1月23日深夜に第3話が放送されたドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』。前回は、売れっ子漫画家・深田ゆず(弓木奈於)の担当編集者であり恋人、そして同棲相手でもある高坂健斗(伊藤健太郎)の前に、かつて共に小説家を目指した鈴木みなみ(愛希れいか)が登場。なにかと共鳴し合っていた健斗とみなみだけあって、漂う雰囲気も独特のものがあり、ゆずの気持ちが揺さぶられることに。
そんな第2話では「パーソナルスペース」という言葉もまじえながら、一人でいるほうが楽だけど、でも寂しさもあるという気持ちの矛盾が描かれました。そして今回の第3話もまた、鑑賞者の共感性を高める回になっていました。
今回は、健斗が勤務する三蜂社の漫画雑誌『コミックブーン』で、「第二の深田ゆず育成プロジェクト」が立ち上がります。つまり、新たなアイドル漫画家を生み出そうというプランです。健斗はその企画書を自宅に持ち帰りますが、一緒に暮らすゆずがそれを見つけてしまい、「第一の深田ゆずはお払い箱なのか」と怒りや悲しみを健斗にぶつけます。自分はもう賞味期限が切れた存在なのか。ゆずがそんな風に思うのも、無理もありませんよね。
そこでの健斗のフォローの仕方が忘れられません。そしてこれが第3話のポイントでもあるように感じました。それは、ゆずが怒っている理由がいまいちピンときていないところ。「どうしても気になるんだったら、企画の名前変えるように言いますよ」「第一の深田ゆずが不快感示してますって上司に言って」「名前が嫌なんでしょう?」と提案した上で、「なんで怒ってるんですか?」と尋ねます。
視聴者の方はみなさん、うまく言葉にできなくても、ゆずが怒っている理由や意味はなんとなくつかめますよね。でも、日常でもこういうことは意外とあると思いませんか? 一緒に仕事をしている相手や、私生活のパートナーなどに対し「どうして分かってくれないんだろう」「なぜ伝わらないんだろう」ともどかしい気分になることって。
だけどそういうときは、実は相手も同じことを考えていたり、もしくは本当によく分かっていなかったりします。結局のところ、人それぞれ「軸」が違うんですよね。で、仕事や生活をうまくやっていく上では、できるだけ相手の軸に寄せたり、逆に寄せてもらったり、もしくはそういう「軸」のズレ自体を楽しむことが大事だったりします。
一方、ちょっとした「軸」のズレに一度でも大きな抵抗感や違和感が出てしまうと、それが積み重なっていって、ある日突然「あ、この人とは無理かも!」とパーンとちゃぶ台をひっくり返すみたいな気持ちになり、相手のことを心底拒否したくなります。
たとえば、健斗とゆずが自宅で朝食をとっている場面。ゆずは使ったばかりの醤油差しをそのまま手元に置いておくのですが、健斗は元にあった場所にさらっと戻します。しかも、調味料が入った醤油差しの差し口の向きを全部揃えます。元に合った場所に戻さなかったり、差し口がバラバラだったりすると、ムズムズする気持ちも分かります。逆にまったく気にならない人が多数いますし、それも理解できます。ゆずは、そういうことは気にならないタイプ。だからこそ、健斗のそれらの細かいこだわりに微妙な表情を浮かべます。このようなズレも、一緒になにかをやっていく上では重要ですよね。朝食の場面での健斗とゆずのやりとりは、性格、価値観などが合う、合わないについていろいろ考えさせられます。
加えてゆずは、エアコンの温度設定、タオルの畳み方、そして目玉焼きにはなにをかけて食べるかまで、自分と健斗は異なる点があることを打ち明けます。健斗は何事も良かれと思ってやっているそうですが、「良かれ」と思えるかどうかも人それぞれ。「余計なお世話」「嫌味」になるときだってあります。健斗とゆずに関しては、今はまだ良いかもしれません。でもこの先こういうことが続くと、いずれどちらかが我慢の限界を迎えるのではないでしょうか(一番良いのは、ズレや違和感を「我慢」で片付けない関係性かと)。
ちなみにゆずはここで、自分は目玉焼きにマヨネーズをかけて食べる派だと言います。そこで健斗は「それだと卵オン卵になってしまうよ」と一言。こういうところで、ゆずの意見を聞いて「あ、そうだったんだ」と受け入れるか、「卵オン卵」みたいな余計な理屈を並べるかで、この先の相手との関係性が決まったりしますよね。筆者もどちらかというと健斗タイプなので、この場面はなんだか苦い味わいを覚えます。
じゃあ、健斗がいろいろ間違っているのかと言われたらもちろんそうではない。彼には彼の「正しさ」があります。第3話ではこのように、自分の当たり前は相手にとっての当たり前ではないということが描かれています。
印象的だったのが、「カンヅメ屋敷」時代、みなみが、自分をいろいろ気にかけてくれた健斗に「ありがとう」とお礼を言うと、健斗は「ありがとうと言われてうれしい?」と聞き返すところ。
「普通」ならそんな風に受け取らないでしょう。でも健斗には、健斗なりの考えがあります。「ありがとう」の言葉を素直に受け取れない健斗に対して、「普通ならそんな風に受け取らない」と感じた視聴者自身を試しているシークエンスにも思えました。そんな彼は果たして「変人」なのか、それともまた別の捉え方ができるのか。第3話はでは明確な答えはまだ明かされていません。だからこそ興味深い放送回になっていました。
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文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。