「役柄に添った一皿を」はらゆうこ(フードコーディネーター)
2024.11.08
公務員から転職。30歳で料理の道に
ドラマや映画やCMなどの映像作品の場合は、作中に登場するメニューを考えたり、監督や演出部の要望を聞いて作り、現場で提供したりします。映像作品以外では、料理関係の講演をしたり、イベントで料理の提供をしたり、企業へのレシピ作成をしたりと、多岐にわたります。
昔から料理が好きで、料理を仕事にしたいと思っていましたが、両親からの反対で一度は諦めて8年間公務員として働いていました。でもその間もやっぱり料理の仕事への思いを諦められませんでした。そんなあるときフードコーディネーターという仕事があることを知り、「赤堀料理学園」のフードコーディネーター講座を半年間受講しました。それがとっても楽しくて、料理の世界に飛び込むことを決意しました。30歳から校長の赤堀博美先生のアシスタントになり、4年間、現場で学ばせていただきました。
はらゆうこ(フードコーディネーター)
『スノードロップの初恋』
内容もそうですが、勤務時間も公務員とはかなり違いました。早朝から現場で撮影し、遅くまで翌日の準備をすることもありますし、基本的にずっと立ちっぱなしの仕事です。自分は体力には自信があったんですが、料理の仕事の厳しさを感じました。
自分では料理ができるほうだと思ってアシスタントをしていましたが、先生からは「あなたの腕はまだ家庭料理レベル。仕事にするレベルではない」と言われ、はっとしました。赤堀先生は現場での難しい要望にも「できません」と言わない人です。タイトなスケジュールの中で、作品中の料理に求められることをどう実現するのか、多くのことを教えていただきました。アシスタント時代の経験が今に役立っているので本当に感謝しています。
『スノードロップの初恋』作中に出てくる料理
台本を読んで役柄の背景を考えながら作る
たとえば温かい食べ物は湯気が出るイメージがあるので、食事の湯気を撮りたいと要望されることがありますが、天ぷらやアップルパイなど、メニューによって湯気を見せるのは難しいものもあります。
料理は作品をよくするための演出の一つですが、ドラマを見る人が違和感がないようにすることも大切だと思うので、監督やスタッフさんたちと相談してどんな見せ方にするのかを考えています。
台本を読んで、その料理を作る人が男性か女性か、子どもがいるのか、共働きなのか、専業主婦なのか、料理の経験があるのか、家庭環境はどうかなどの背景や設定を確認しています。今回で言えば、料理好きの奈雪が作る家庭料理と、シェフの太一が作る料理など、それぞれのキャラクターに合わせて作っています。
というのも、以前とある現場でカレーを盛り付けた際に、女優さんに「ちゃんと台本を読みましたか?」と指摘されたことがあったんです。その役は子どもたちにたくさん料理を食べさせたいはずだから、きれいでなくていい、もっと盛っていい、とカレーを山盛りによそい直してくれました。それ以来、登場人物のことをよく考えて準備するようになりました。
撮影の進行に合わせて調理
料理をおいしそうに見せる役者の演技力
このドラマではグラタンがキーアイテムになっていて、奈雪の父が作ったグラタンと、奈雪が父の味を再現しようと作るグラタンが登場しますが、その2つはレシピを変えて作っているんです。先日、奈雪の父のグラタンを再現するシーンを撮影したとき、宮世さんが「この前のグラタンの味とちょっと違いますね」と、その味の違いに気づいてくれました。
宮世さんも毎回とってもおいしそうに食べてくれるし、奈雪を演じる小野花梨さんがドラマ初回でお父さんのグラタンを食べたときの笑顔も心に残っています。役者さんの演技によって、料理がより一層おいしそうに見えますから、役者さんってすごいなあって感じます。
作中でキーアイテムとなるグラタン
えっ、そうなんですか!? 知りませんでした。私は料理を作る仕事が好きで続けているだけですが、役者さんがその料理を食べたりすることで、推し活というかたちで視聴者の方にも楽しんでもらえるんですね。本当に役者さんのパワーはすごいと思います。そしてこのドラマを作るスタッフさんたちの熱意も、視聴者の方に伝わっているからだと思います。
セットの中のテーブルセット
幸せの味は「白いごはんとみそ汁」
夫と6歳の娘と、3人で白いごはんとみそ汁を食べることですね。家でもいろんな料理を作りますが、娘は手の込んだものよりも白いごはんとみそ汁が好きみたいです。炊きたてのごはんと、あったかいみそ汁を家族で食べる時間は、幸せだなあと思います。
はらゆうこ(フードコーディネーター)
『スノードロップの初恋』
株式会社Vita 代表取締役、料理家、フードコーディネーター
主な映像作品は『海のはじまり』(フジテレビ)『VIVANT』(TBS) 『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ) 『100万回言えばよかった』(TBS) 『極主夫道』(日本テレビ)『私の家政夫ナギサさん』(TBS)など
見逃し配信はこちら(カンテレドーガ)
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文:早川奈緒子
川崎市在住のフリーランスライター。10代の子ども3人の母。「たまひよ」など主に子育て系メディアで取材・ライティングを行う。
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