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圧巻、横尾忠則や宇野亞喜良らの演劇ポスター展(大阪市)

2025.02.02

圧巻、横尾忠則や宇野亞喜良らの演劇ポスター展(大阪市)
1960年から1970年代の高度成長期、経済の発展と共にアートやカルチャーシーンでも既存のものを破壊し、新しいものを創造しようとする動きが高まりました。そのひとつが「アングラ演劇」。代表的な劇団は、寺山修司率いる「天井桟敷」、唐十郎率いる「状況劇場」、佐藤信率いる「演劇センター68/71」(通称「黒テント」)、鈴木忠志率いる「早稲田小劇場」。音楽や舞踏といった他ジャンルの表現を貪欲に取り込み、街頭や公園で移動式のテントを設置してゲリラ的な公演を行うなど、既存の演劇の枠を超えた過激で実験的なアングラ演劇の舞台は、世間をあっと驚かせ、若者たちを中心に熱狂的な支持を巻き起こしました。
そんなアングラ演劇の公演ポスターが一堂に会する「ジャパン・アヴァンギャルド―アングラ演劇傑作ポスター展―」が、扇町ミュージアムキューブ(大阪市北区)にて開催中です。

「ジャパン・アヴァンギャルド―アングラ演劇傑作ポスター展―」
扇町ミュージアムキューブ(大阪市北区)2025年1月

同展を担当する扇町ミュージアムキューブの宮下忠也さん(以下、宮下さん)は「アングラ演劇のポスターはたんなる公演告知のための広告媒体ではなく、舞台演出の一部だった」と話します。
今回展示されるポスターを手掛けた横尾忠則、赤瀬川原平、粟津潔、宇野亞喜良、及川正通、大友克洋、金子國義、合田佐和子、田中一光、花輪和一、林静一、平野甲賀、篠原勝之といった人々は、現在では日本を代表するアーティストとして知られていますが、当時は知る人ぞ知る存在であり、劇団員と同じ志を持つ仲間として劇団の活動にも深く関わっていました。
当時のアングラ劇団には、天井桟敷の美輪明宏、カルメン・マキ、状況劇場の麿赤兒、四谷シモンなど、ジャンルを超えたユニークな才能が集っていました。そんな場で先鋭デザイナーたちが刺激を受け、競い合うようにクリエイティビティを発揮したポスターには、それまでの演劇ポスターとは一線を画するアヴァンギャルドなものばかり。
たとえば、横尾忠則の大胆な構図やデザイン、サイケデリックな色彩感覚。あるいは宇野亞喜良の美少女像のメランコリックな異形美。作家の個性が存分に発揮されつつ、劇団の世界観を体現する“顔”となったポスターは、幕が上がる前から街のあちこちで異様なオーラを放ち、大衆の興味を引いたに違いありません。
また、当時のアングラ演劇ポスターにはシルクスクリーン印刷を使用した実験的な試みも多く盛り込まれています。「実物を近くで見てもらうとわかるんですが、版を幾重にも重ねて作っているので、下の版が透けて見えたり、デジタル処理されたグラフィックとはまったく違う独特の味わいがある。カラーも蛍光色を多用しているんですが、今も驚くほど鮮やかに色が残っている。非常にぜいたくな作りで、美術(版画)作品としても価値が高い」(宮下さん)。
もともと大量には刷られていなかった上に、当時はアングラ劇団自体、一般的にはキワモノ視されていたこともあり廃棄されたポスターも少なくなく、今回の展示物のように保存状態の良いものはまれ。そんなアングラ演劇ポスターの位置づけは、江戸時代の浮世絵に通じるものもあり、今こそアートとして「再発見」されるべきものではないでしょうか。
実際、会場に足を運んでみると、4メートルはあろうかという高い天井からワイヤーで大判のポスターを表裏で何連にも吊り下げたアトラクション的展示に興奮。空間をびっしりと埋め尽くすデザインと色の洪水に圧倒されます。当時を知るであろう団塊世代のお客さんに混じって、若者の姿もちらほら。デザイナーだという二十代の男性は、「60年代のサイケデリックな時代の空気が感じられつつ、今見ても新しくて刺激的」と興奮気味に感想を口にしていました。
「ポスターのサイズ的にもB1版(728×1030)と大判なので、実物は想像以上に迫力を感じていただけると思います。扇町ミュージアムキューブは演劇をベースに映画や音楽など、さまざまな表現がクロスオーバーする劇場を目指していて、今回の展示はまさにそのコンセプトを体現する展示になっていると思います。作品一点一点と静かに向き合うミュージアムの展示とはまた違う、会場全体にみなぎる混沌としたパワーを体感して欲しいですね」(宮下さん)

同会場ロビーでは、かつて扇町ミュージアムスクエアで上演された南河内万歳一座やリリパットアーミーの公演ポスターを同時展示。ギャラリー解説ツアーやトークショーの開催を2月15日(土)に予定。当時の演劇とポスターの興味深い話を聞きながら鑑賞するとより深く楽しめます。
寺山修司生誕90年記念 「ジャパン・アヴァンギャルド」- アングラ演劇傑作ポスター展 -
【会期】2025年1月22日(水) ~ 2月16日(日) 13:00-20:00 (入館は19:30まで)
【料金】一般/当日1,500円、大学・専門学校生1,000円、高校生以下無料(料金は税込み)
【会場】扇町ミュージアムキューブCUBE02 (大阪市北区南扇町6-26)  
【公式サイト】http://posterharis.com
文:井口啓子
ライター。カルチャーを中心にインタビュー、取材をおこなう。雑誌『ミーツリージョナル』で漫画コラム連載中
miyoka
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