「信じてくれる人を裏切らんように」の呪縛――相武紗季の“目の演技”と高低差が描くドラマ『絶望できない男』第3話

「信じてくれる人を裏切らんように」の呪縛――相武紗季の“目の演技”と高低差が描くドラマ『絶望できない男』第3話
スペシャルドラマ『絶望できない男』の第3話が、10月1日に放送されました(毎週木曜 深夜/カンテレ・関西ローカル)。

同作は、テレビ番組制作者・奥川拓二さんをモデルとする主人公・奥本拓夢(大東駿介)の波瀾万丈(はらんばんじょう)な生き方を描いた物語です。第2話では、制作会社の若手AD・水野秀真(八村倫太郎)が企画した音楽番組が存続の危機に直面。会社の経営も揺らぎ始める中、仲間の情熱に応えようとスポンサー探しに奔走する奥本の姿が描かれました。

八村倫太郎

相武紗季さんの好演、目で放つ“言葉”

第3話では、奥本が大金獲得を狙って違法なギャンブル「バカラ」に手を出し、全財産を失います。やがて巨額の借金を抱え、スタッフを守り切れなくなった制作会社はあえなく倒産。にっちもさっちもいかなくなった奥本は、2人組の借金取り(金属バット)に身柄を拘束され、見張り役との奇妙な共同生活を余儀なくされることに。

金属バット

『絶望できない男』というタイトルですが、第3話の奥本は間違いなく絶望感を味わいます。金策が尽きてどうしようもなくなり、命を絶つことも考えます。ただ、彼にとって最大の絶望は、付かず離れずの程よい関係だった元恋人・春永洋子(相武紗季)との間に、溝ができてしまったことでしょう。心配してくれる洋子に対し、奥本は「いっそのこと結婚しますか。ほんで俺の代わりに借金バーンと返したってくれや。よし、ほなら誓いのキスでもしましょか」と冗談めかして言います。それを聞いて洋子は「出直すわ」と表情を変えず、出ていきます。

大東駿介、相武紗季

第2話で洋子は、奥本に「信じてくれる人を裏切らんようにね」と言います。そこでは、奥本を信頼し、熱心に仕事をする水野を大切にするようにという意味が込められていました。ただその言葉は、第3話を見ると、洋子自身の思いでもあったことが分かります。どれだけ無茶をしても、洋子は奥本を見放さず、どこかで信じ続けてきました。しかし奥本は、苦し紛れとは言え、そんな洋子の思いまで茶化してしまったのです。

この場面では、相武紗季さんの好演が光りました。奥本の言葉を無表情で受け止め、愛想笑いでも怒りでもない顔つきで、目だけで奥本に“言葉”を放っているような演技をします。奥本が味わう絶望と、洋子の悲しみや虚しさが同時に伝わってくる名シーンでした。

「ベッドと地べた」が描く心理戦――育まれた信頼の行く末

第3話では、人物同士の関係性の変化を表すおもしろい構図も見られました。それは、借金取りから型にはめられた奥本と、彼の見張り役を務めることになったケン(前田旺志郎 )のやりとりです。奥本は当初、暴力的なケンにおびえ続けていました。しかし奥本は、持ち前の調子の良さでケンの懐に入り込んでいきます。ケンも、奥本に心を許すようになり、一緒に風呂に入って体を流し合う仲に。

その入浴場面が明けてからのワンシーンがお見事でした。それは、奥本がベッドの上に座ってしゃべり、ケンが地べたで話を聞いているというものでした。つまり、構図的には奥本がケンを見下ろす形になっています。二人の関係性において奥本が優位になった印象を与えるものでした。

もちろん、実際の主従関係はケンの方が上です。また奥本は、すぐにキレるケンを警戒していると思います。それでもこの構図は、ケン自身が奥本を単なる監視対象ではなく、一人の人間として受け入れ始めたことを視覚的に表しているようでした。だからこそケンは、奥本と手を組んでのしあがりたいと考えるのです。

大東駿介、前田旺志郎

※以下、第3話の結末に関するネタバレを含みます

ただここでも、「信じてくれる人を裏切らんようにね」という洋子の言葉が生きてきます。ケンが監視対象からパートナーへと見方を変えた矢先、奥本は彼をあっさりと裏切って逃亡を図ります。その結果、激怒したケンに車で“ゆっくり”と轢(ひ)かれるという壮絶な報復を受けることに。裏切りの代償として負った大ケガは、彼の人生をさらに深い迷路へと突き落とします。

振り返れば第3話は、奥本が「人から信じてもらうこと」の重さを突きつけられる回だったように思います。洋子は、どれだけ無茶をする奥本にも寄り添ってきました。ケンもまた、監視対象だった奥本に心を許し、仕事のパートナーとして見始めます。しかし奥本は、そんな二人から向けられた信頼を自ら手放しました。

信じてくれる人を裏切らんようにね――。第2話で洋子が残したこの言葉が、第3話では奥本の生き方そのものに重くのしかかっていました。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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