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熱戦『R-1グランプリ2025』制した友田オレの強みとは

2025.03.09

熱戦『R-1グランプリ2025』制した友田オレの強みとは
ピン芸のナンバーワンを決めるお笑いの賞レース『R-1グランプリ2025』が3月8日に開催され、芸歴3年目の23歳・友田オレさんが大会史上最年少優勝を飾りました。ちなみにそれまでの最年少優勝の記録保持者は、霜降り明星の粗品さん(2019年大会優勝)でした。

友田オレさんが最年少優勝を果たした決め手とは

友田さんは、歌ネタ、フリップネタというピン芸ではスタンダードな手法を武器としていますが、しかしそこには「大胆さ」もあると思います。たとえば決勝戦のファーストステージで披露した、ベテラン演歌歌手のカザマカズヒコに扮して歌唱する「辛い食べ物節」。曲内容は、辛い食べ物が好きな人にありがちなエピソードをまじえつつ、「ただ自分はそうではない」という思い込めたものです。

こういうオリジナルソングを歌にしたネタは本来、歌詞が分かるようにモニターもステージに上げて見せる場合が多いです。歌詞がはっきり分かった方が、より伝わりますから。なんならそのモニターに、おもしろ映像なんかもくっ付けがちですよね。でも友田さんはそうせず、歌一本で勝負しました。

どうしてそうしたのかというと、友田さんは、自分の歌いっぷり、表情やちょっとした仕草、歌詞のなかにあるクセなどを純度100パーセントで聞かせたかったからではないでしょうか。お笑いの賞レースは、笑わせるポイントを数多く仕込んでおいて、とにかく手数を繰り出すことが主流の戦法になってきます。ですので、ついついいろんな情報を足しがちです。その点、友田さんの「辛い食べ物節」は、見る者に与える情報をできるだけ絞って、歌と表情のおもしろさにじっくり集中させるパフォーマンスを心がけたのではないでしょうか。そこに友田さんの「大胆さ」がありました。

友田オレ(R-1グランプリ2025)

ハギノリザードマンさん、田津原理音さんと争った最終決戦では、3人とも紙のフリップを使ったネタになりました。つまり「ネタかぶり」です。

ただ、ここでも友田さんは、ハギノリザードマンさん、田津原理音さんと一線を画したネタ内容を披露していました。というのも、ハギノリザードマンさん、田津原理音さんは日常のなかに潜む「あるあるネタ」をフリップに書くなどしていたのに対し、友田さんは「(有名人は)俺のことを知らない」「(怪物たちは)俺のことを恐れてない」「指示を聞かない」などの「ないないネタ」を“音頭化”した「ないないなないなない音頭」という歌ネタを見せたのです。「ある」に対して、「ない」ですから、フリップネタでかぶったものの、友田さんには内容的な違いがありました。そこが優勝の決め手の一つになった気もしています。

ハギノリザードマン(R-1グランプリ2025)

田津原理音(R-1グランプリ2025)

友田オレ(R-1グランプリ2025)

一人コントを落語でオトした吉住さんのネタ

ファーストステージ敗退(7位)が意外に思えたのが、吉住さんでした。吉住さんが披露したのは、女性の婚活デート。デート相手の男性が「アウトドア好き」と言えば、脳内に天使と悪魔のような「二人の自分」が現れて、偏見をまじえながら「アウトドアはありか、なしか」を議論したりします。そうやって相手の話を聞いていくのですが、次第に脳内にいる二人の自分の議論が表に出てきてしまい、デート相手を驚かせます。

「アウトドアって尻軽の隠語」といった偏見ワードが笑わせるだけではなく、一人複数役で見せ切る話芸もお見事。なにより、そうやって一人でいろんな役を演じ分けるコント内容を「これは実は落語だった」という風にオトしたところに、震えるほどの驚きを覚えました。

審査員の陣内智則さんは、おもしろい以上に感心が勝ってしまったとコメントするなど、高すぎる完成度が逆にアダになってしまったようです。ただ筆者自身は「2025年に披露される賞レースのネタでベストワン級」だと感じました。

吉住(R-1グランプリ2025)

さや香 新山さんのセンターマイクの使い方のおもしろさ

もう一人、順位が振るわなかったもののアイデアの妙が光っていたのが、8位のさや香の新山さんです。

新山さんのネタはいわゆる漫談。「大学時代にチアリーダーと付き合っていたけど、お笑い芸人になりたいと言ったらフラれた。そこは応援してくれないのか。知らないアメフト部は応援するのに」というような、いろんなエピソードを独白していきました。

驚いたのは、ステージに用意されたセンターマイクの使用方法です。新山さんは当初、センターマイクの前に立って、それを使わずに動き回りながら喋ります。ただ途中から、たとえばエピソードに出てくる頭を下げる仕草を再現するためにセンターマイクの高さや向きを上げ下げしたり、アイテムとして使ったのです。普段はコンビで活動している新山さんですが、今回のピン芸ではセンターマイクを「相方がわり」にしているようでした。これを見て筆者は「すごい」と思いました。

ただ、審査員のハリウッドザコシショウさんが、漫談というスタイルなのになぜセンターマイクを使わないのか、なぜセンターマイクの前に立つのかという疑問の方が気になってしまったとコメントしていました。筆者は逆にセンターマイクを置いておく意味におもしろさを感じたので、「お笑いは受け取り方次第なのだな」とあらためて感じました。あと、新山さんは準決勝時の同ネタではクールな語り掛けだったのですが、決勝戦ではステージに駆け込んできてハイテンションで喋るスタイルに変更していました。決勝戦の戦い方をチェンジしてきたところも、興味深かったです。

さや香 新山(R-1グランプリ2025)

優勝した友田オレさんはきっとこれからいろんな番組でその姿を見ることになると思います。またご自身は以前より「もし優勝しても、2連覇、3連覇を目指したい」と公言していらっしゃいます。さらに漫才ユニットのLet Me Show You THE まごころも組んで活動しています。ですので、変わらずこれからもお笑いの賞レースでその活躍を見ることができるのではないでしょうか。

友田オレ(R-1グランプリ2025)

文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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