現代ニッポンの闇を浮き彫りにする社会派ミステリーのドラマ『
ロンダリング』。
そんな同作の第1話から謎に包まれていたのが、身元不明の女性遺体。その身元は、悲しい生い立ちを持つ貧困支援団体職員の白川愛だと判明。また演じているのも、桜井日奈子さんであることが明かされました。「みよか」では4月下旬、出演場面の撮影を終えたばかりの桜井さんにインタビューをおこなっていました。そこで桜井さんは、同役を演じるにあたって何度も頭を抱えたとおっしゃっていました。
―桜井さんは『ロンダリング』のシークレットゲストとして、第8話以降に登場します。それまで白川愛は「身元不明の女性遺体」で素性が分からず、桜井さんも声だけの出演。このインタビューは4月におこなっているのでどんな反響になっているのか分かりませんが、きっと視聴者も「この声は誰なのか、誰が白川愛役なのか」と予想合戦を繰り広げているはず
シークレットゲストでドラマなどに出るのは初めてのこと。「桜井日奈子だったんかーい!」となるのが怖いです(笑)。そんなことになったら、どうしよう!
―ちょっとプレッシャーがかかりますよね(笑)。
「思っていた人と違った」となっても、そっとしていただけたら……。だけどおっしゃるように、視聴者のみなさんが「この人なんじゃないか」と予想しあうのはおもしろいですよね。その中で少しでも「もしかしてこの役は桜井日奈子じゃない?」と正解を出す方がいらっしゃれば、うれしいかな。
―演じられた白川愛は、いろんな事情を抱えています。そんな彼女の生き方を、桜井さんはどのように演じようと考えていましたか。
本当に捉えようがなくて、難しい役でした。自分が登場する場面の撮影を終えて、こうやって取材を受けているのが不思議なくらいなんです。初めて台本を読んだとき、自分を捨てた父親を憎まない様子や、自分を殺そうとする相手を逃したりする姿に対し、「どういう感情でこういう場面が成立しているのか」と考え込みました。演出の木村淳さんと事前に打ち合わせをして、「愛は生きることを諦めているんです」という風に説明をいただいたのですが、それでも私の中では腑(ふ)に落ちていなくて「ああ、はい……」みたいな返事になって。
―演じる上での不安がずっとあったんですね。
愛って、側(はた)から見たらかわいそうな生い立ちに映ります。だけど彼女自身はそう思っていない。一方、すし詰めで暮らしている弱い立場の人たちのことは「かわいそう、助けてあげたい」と支援する。つまり自分に対する痛みに鈍感なのではないでしょうか。だけどそれを「やさしさ」の一言ではくくれないし、感覚もどこかずれている。気づいたらそういう彼女のことを、考えて、考えて、考えすぎて、本当に心がしんどくなりました。寝る前も、愛のことを考えると「眠れない、どうしよう」となりましたから。愛自身も、もしかすると自分で自分のことが分からなくなっていたのかなって。
―愛は、自分の居場所をいつも探し求めていたのかもしれませんね。
『ロンダリング』の全体のテーマが家や居場所なんです。愛も、自分が安心して帰ることができる場所に関して固執していた気がします。父親たちといつか一緒に暮らしたいという望みを持っていた。それでも、その望みが断たれるコインランドリーのシーンがあるんです。演じていて、引き裂かれる気持ちになりました。
―ただ桜井さん自身は昨今、社会性が込められた役がすごく似合う俳優に成長された気がします。「いつの間に、学園モノで制服姿が似合っていた俳優から社会派の役がやれる俳優になったんだろう」と。
学園モノをたくさんやらせていただいた経験は非常に大きく、また自分にとって必要なものでした。そこで演技について自分なりにいろいろ考えることができ、だからこそ「社会に訴えかける題材にも取り組みたい」と強く思うようにもなりました。どの作品も覚悟を持って臨んでいますが、自分が出る意味みたいなものをよりしっかりと考えるようになってきました。
―2025年3月21日放送のスペシャルドラマ『1995~地下鉄サリン事件30年 救命現場の声~』(フジテレビ系)での、被害に遭われた方たちの対応を行う看護師役は本当にすばらしかったです。作品に溶け込んでいらっしゃって、途中まで演じているのが桜井さんだと気づかなかったほど。
使命感と誠意、そして覚悟を持って作品に取り組みました。私は1997年生まれで当時は生まれていませんでしたが、もちろん事件のことは知っていました。今も後遺症などに苦しむ方たちもたくさんいらっしゃいます。だからこそ「この作品のオファーをいただいたからには、しっかり向き合いたい」という気持ちで臨みました。『1995』は当事者の方も多く、また「あのとき自分はこういうことをしていた」と、その時なにをしていたのかなど、人それぞれの記憶も刻まれている。そういった事件や出来事を題材にした作品は、使命感や誠意がないと務まらない。「第62回ギャラクシー賞」テレビ部門賞で入賞したという事実は一人の演者としてうれしい気持ちがありますが、それはあくまで結果としていただいたものにすぎません。『1995』は自分を含め、たくさんの方にとって「必要な作品」だったのだと思います。
―使命感を持って演じる、という言葉が本当にすてきです。
先ほどおっしゃったように、その役が桜井日奈子だと気付かずにご覧になっても構わないです。俳優をやらせていただくようになって、約10年。私も少しずつ大人になってきました。そして今、俳優として転換期を迎えていると感じています。自分の目標は生涯俳優を続けること。振り幅の広い俳優になりたい。ただ、人によっては桜井日奈子の姿が、10代、20代前半で止まっている方もいらっしゃるはず。そういうイメージや情報が、時には役や作品の邪魔をしてしまうこともある気がします。でも私はシンプルに物語やキャラクターを楽しんで見てほしい。だからこそ極端な言い方ですが、私であるかどうかは分からなくていいと考えています。
―お話を聞いていると、桜井さんは今、寝ても覚めても演技のことばかり考えていらっしゃる気がします。
ありがたいことに参加させていただける作品が増え、頭の中にあるのは常に役のことばかり。これまでは一つの作品の撮影に専念させてもらっていたのですが、現在は同時並行で撮影をしている作品もあります。そういう忙しい状況がとてもうれしいです。以前から「いま、これとこれを“縫って”んだよね」と言ってる俳優さんがうらやましかったんです(笑)
―「縫う」は、俳優が出演作を掛け持ちしているという意味の業界用語ですね!
現場で共演者の方が「縫っている」と言っていると、めちゃくちゃうらやましかった(笑)。実は今まさに、俳優人生で初めて縫っている状態なんです。ついに口にすることができましたから、「今縫っていて、明日は大阪に行くんですよ」って。プライベートで息抜きをする時間はそんなに取れないのですが、でもこうやって縫っていることがうれしくて仕方ない。これからもずっと忙しい状態でいたいです。
インタビュー・文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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