大阪市立自然史博物館(大阪市東住吉区)で2025年9月23日(火・祝)まで開催中の特別展「昆虫MANIAC」。見たこともないような虫や、知っているようで知らない虫がたくさん登場し、そのMANIACな解説に思わずうなることもしばしば。見どころの一つでもあるオオセンチコガネの生体展示について、担当の松本吏樹郎学芸員(大阪市立自然史博物館 昆虫研究室)からリポートが届きました。
オオセンチコガネは金属光沢を持つきれいな虫ですが、地域によって体の色が異なることが知られています。全国的に見れば赤みがかった金属光沢をもつものが多いのですが、滋賀県南部から京都府南部にかけては鮮やかな緑色になります。また奈良から紀伊半島にかけての個体群は、深みのある青い金属光沢をもち、「ルリセンチコガネ」と呼ばれます。今回の特別展ではなかなか展示する機会のない奈良のルリセンチコガネの生きた個体を展示しています。
きれいな見た目にかかわらず、オオセンチコガネのエサは動物のフンです。特にシカのフンが大好きで、この生体展示でも奈良公園の近くから拾ってきたシカのフンをエサとして与えています。運が良ければフンを食べる様子も観察できるかもしれませんね。
とてもきれいで面白い生活をしているオオセンチコガネを皆さんに見ていただけてうれしいのですが、実は展示を維持するのは結構大変です。一番の問題はその生活史にあります。成虫で越冬したオオセンチコガネは春から初夏に活動し、卵を産んでやがて姿を消します。そして夏の終わりから秋に向けて、前年に産まれた卵から育ったと考えられる新しい成虫が羽化してくるのです。つまり昆虫MANIACが開催されている夏休みは、ちょうどオオセンチコガネが見られなくなるタイミングなのです。
展示にオオセンチコガネの生体展示を入れるかどうかかなり迷いましたが、昨年の東京会場でもやっていましたし、なんとかなるかと実施することにしました。
オープン少し前の6月下旬、そろそろ展示用の個体を確保しておこうと採集と飼育にとりかかりました。しかしすでに数が減ってきているのか、そんなに多くは見つかりません。それでも少しずつ個体数を増やして展示を始めることができました。しかし飼育中に寿命で死んでしまうものもいるので、こまめに補充を行わなければなりません。夏になると平地ではほぼ見られなくなってしまったので、紀伊半島の少し高い山に採りに行ったりもしました。この頃見られるのは前の年からの生き残りの古い個体なので、前胸背板が傷ついてつや消し状になっていたり、脚が不完全なものも多かったです。
8月に入る頃には状況はますます厳しく、一時は5頭を切る事態となりました。展示ケースの土に潜る個体もいますので、1頭も見られないというのでは展示を見に来てくれた人もがっかりでしょう。また山に採りに行かなければ...でもそろそろ山でも厳しいのでは?と思い始めた8月中旬を過ぎた頃、他の調査で訪れた夜の山でピカピカ光るルリセンチコガネがふと目につきました。よく見ると前胸背板もツヤツヤ、ようやく羽化し始めた新成虫です!
新成虫が出てくる季節になればもう大丈夫、9月23日の閉幕までルリセンチコガネをみなさんに見ていただくことができるでしょう。今回の展示は私自身、知っているようであまり知らなかったこの虫のことをよく知る機会にもなりました。皆さんもぜひ昆虫MANIACで、ツヤツヤ、ピカピカのルリセンチコガネをご覧ください。ちょこちょこ歩いてはフンをかじったり昆虫ゼリーを食べたりする様子がとてもかわいらしいですよ。
夏休みが終わり、展示室の混雑は一息つきました。大人の昆虫ファンのみなさま!今がチャンスです!
特別展「昆虫 MANIAC」
2025年7月12日(土)~ 9月23日(火・祝)
【会場】大阪市立自然史博物館 ネイチャーホール
【主催】大阪市立自然史博物館 / 読売新聞社 / 関西テレビ放送
公式HP:
https://www.ktv.jp/event/konchutenosaka/