草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第9話 レビュー
ドラマ『地獄は善意で出来ている』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分~、フジテレビ/毎週木曜深夜0時45分~ )もいよいよ最終回直前!前科者たちが人生の再起をかけて挑んだ「元受刑者特別支援プログラム」で、運営側のカトウ(細田善彦)と通じていた“裏切り者”は、明るく爽やかな琥太郎(高野洸)だった。
樹(草川拓弥)と理子(渡邉美穂)が閉じ込められた小屋の火事も、参加者たちの動向を逐一報告していたのも、すべて琥太郎だったのだ。
なぜなら彼こそが、たった一人の兄・小森虎徹(時任勇気)を奪われた樹の“被害者”だからである。
それは遡ること4年前。出生届が出されておらず、無戸籍者として生きてきた樹は、売人から裏ルートで戸籍を買った。おそらく相当な金額を支払ったのだろうが、これで保険証も作れるし、仕事も探せるし、家だって借りられる。新たなスタートを切れると信じていたはずだ。
しかし、その売人は裏組織と繋(つな)がっており、樹が手にした戸籍は、前科のある半グレメンバーの名義だったことが、虎徹から明かされる。次に罪を犯せば…いや、たとえ樹自身が過ちを犯さずとも、誰かに罪をでっちあげられたら即実刑になってしまう。樹はこの弱みを理由に、虎徹から強請(ねだ)られていたのである。
なんとも皮肉なのは、虎徹が琥太郎のために工面していた大金の出所が、樹が汗水流して働いた金の横流しだったことである。そもそも虎徹が強請らなければ、樹と揉(も)み合うこともなかったのに…!!と思わずにはいられないのだが。それでもなんとか生きている樹とは対照的に、虎徹の意識はいまだ戻っていないのだ。
さらに追い打ちをかけるように、カトウから虎徹が亡くなったことが告げられ、琥太郎と樹は一気に絶望へ突き落とされる。樹はこのプログラムでようやく新たな一歩を踏み出せると希望に満ちていたが、被害者家族である琥太郎は、樹のせいで今も深い悲しみの中にいた。
その現実をまざまざと突きつけられた樹は、自分は卑怯者(ひきょうもの)だと責めながらも「俺だって普通に生きていれば…」と溢(こぼ)してしまい、理子から「わかるけど…どんな環境でも罪を犯さない人もいる…」「いるんだよ…」と静かに嗜(たしな)められる。それでも、この物語を受け取る私たちが目を向けるべきは、不条理な社会の構造そのものではないだろうか。
いよいよ琥太郎のエピソードが明らかになり、これまで“更生したい加害者”の視点で語られてきた物語は、一気に被害者側の視点へと切り替わる。失明した画家(赤ペン瀧川)、結婚式当日に祖父が闇バイトに殺された新藤栞(木下晴香)、夫が自ら命を絶った鏑木真琴(遊井亮子)など、被害者たちのやりきれない悲しみが淡々と描かれてきたが、プログラムに参加し、加害者たちと同じ場所で過ごしていた琥太郎の過去が語られることで「制裁は救済になりうるのか」という問いはより色濃く浮かび上がってくる。
ついに樹たちも「元受刑者特別支援プログラム」の実態が「被害者救済プログラム」であり、被害者が加害者に罰を与えることが本来の目的だったと知る。果たして樹たちは無事に生還することができるのだろうか(自分の罪の償いのために両親が亡くなったことを知った理子が、無事に元の日常に戻れたとて、一人で生きていけるのかが心配です…)。
誰もが被害者にも、加害者にもなり得る時代。その複雑さの中で、『地獄は善意で出来ている』はどんなラストに辿(たど)り着くのか。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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