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「今日で福(桜田ひより)と別れてもらう」と告げる父の本音

2024.08.27

「今日で福(桜田ひより)と別れてもらう」と告げる父の本音
このドラマを毎週涙しながら見ています。福と宝(細田佳央太)とその周囲の人たちの物語だけでなく、映像や音楽など作品全体から醸し出される空気感に、なんだか泣きたい気持ちになるのです。9話で言えば、福が宝に「生まれてきてくれてありがとう」と伝える冒頭のシーンで、高台からの風景や、木々の葉の緑や、雲の切れ間から差し込む光の美しさだけでも感動。福と宝の心の美しさと、それを見守る人たちの温かさを感じる気がします。

今回はタイトルの前に突然メッセージが現れました。「私、この子にも言いたい。生まれてきてくれて、ありがとうって。」というもの。それは、福が声に出さずに飲み込んだ言葉でした。この言葉が心に浮かんだ福は、きっともう親になる一歩を踏み出しているんじゃないかな、と感じました。
9話ではついに、海外から緊急帰国した父・慶(野間口徹)の人柄が明らかになりました。自宅へ戻る前に長男の幸(野村康太)を喫茶店に呼び出して、福の相手の素性を聞き出そうとする慶。「いろいろ準備があるから」と手帳を取り出す慶の話し方は、神経質そうな人という印象です。なんというか、一筋縄ではいかない感じがします。だけど、慶と幸の会話から、2人とも福のことをとても大切に思っていることがわかりました。

その後、福が学校から帰宅すると、リビングには慶の姿が。さらに宝と直実(美村里江)も呼び出された模様です。関係者が全員そろった家族会議で、どんな修羅場になるのか、慶は激昂するのでは、とハラハラしながら見ていましたが、予想外に慶は「福は今、どうしたい?」と静かに福の気持ちを聞きます。前日に宝からも同じことを聞かれていた福は、覚悟を決めていたのか「産みたい」と答えました。それに対して意外にも「福はそういう子だ」という慶。もうなんだか、慶の言葉のすべてが予想外でした。
けれど「自分たちで育てたい」という福と宝に、高校生の2人には子どもを育てられないからと、出産したあとは特別養子縁組で自分が2人の子どもを引き取り、福の弟か妹として育てる、と言うのです。そして、宝に「今日で娘とは別れてもらう」と。
あまりに一方的なもの言いですが、慶が言っていることはすべてが間違っているわけではなく、娘を思う父の1つの現実的な意見だと感じました。「君たちはいまお花畑にいる」という言い方も好ましくないけれど、家族を持って、妊娠や出産や子育てを経験して、初めて知る現実の厳しさや壁というものは、たしかにあると思うからです。

慶が宝のことを知りもせずに「彼は無傷で逃げられる」なんて言うのも、すごくよくないです。だけど一方で、妊娠した女性から逃げてしまう男性がいることも事実。親として娘に傷ついてほしくない気持ちはわかります。そんな慶に対して「宝は絶対に逃げません」と反論する直実の心情を思うと、苦しい気持ちになります。直実は泣きながら川上家を出ていき、宝はそれを追いかけていきました。リビングに残った福の向こう側の壁には、幸と福の幼いころの写真が飾られているのが見えます。笑顔の家族写真から、福たちがとても大事に育てられてきたことが伝わってきました。
9話では、普通の生活では見えなかった親の一面や本音も明かされたと感じました。いろんな立場の大人たちのいろんな意見があるなかで、福と宝は戸惑いながらもしっかりと受け止めようとしているように見えます。

福の妊娠によって、手放さなくてはいけない未来や変わってしまう現状に、今はみんながつらい思いで涙を流しているけれど、でも冒頭の福のメッセージのように、みんなが生まれてくる命に「ありがとう」と言える未来がくると信じたいです。
さて、話は変わりますが今回も矢沢(茅島みずき)と飯田(河野純喜)のじゃれるシーンにほっこりしましたね。ついにひよこラムネの当たりを引き当てた飯田と、その当たりカードを奪おうとする矢沢。教室でワイワイする2人の様子は、高校生らしくてとっても無邪気です。そして、その風景を見つめる福の切ない表情も印象的でした。「産みたい」気持ちを確信した福の高校生活はこれからどうなるのでしょうか。
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文:早川奈緒子
川崎市在住のフリーランスライター。10代の子ども3人の母。「たまひよ」など主に子育て系メディアで取材・ライティングを行う。
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