見てみよか

それぞれの道、「好き」と言えた健斗(伊藤健太郎)【未恋】

2025.03.14

それぞれの道、「好き」と言えた健斗(伊藤健太郎)【未恋】

『未恋〜かくれぼっちたち〜』第10話レビュー

1月に放送が開始されたドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』の最終回(第10話)が3月13日深夜に放送されました。

ここで同作がどんなストーリーだったか、あらためて振り返りたいと思います。中心となるキャラクターは、かつて小説家を目指していた漫画雑誌『コミックブーン』の編集者・高坂健斗(伊藤健太郎)、彼の恋人でスランプから抜け出そうとしている人気漫画家の深田ゆず(弓木奈於)、健斗にとって思い入れが深い相手で小説の新人賞受賞経験も持つ派遣編集者の鈴木みなみ(愛希れいか)です。

この3人に加えて、健斗の後輩で漫画家の夢を諦め切れず編集者を辞める星たける(鈴木大河(IMP.))、『コミックブーン』での連載デビューが控える新人漫画家・本島りん(外原寧々)、ゆずに本当に描きたい漫画を描かせると宣言して新たな連載を勝ち取る漫画雑誌『ブリエ』副編集長の桔川悠(松下優也)らが登場。

これらの人物たちが、自分はなぜ今の仕事をしているのか、どこにやりがいがあるのか、そもそもその仕事が好きなのか、さらに自分が夢を諦め切れていないのではないかなど、いろんな本音と向き合う模様が描かれました。

「何事も選択肢は自分にある」を自覚させる物語

筆者は毎週、自分自身のことを重ねながら『未恋』を鑑賞してきました。きっと筆者だけではなく、多くの鑑賞者もそうだったのではないでしょうか。同作はとても共感性が高くて、自分ごとのように感じられる物語だったと思います。

そんな『未恋』の最終話を見た上で、総じて感じられたのは「何事も選択肢は自分にある」ということでした。

健斗のように、小説家になりたいという夢をうまく断ち切ることができなかった結果、別の仕事をなんとなくうまくこなしている感じになっているのも、それは自分の選択が招いたこと。ゆずのように、精神的に疲弊し、自分が本当に描きたい漫画はなんなのか迷いながら、それでも漫画家を続けているのも、自分の選択。そしてみなみのように、プロの小説家にはなれなかったものの、その才能を漫画編集者の道に生かすのも、自分の選択です。

今ある状況が、やりつくした結果のものなのか。それとも消去法的なものなのか。もちろん「やむを得ずそうしなければならなかった、それぞれの事情」も存在します。そういった一部の事情を除いて、何事も決めるのは自分です。責任や答えは、誰かに委ねるものではないのです。もし日常につまらなさを感じていたり、仕事や生活にハリがなかったりするのであれば、自分自身で納得できる状況へと変えるしかありません。

やりたいことがほかにあって、それが自分への不満やもどかしさにつながっていたとしても、現状維持でいくのであればそれはやはり自分の選択なのです。

現実とは逃げ場がないもの、いかにしてそれと向き合うか

自分で動いていかないといろいろ悔いも残ります。最終話でりんは、みなみが考えたプロットをもとに連載デビュー作を書き上げます。しかし健斗は、この作品は売れるだろうが、自分自身が反映されていないものを出して大きな動きになった場合、その状況を受け入れざるを得なくなり、いずれ納得できなくなって、作品にも負の影響を受けると言います。そして「誰かにやらされるんじゃなくて、描きたいものを描いて欲しい」と連載デビュー作の再考を提案します。

その上でりんは、みなみが描く物語が好きなのでそれを原作にしたいと熱望。みなみ自身も改めて自分が本当に書きたいことを書こうと決意するのです。健斗は「自分のために書くことで、まず自分を喜ばせるべきだ」という風にアドバイスします。

健斗のこれらの言葉は本当に素晴らしいです。彼自身、ゆずの苦しみを間近で見てきました。彼女の苦しみが自分にも跳ね返ってきました。そして自分が抱えていた夢と、それに一歩踏み出せなかった事実に対して見て見ぬふりをしてきたことを再認識します。それらがあったからこそ、りんにアドバイスができたのだと思います。同時に、漫画編集者のおもしろさとはこういうことであると、気づきを得た瞬間でもあったのではないでしょうか

ちなみにみなみは全10話を通してものすごく前進しました。りんの連載デビュー作の構想を練るだけではなく、自分が書いた物語を子どもに読ませたくて絵本を書くという、新しい「選択」をするのです。最終話のみなみの決断には本当に感動を覚えました。「自分の気持ちを未来ある子どもに託す」というエンディング自体、あらゆる物語のあるべき姿だと個人的には考えます。

『未恋』は温かくてユーモラスな場面も多いのですが、しかし要所では、現実とはいかに逃げ場がないものであるか、そしてどうそれを向き合うかを突きつけてくるドラマでした。

みんな「かくれぼっち」だからこそ…

最後に、何事も「自分ありき」ではあるものの、やはり一人では世の中は生きづらいこともこのドラマは伝えていました。漫画家にとって漫画編集者がいるように、支えてくれる存在は必要です。また、しんどいときは誰かに頼って、甘えたら良いと思います。

たとえばゆずの場合、自分の弱さを隠しているつもりでも、一人称が「私」ではなく「ゆず」になったとき、健斗がそれに気づいて手を差し伸べてくれます。さすが「ミスターリスク回避」です。ただ実際は、気づいてくれる人ってなかなかいませんよね。だからこそ、遠慮なく自分から誰かにSOSを出すべきではないでしょうか。

いろんな人に支えてもらって、そして自分が納得できるまで何度もリスタートを切るのも「生き方」だと思います。一人で生きていけるという人ならそれでいいですし、それができないという自覚があれば、誰かにどんどん支えてもらいましょう。

みなさん、「かくれぼっち」を卒業してみませんか。
見逃し配信はこちら(TVer)
見逃し配信はこちら(カンテレドーガ)

文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
miyoka
0