みなみ(愛希れいか)、ゆず(弓木奈於)のモヤモヤ【未恋】
2025.01.31
『未恋〜かくれぼっちたち〜』第4話レビュー
前回は、売れっ子漫画家・深田ゆず(弓木奈於)が、新たなアイドル漫画家を誕生させる「第二の深田ゆず育成プロジェクト」が企画されていることを知り、複雑な思いを覚える姿が描かれました。そして、自分の担当者で恋人でもある編集者・高坂健斗(伊藤健太郎)にその企画への不満と焦りを打ち明けるほか、同棲生活を送る上でのお互いの価値観の違いも少しずつ表面化。
さらにゆずは、同じ出版社に勤める健斗にとって忘れられない相手の鈴木みなみ(愛希れいか)の存在にも心を乱され、内緒にしていたはずの健斗との交際を編集者たちの前でカミングアウト。物語が一気に動き始めた印象でした。
みなみが新人賞受賞パーティーで出会う編集者たち
たとえば、6年前のみなみの回想シーン。かつて小説家を目指し、新人賞も受賞したみなみ。その受賞パーティーで、彼女を囲む編集者たちが「働く女性の脆さっていうのかな? それがリアルで、かつ繊細に表現されている作品」、「女性ならではの生きづらさとか、日常に隠れているちょっとした息苦しさとか」、「経験してないと書かれへんせりふが生々しくて」と分析します。
でもきっとみなみの反応を見ると、どれもピンときていないんですよね。かくいう筆者もこの『未恋』含め、いろんな作品などの考察・分析を書く職業なのでかなりドキッとさせられる場面なのですが…。とにかくみんな、みなみから話を聞き出すことなく、しかしいかにもみなみのことを分かった風に喋ります。そもそも「働く女性の脆さ」ってどういうことだと思いますし、「経験してないと書かれへんせりふ」とか「そもそもあなたは私のなにを知っていますか」と逆に尋ねたくなります。
映像、舞台、小説などエンタテインメント作品には必ず受け手がいます。そこにはそれぞれの感じ方、考え方があります。ですので、好き勝手に言うことは決して悪くはありません。ただこの場面で重要なのは、「女性作家ってこういうものでしょ」というように、決めつけたかのような観点で感想を口にしていること。特にここでは、編集者という立場のある人が新人作家に対してそれを言っています。
たしかに数年前まで、評論家やライターも作品に対して「女性ならではの視点」という言葉を使う人がたくさんいました。作品からすくい取るべきものは作り手の「個々」なのに、あまりにも雑な言い回しですよね。この場面では、そういうステレオタイプな人々への違和感が映し出されていました。特にみなみは第2話で、「どうせ誰からも理解されないと思ってるんで、理解しようとする人たちを拒絶する癖がある」と話していた人。そんな自分のもとにいきなりやって来て、物知り顔で「あなたの考えは分かります」、「自分はあなたを理解しています」みたいに言われると、彼女が白けるのも当然です。
「いつもよりメイクが濃い」「初期の毒っ気が感じられない」
いずれも悪意はないのかもしれません。でもみなみの受賞パーティ然り、「自分の考え=相手の考え」と勘違いしている人が意外と多い気がします。SNSを見るとそういう風潮がどうしようもないくらいエスカレートしていますよね。つまり「自分の理想の押しつけ」になっているんだと思います。
その点では、微笑ましい場面として描かれていますが意外と芯を食っているのが、居酒屋店長の沖一平(森永悠希)とゆずとのやりとり。ゆずは「ゆずレモンサワー」という商品のイメージキャラクターを務めていて、そのポスターが一平のお店にも貼ってあります。一平は「ゆずは、ゆずレモンサワーを飲むもの」だと思っているのですが、ゆずは生ビールをいつも注文。一平は毎度、がっかりします。これもちょっとした場面ではありますが、「理想の押しつけ」として欠かせない部分ではないでしょうか。「ゆずのようなアイドル漫画家は生ビールを飲むはずがない」という世間の勝手なイメージづけを覆す、非常に大事なやりとりです。
だからこそ、ゆずが「健斗のことをもっと知りたい」「過去のことも全部言ってほしい」とすべてを把握しようとする気持ちは、健斗にとっては重荷かもしれないですが、罪深いことではない気がします。ゆずは、相手のことをちゃんと分かった上で、いろいろ言いたいのだと思います。これまで散々、自分が意識していないことまで好き勝手に言われてきたゆずだからこそ、その気持ちには説得力が感じられます。
なにかに対して好き勝手に言うのは仕方がないことではあります。でも、それが理想の押しつけになっていないか、相手のことを分かった風になっていないか、なにより不愉快な思いを与えていないか。第4話では、そのあたりをもっと考えていかなければならないと、あらためて思わされました。
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文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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