日髙のり子が演じる声優の苦悩から浮かび上がる、ドラマ『銀河の一票』第8話。聞こえない声に想像力を働かせるということ

日髙のり子が演じる声優の苦悩から浮かび上がる、ドラマ『銀河の一票』第8話。聞こえない声に想像力を働かせるということ
いよいよ後半戦に突入したドラマ『銀河の一票』(毎週月曜 午後10:00~/カンテレ・フジテレビ系全国ネット)。その第8話が6月8日に放送されました。
大物政治家の父・鷹臣(坂東彌十郎)の不正を疑ったことで秘書の仕事も家も失った星野茉莉(黒木華)が、出会ったスナックママの月岡あかり(野呂佳代)に都知事選への出馬を打診するところから始まったこのドラマ。
第7話では、都知事選立候補の表明を前に、あかりが“チームあかり”陣営の茉莉、五十嵐隼人(岩谷健司)、雲井蛍(シシド・カフカ)に、自分の過去を告白。以前高校の養護教諭として働いていたとき、保健室登校をしていた女子学生の心を追い詰めたとして週刊誌で取り上げられ、バッシングを浴びたことを明かします。茉莉とあかりがSNSでバズったこと(第6話参照)で封印していた過去が再注目されますが、あかりと一緒に過ごした町の人たちの声にも支えられ、無事に都知事選立候補の表明会見に臨むことができました。
『銀河の一票』第8話 シシド・カフカ、岩谷健司、野呂佳代、黒木華

『銀河の一票』第8話 シシド・カフカ、岩谷健司、野呂佳代、黒木華

そして第8話では、茉莉、あかりたちは選挙活動に向けて具体的に動き始めます。選挙ポスターをどのように展開していくのか。選挙カーを利用するかどうか。さらになぜ選挙カーでは名前を連呼するのか、そのメリットとデメリットについても話し合います。そんな中、浮上したのが選挙カーで声を上げる“ウグイスさん”を誰にするのか。そこで名前が上がったのが、人気アニメ『ふるるんくっか!』でフルルン役の声優を務めている白鳥光留(日髙のり子)でした。

国民的キャラクターを多数演じた声優・日髙のり子さんが登場

『銀河の一票』第8話 日髙のり子、岩谷健司、黒木華

『銀河の一票』第8話 日髙のり子、岩谷健司、黒木華

毎話、蛭田直美さんによる脚本の巧妙さと演出家陣の表現に惹(ひ)きつけられるのですが、この第8話は特に素晴らしいと感じました。ちなみに今回のレビューは結末の演出についても触れているので、未鑑賞の方はお気をつけください!
第8話のキーパーソンは、声優・日髙のり子さんが演じた白鳥光留です。日髙さんと言えばテレビアニメシリーズ『タッチ』の浅倉南、映画『となりのトトロ』(1988年)の草壁サツキなど多くの国民的キャラクターを演じてきたレジェンドです。それらの作品やキャラクターのことを思い出すと、日髙さんの声が自動再生されると言っても過言ではありません。
そんな日髙さんが演じる白鳥光留は、“チームあかり”が掲げた公約「安心できる社会の実現」に共感したことから、選挙ボランティアとして参加したい旨を伝えます。ただ“ウグイスさん”については、精神的な理由から以前のように声を出すことができなくなったため、辞退の意思を示します。
なぜ白鳥は声が出せなくなったのか。それは生成AIの進化により、声優の声も再現できるようになったこと。白鳥はその技術自体は「悪いとは思っていないんです」とし、また悪用もされていないと言いますが、ただ生成AIによって再現された自分の声を聞いて「命を感じてしまったんです」と話します。「私だったらもっとこうする、こうできるのに、ってすごく悔しくて。でも、それでも…」「その声に命を感じてしまったんです」と声を詰まらせます。
人の声には、それまでの経験や感情が宿ります。声優は“すべての自分”を声で演じます。白鳥は「それを全部再現されちゃったら、私はどうなるんだろうって」「声を出せば学習されちゃう。全部、奪われちゃう。そう思ったら」と感じ、声を出すことができなくなりました。

第8話ラストで連想した、日本初の本格的トーキー映画

第8話の脚本や演出の上手さは、声優・白鳥光留の存在を通して「声を上げたくても、上げられない」を描いた点です。
『銀河の一票』ではこれまで様々な視点に立って、声を上げたくても、上げることができない人たちを映し出してきました。生活、仕事、教育、人とのコミュニケーション――。本当に助けが欲しい人ほど声を出しづらい現実を、私たち視聴者に伝え続けてきました。
第8話では、社会的に“声が出せない”という状況と、白鳥個人の苦悩が重ねて描かれていました。それはすなわち、同作で茉莉やあかりが取り組んでいる、個人の声に耳を傾けることにつながります。個人が抱える問題は、社会全体の課題とも地続きのはず。そうした考え方は、今回の白鳥のケースも同様と言えるでしょう。だからこそあかりは、「大丈夫」と話す白鳥に対して「聞こえちゃって。“大丈夫”の声の中の、“助けて”とSOSを感じ取るのです。
『銀河の一票』第8話 野呂佳代

『銀河の一票』第8話 野呂佳代

さらに、生成AIで再現された白鳥の声で読まれる『グスコーブドリの伝記』(宮沢賢治)の一節も登場し、それが自分の仕事のあり方について問いかける内容にもなっていました。そのキャラクターの声が“自分”である必要性はあるのか。そんな白鳥の悩みをより深く感じさせる演出が見られました。
しかし終盤、白鳥が自信を取り戻すきっかけが描かれました。それは蛍の息子が、白鳥が演じた『ふるるんくっか!』の台詞(セリフ)に勇気をもらっている姿を見かけたこと。自分の声が誰かの支えになっていたことを実感した白鳥は、そこで“声を上げる”ことができるように。声を取り戻した白鳥は、チームあかりの事務所へ足を運びます。そこで白鳥は、笑顔で何かを言います。ただ、何を言っているのか、どんな声なのかは視聴者には聞こえないようにされています。これが見事な演出でした。つまりそこでの白鳥の声は、視聴者それぞれが白鳥の“自分の声”を自由に想像し、当てはめられるようになっているからです。そこまで“声”について深く語られてきて、最後に“声”をあえて聞かせず想像させる演出はとても粋ですよね。
『銀河の一票』第8話 シシド・カフカ

『銀河の一票』第8話 シシド・カフカ

余談なのですが、1931年の映画『マダムと女房』は、日本初の本格的なトーキー映画(映像と音声が連動した「音の出る映画」) とあって全編で音が鳴り響いており、「映画に音が加わることの豊かさ」を表現していました。ただ最後、夫婦役の渡辺篤さんが田中絹代さんに耳打ちする場面だけ“無声”になっていたんです。夫婦はそこでどんな会話をしていたのか? それまで日本映画で主流だった“無声映画”に求められた想像力を、日本映画初の本格的トーキー映画のエンディングに持ってきたところが、筆者の印象に強く残っています。
『銀河の一票』の第8話のラストを見て、筆者は『マダムと女房』の演出を思い出しました。聞こえる声だけではなく、聞こえない声に想像力を働かせることの大切さを、第8話は改めて問いかけていたのかもしれません。
『銀河の一票』第8話 黒木華

『銀河の一票』第8話 黒木華

文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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