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“父”木梨憲武が実演販売士を引退、“娘”奈緒に継承するプロフェッショナルの誇り

2024.03.05

“父”木梨憲武が実演販売士を引退、“娘”奈緒に継承するプロフェッショナルの誇り
瞳(奈緒)と父・雅彦(木梨憲武)を招いた貸切の単独ライブで芸人復帰と塾講師との両立を宣言し、自分からプロポーズした恋人・一馬(濱田岳)。その姿に触発され、瞳も「カズくんと家族になりたい」「(一馬の息子である)龍ちゃん(石塚陸翔)と3人でお父さんを支えたい」と結婚の許しを得ようとステージに上がります。そんな二人を前に、ついに結婚を認めた雅彦。万感の前回ラスト、何度おかわり視聴を重ねても同じ熱量で泣けるんだよなぁ。

今回は前半で、この4人が正真正銘の「家族」になっていく様子が描かれました。まず、龍之介の授業参観。「龍ちゃんのママに見える?」と一馬に確認し、お母さんたちにハキハキ明るく「おはようございます!」とあいさつする瞳(小さく驚く一馬に笑いました)。気合い入ってるなぁ、さすが大声で実演販売する雅彦の娘だわ、と思わず目を細めます。授業は「2年生の思い出」作文の発表。最初に挙手して指される龍之介でしたが、同級生に順番をゆずりました。瞳と一馬にいいところ見せられなかったと落ち込む龍之介に、「優しいカズくんの子だ」と察して涙する瞳。血は争えないよね。
さらに居酒屋で初めてのサシ飲みに臨む雅彦と一馬、手づくり餃子で食卓を囲む瞳と龍之介のシーンが交錯します。「俺が(死んで)いなくなったあと、いま住んでいる家に瞳と住んでほしい」「瞳を頼む」と頭を下げる雅彦に、「瞳さんを必ず幸せにします」と誓う一馬。その口元に食べこぼしがついているのはご愛嬌(あいきょう)だし、一馬の人柄やキャラクターを表していますよね。一方で、龍之介も「頼りないところもあるパパだけど、これからもどうぞよろしくお願いします」「僕と一緒にパパを支えてあげてください」と瞳に一礼。龍ちゃん、ナチュラルに「子はかすがい」っぷりをさく裂してくる徳の高い子だよあなたは。

新しい家族のスタートだけでなく、後半は雅彦の引退劇が展開されました。靴ひもをうまく結べない、通勤時に乗っている自転車を持て余し倒してしまう……など、次々と雅彦に襲いかかる膵臓(すいぞう)ガン末期の症状悪化。もともと社長の中井(矢柴俊博)と後輩・加賀屋(葵揚)に持病と余命を告げていましたが、退職日の決定打になったのは、瞳の前で吐血してしまったことでしょうか。弱っていく姿を身内に見られたくない、医療麻薬で痛みをコントロールできるうちに幕引きを、と考えるのは当然ですよね。切ないけれど。

「グラッチェ椎名」(実演販売する際の芸名)としての最終日は3月3日に決まり、雅彦は中井が考案したヨッシーコーポレーション初のオリジナル商品を実演販売することに。はじめは快調に飛ばしていた雅彦でしたが、次第に左の脇腹を押さえながら苦痛で顔をゆがませるように。そこへ、働く雅彦の姿を見届けようと一馬や雅彦の姉まき(筒井真理子)が訪れます。さらに「父のための結婚式にしたい」と瞳から相談されているウェディングプランナー・黒沢(西垣匠)の姿も。「式のために、お父さんのことを知っておきたくて」ですって。
痛みをこらえきれなくなった雅彦は、奥に下がって休憩するひと幕も。それでもひと息ついて売り場に立ち、再び声を張り上げながら次々と商品を売りさばいていく姿に、職業人としての誇りを感じました。仕事熱心なのは瞳も同じ。父最後の勇姿を見届けたいであろうタイミングに、担当している妊婦の亜弥(杏花)から「陣痛かも」と連絡が入った時も冷静でした。妊娠後期に起こる前駆(ぜんく)陣痛【=本陣痛の前に起きる、腹部が張るような痛み】と診断し、初めての出産に不安を覚える若い夫婦に「焦らなくて大丈夫ですよ」と声をかけ、安心させていました。事情を抱えている時こそプロフェッショナルに徹するのも、雅彦ゆずりなんですね。

あとを助産院の院長・節子(小林聡美)に託し、あわてて父のもとへ向かった瞳の手には一眼レフが。離れたところからカメラを雅彦に向け、ファインダーをのぞき込む瞳。レンズ越しの雅彦が映し出された瞬間、毎話の『春になったら』タイトルバックは瞳が撮影した雅彦の姿なんだ……と遅まきながら実感しました。寝起き姿(第8話)に、キャンプでたき火に当たる両手(第7話)、みかんを乗せた雅彦の頭(第1話)など、娘でなければ切り取れない構図がグッと胸に迫ります。そういえば、大学の写真サークルで出会った親友の岸(深澤辰哉)と美奈子(見上愛)からも「瞳はいちばん写真が上手だった」と言われていましたよね。

職場の後片付けをして、両手いっぱいに私物の段ボールを抱えながら帰宅した雅彦。そんな父を、瞳は豆腐と大豆ミートでつくったヘルシーな肉料理とノンアルコールのシャンパンでねぎらいます。ゆったり語らいながら、話題は雅彦の「死ぬまでにやりたいこと」リストに。残り少なくなった項目にさびしさを覚えつつ、雅彦は「あとひとつ」と言って、とある内容を書き加えました。タイトルより上、ノートの最上部に記すほど優先度の高いToDoとは何でしょう。ぜひ本編でご確認を。
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文:岡山朋代
編集・ライター。朝日新聞社「好書好日」、ぴあ各メディアなどで主にカルチャーやエンタメ分野の取材・インタビュー・執筆を手がける。
miyoka
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