相手の痛みが想像できない世の中へ。草彅剛と中村ゆりが体現した“危機感”と、閉じ込められた私たちの行方【ドラマ『終幕のロンドーもう二度と、会えないあなたにー』】

2025.12.08

相手の痛みが想像できない世の中へ。草彅剛と中村ゆりが体現した“危機感”と、閉じ込められた私たちの行方【ドラマ『終幕のロンドーもう二度と、会えないあなたにー』】
遺されたものは私たちにどんなメッセージを発しているのか――。遺品整理をテーマに、幸せのあり方について問うドラマ『終幕のロンド―もう二度と、会えないあなたに―』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜よる10時)の第9話が12月8日に放送されました。
御厨ホールディングスの系列会社である御厨ホームズで社員の自死が相次ぐ中、遺族は集団訴訟に向けて動き出します。遺品整理会社のheaven’s messengerの社長である礒部豊春(中村雅俊)も、かつて御厨ホームズに勤めていた息子を亡くしていることから集団訴訟に加わることを決意。
しかしそんな折、体調を崩してしまいます。そこで社員である樹(草彅剛)がバックアップ。一方、御厨ホールディングスの社長である御厨剛太郎(村上弘明)は、これまで通りの強権でそういった動きを封じようとします。後継者候補の息子・利人(要潤)もそんな剛太郎には頭が上がりません。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話

さらに今回は、利人の妹で広報部長・彩芽(月城かなと)の主導のもと、企業のイメージアップ戦略動画を制作・公開し、そのアンバサダーとして利人の妻で絵本作家の真琴(中村ゆり)を起用。その動画は好評を集めますが、そこに映っている樹の息子・陸(永瀬矢紘)に対する憶測をめぐって誹謗(ひぼう)中傷が書き込まれる事態に…。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 左から)永瀬矢紘、草彅剛

真琴の絵本『魔王の森』の意味

『魔王の森』――これは、絵本『風の中のルリ』がヒット作となった真琴の待望の最新作です。『終幕のロンド』序盤からその存在については触れられてきました。その物語は、真っ暗な森の奥の奥を舞台に、魔王の秘密を知った者は美しい絵本のページの中に閉じ込められるというもの。その絵本から出られた者は誰一人いないそうです。
なぜ真琴は『魔王の森』を書こうとしているのか。それは彼女自身の気持ちがその物語に表れているからではないでしょうか。
真琴は利人と結婚し、何不自由のない生活を送っていました。しかし夫婦関係は冷え切り、さらに義父、義母、夫の前で自分らしさを見せることは一切できません。唯一、心を許すことができるのは、古くからの友人・彩芽だけでした。
このように真琴は、息が詰まりそうな日々を送っていたのです。それはまさに、『魔王の森』で絶対的な力を持つ魔王に閉じ込められた人々と同じような思いだったのではないでしょうか。つまり『魔王の森』は、真琴自身なのです。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 左から)中村ゆり、永瀬矢紘

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 左から)中村ゆり、永瀬矢紘

しかし子どもたちが楽しむ絵本ですから、エンディングは明るい未来や幸せが待っていなければいけません。真琴にとって、自分のこれからを照らしてくれる存在は樹でした。樹と出会ってから、真琴は変わりました。

トゲがなくなり、表情も柔らかくなりました。『魔王の森』のエンディングはきっと、そんな樹との明るい未来が反映されるはずだったのではないでしょうか。
しかし、御厨ホールディングスが抱える重大なトラブルや利人との離婚が許されない状況から、真琴は、距離が縮まった樹との関わりを断つことを決意。つまりそれは『魔王の森』のエンディングも不透明になっていることを示唆しているのです。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 要潤

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 要潤

私たちはみんな“閉じ込められた人々”なのかも?

『魔王の森』の物語は真琴だけに当てはまるものではありません。『終幕のロンド』のすべての登場人物に重ねることができるのではないでしょうか。
魔王とは、ドラマ終盤に来て悪役的な立場として圧倒的な存在感を放っている剛太郎のようにも思えますし、真琴の自由を奪う利人にも見えます。御厨家そのものと捉えることもできるのではないでしょうか。
ただ御厨家の人々もまた、大企業の看板を守らなければいけないという点で、閉じ込められて抜け出せなくなっています。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 草彅剛

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 草彅剛

樹もやはり、5年前に亡くした妻のことを想うあまり、真琴に対してあと一歩が踏み出せません。もちろん真琴は利人の妻ですから、恋心を抱いてもそれを伝えるのは、たやすいことではありません。実は、さまざまな事情から身動きが取れなくなっていました。
息子の面影を引きずっていた豊春、金をせびる母親に怯(おび)えていた久米ゆずは(八木莉可子)もそう。このドラマでは誰もが『魔王の森』に登場する“閉じ込められた人々”であり、幸せをつかむために“絵本の中”から羽ばたこうとしているのです。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 左から)八木莉可子、草彅剛

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第9話 左から)八木莉可子、草彅剛

特に第9話では、何をするにも自分のことばかりで、相手が傷ついたり、悲しんだりすることがイメージできない世の中への危機感が描かれていました。
つまり、誰もが“自分の中”に閉じこもってしまっているのではないでしょうか。そう考えると『魔王の森』は、私たち自身のことでもあるのかもしれません。
文:田辺ユウキ芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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