10月よりスタートした草彅剛さんの主演ドラマ『終幕のロンド―もう二度と、会えないあなたに―』が12月22日、最終話を迎えました。
同作は遺品整理を題材に、遺品整理人の鳥飼樹(草彅剛)が、依頼者や故人と向き合いながらメッセージをくみ取っていく物語でした。樹は、遺品整理を通して絵本作家の御厨真琴(中村ゆり)と出会い、仲を深めていきます。
しかし、彼女の夫・利人(要潤)が次期社長の座を狙っている大企業・御厨ホールディングスが、多数の過重労働の末に自ら命を絶った社員の存在を隠蔽している問題も浮き彫りとなり、樹と真琴の日常も変化していきました。
そんな『終幕のロンド』の最終話は、ご覧になった視聴者のみなさんにとっても「意外!」と思える展開が続いたのではないでしょうか。
まず樹と真琴の関係。真琴が利人の妻という立場であることから、深い愛情を抱き合いながらも、その先に進むのはやはり困難です。
加えてマスコミは「不倫」と騒ぎ立て、さらに御厨ホールディングスの隠蔽問題も絡んで、大きなスキャンダルへと発展してしまいます。さらに終盤では、真琴がある決断を下すことに――。
御厨ホールディングスにも大きな動きがありました。利人の父親で社長の剛太郎(村上弘明)による判断で不祥事を隠蔽し続け、数々の問題に翻弄されながらも黙認を強いられてきた利人とその妹・彩芽(月城かなと)にも心境の変化が生まれていきました。
陸が「不倫ってなに?」と問いかける場面が意味すること
そんな最終話で強く印象に残ったところがあります。それは前述した樹と真琴の関係に、樹の息子・陸(永瀬矢紘)が巻き込まれてしまうところ。
陸は当分、小学校を休まなくてはならなくなります。さらに大好きな真琴にも会うことが叶いません。外に出ようとするとマスコミに囲まれてしまいます。ただ、幼い陸は、なぜそんなことになっているのか分かりません。
樹と真琴の間柄はいわゆる「不倫」とは異なりますが、ただそれは私たちがこのドラマの視聴者として、一部始終を知っているからそう言えるだけ。
世間的には、それはやはり「不倫」と呼ばれてしまうでしょう。樹と真琴もそれは理解しており、だからこそ心のどこかに後ろめたさを抱えているように映ります。
そんな二人に陸は、にごりのない瞳で、「不倫ってなに?」と尋ねます。しかし真琴は言葉に詰まり、そして「陸くんは、まだ知らなくてもいいんだよ」と答えます。樹も複雑そうな表情を浮かべた後、笑顔に戻って陸を連れ出すのです。
この場面が意味するものはなんなのか。みなさんはどのように考えましたか?
陸と真琴が“やさしい隠し事”と向き合う日
筆者は、前述の場面こそが同作の物語の本質と現実を突きつけたものだと捉えています。
『終幕のロンド』は回を追うごとに、御厨ホールディングスの隠蔽という闇がクローズアップされていきました。
樹、真琴らとの対立構図もはっきりし、会社側は、いわゆる「巨悪」として描かれました。しかし筆者は、陸の問いに答えられなかった二人の姿を見て、それは“やさしい隠し事”だと思いました。
御厨ホールディングスは人の命や尊厳を奪いました。その行いは決して許されることではありません。しかし、事実を隠すという点においては、樹、真琴も同じことをしたのです。
それが許されるかどうかは別として、私たちは誰もが大きな隠し事や小さな隠し事をしてしまう可能性があるのです。そして、それが結果的に人を傷つけることもありますし、逆にその“嘘”が相手を救うこともあります。
ただ、この場面で気付かされるのは、御厨ホールディングスが犯した過ちを決して他人事だと思ってはいけないということなのです。
ここから先はネタバレになるので、ご覧になっていない方は、鑑賞後にお読みください。
利人は御厨ホールディングスの不祥事を内部告発します。そんな利人を、剛太郎は「良くやった」と受け入れます。剛太郎の妻・富美子と彩芽もなにかから解放されたように、二人で抱き合います。
その瞬間、「御厨ホールディングス」ではなく「御厨一家」に戻ることができます。4人はずっと自分たちが過ちを隠し続けてきたことに苦しみ続け、それが家族の分断を生んでいましたが、ようやくそれと向き合うことができたことが表されていました。
樹と真琴もいつか、陸に対する “やさしい隠し事”と向き合う日が来ると思います。しかし、そうすることで3人は本当の「家族」になれるのではないでしょうか。
『終幕のロンド』は遺品整理の物語を通して家族のあり方を描き続けてきましたが、そのアプローチは、始めから終わりまで一貫していたように思います。
文:田辺ユウキ芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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