術を世界の人々に知ってもらえたら。それが私たちにできることではないかと思います」と説明します。
1970年に開催された大阪万博で制作された太陽の塔のオブジェなどは、現在ではある種の文化財的な存在になっています。もしかしたら、今回の超絶技巧のミャクミャクオブジェも100年後には、当時の日本の技術を知る上で貴重な歴史的価値を持つ文化財になっているかもしれませんね。

メディア内覧会で説明をする中川政七商店広報の佐藤さん

中川政七商店公式HPでは、今後「せっかくなら、万博だけでなく、超絶技巧ミャクミャクを制作した“さんち”へも足を運んでほしい」との思いから、各産地を紹介する動画も公開予定とのことです。

中川政七商店公式サイト https://nakagawa-masashichi.jp/
取材・文 いずみゆか
奈良を中心に関西の文化財やミュージアムを訪ね歩くのが大好きなライター
miyoka
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