草彅剛主演『終幕のロンド』第10話、ブラック企業で孤立する海斗(塩野瑛久)...大切な人にSOSが出せない理由

2025.12.15

草彅剛主演『終幕のロンド』第10話、ブラック企業で孤立する海斗(塩野瑛久)...大切な人にSOSが出せない理由
佳境に入ったドラマ『終幕のロンド―もう二度と、会えないあなたに―』の第10話が12月15日に放送されました。
今回は、遺品整理会社のHeaven’s messengerで鳥飼樹(草彅剛)らと共に働いていた矢作海斗(塩野瑛久)が、ヘッドハンティング先の東京エンドメモリー新池袋支店にいよいよ出社。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)塩野瑛久、草彅剛

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)塩野瑛久、草彅剛

しかしその会社は、過去10年間で14人も社員が自ら命を絶っている御厨ホールディングスが新たに買収した遺品整理会社でした。そうとは知らなかった海斗は、御厨ホールディングスの社長・御厨剛太郎(村上弘明)にすっかり心酔してしまいます。
海斗の恋人でHeaven’s messengerの社員・久米ゆずは(八木莉可子)はそんな海斗のことを心配し、樹に相談。御厨ホールディングスの不祥事の背景には過重労働があることから、樹はゆずはに、海斗の出社・帰宅時間を尋ねるようアドバイスします。そして早くも、海斗の勤務状況は大きく乱れることに…。

大切な人にSOSは出しにくい

私は『終幕のロンド』の大きなテーマは、誰かのメッセージに耳を傾けることの大切さだと捉えています。樹たちは、遺品整理を通して声なきメッセージを受け取り、残された人たちにそれを届けてきました。
一方で数々の遺品は、故人が生前、愛情、苦しみといったいろんな感情を胸に抱えながらも、それを誰にも伝えられないことを物語っていました。また御厨ホールディングスの過重労働による犠牲者たちは、そのしんどい状況を誰にも相談できず、一人で抱え込んでこの世を去ってしまいました。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)中村ゆり、永瀬矢紘、草彅剛

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)中村ゆり、永瀬矢紘、草彅剛

それは故人だけではなく、今を生きる人たちにも当てはまります。たとえば樹の息子である陸(永瀬矢紘)は、小学校でいじめに遭っていてもそれを誤魔化(ごまか)していました。
樹に思いを寄せる真琴(中村ゆり)は、関係が冷え切っていた夫・御厨利人(要潤)の前では自分らしさを抑え込んで生活していました。
さらにこの第10話で御厨ホールディングスの新社長に就いた御厨彩芽(月城かなと)も、親友である真琴への、友情とはまた違う「深い愛情」をできるだけ隠して生きていました。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)月城かなと、中村ゆり

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)月城かなと、中村ゆり

東京エンドメモリーで働くことになった海斗もその一人です。heaven’s messengerでの経験を買われてチームリーダーとして招へいされ、その期待に応えるべく海斗は奮闘します。
しかし東京エンドメモリーは遺品整理に必要な機材などが不足しており、一緒に働く新人社員たちにもノウハウがないことから、海斗の負担は増えていきます。
ただ彼は「年商5千億の社長が俺のこと、昔の自分にそっくりだって、息子みたいだって言ってくれたんだよ」と剛太郎から声をかけられたことへの喜び、それを「裏切れない」という気持ち、なによりお金を稼いでゆずはを幸せにしたいという愛情から、自分で自分の苦しみに蓋をするのです。
心配をかけたくない、自分が我慢して頑張れば大切な人を幸せにすることができる――そんな思いが募るほどに、自分からSOSが出しにくくなるのではないでしょうか。

秘められたメッセージに耳を傾けること

樹らHeaven’s messengerの社員は、遺品に秘められたメッセージにちゃんと耳を傾けようとします。また御厨ホールディングス元社員の遺族らによる集団訴訟の中心人物であるジャーナリストの波多野祐輔(古川雄大)も、封殺されてきた犠牲者の事実や遺族の声に向き合い、行動を起こしていきます。
一方で御厨家の人々は誰かのメッセージを聞こうとしません。たとえば9話で剛太郎は、海斗にどれだけ期待しているかを“うわべ”で口にします。もちろん海斗はそれに気づいておらず、剛太郎の言葉を真に受けて一生懸命、意気込みを語ります。
そのとき剛太郎は顔を背け、「面倒臭い」というような表情を浮かべます。その姿は、樹、波多野らと対をなすものだと考えられます。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)草彅剛、中村ゆり

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)草彅剛、中村ゆり

興味深いのは、利人です。真琴の心が完全に自分から離れて樹に向かっていると知ってから、利人の人間味が少しずつ見えるようになってきました。第10話では、利人がなぜ、真琴との間に子どもを求めようとしなかったのか、そしてなぜ彼女に無関心を決め込んでいたのかが明かされました。
利人は御厨家に生まれることの厳しさを知っているからこそ、そうしなかったのです。その呪縛にとらわれ、SOSを出すことさえ諦め、“自分”という存在を見失っていたのではないでしょうか。
第10話序盤で剛太郎から「お前の意見など聞いていない」と一喝されるところはその象徴的な場面でした。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)要潤、草彅剛

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第10話 左から)要潤、草彅剛

さて、『終幕のロンド』は12月22日で終幕します。果たしてどんな結末が待っているのか。そのメッセージをしっかり受け取りたいと思います。
文:田辺ユウキ芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
miyoka
0