伊藤万理華、ドラマ『時をかけるな、恋人たち』撮影現場で得た実感とは
2023.10.20
本作は、広告代理店のアートディレクターとして“つじつま合わせ”を得意とする一方で、自身の恋愛になると“一線”を越えられない現代人・常盤廻(ときわめぐ)と、未来からやってきたタイムパトロール隊員・井浦翔(いうらかける)によるSFラブコメディ。伊藤さんは、井浦と同じタイムパトロール隊員・天野りおん(あまのりおん)を演じます。ポーカーフェイスで淡々と業務をこなす基地のオペレーターながら次第に二人から影響を受ける役どころを、どのように受け止めているのでしょうか。話をお聞きする中で見えてきた、伊藤さんの幸福観とは?
真面目な天野が、廻(吉岡里帆)と翔(永山瑛太)から影響を受ける姿にギャップを感じるかもしれません。二人の恋路に巻き込まれることはすべて必然だった…と、後半でどんどん伏線が回収されていきます。その一環として、天野の変化が著しく描かれているような気がしています。
冷静を装っているけど取り繕うことのできない本来の自分を、二人から不意に突かれて顔を出す瞬間があります。廻と翔の「障害があっても恋愛にまい進してしまう」姿や言動に触れて、心が揺れるんです。でもそれは「私も恋したい」ということではないんです。
クラシックバレエを続けていたら、アイドルとは異なる道を歩んでいたのかな…と考えることがあります。ゼロから何かをつくることが昔から好きなので、バレエを通じてファッションや映像に興味を持つようになったのではないかと思います。その延長線上で、いつの間にか演技をやっています。ルートは違えど、行き着く先は役者なのかもしれません(笑)
達成感より前に、自分が「つくらなきゃ」と突き動かされる期間があるんです。これまで3回、個展を開催していますがその前には必ず「どうしてこんなにモヤモヤしちゃうんだろう」「なんで前に進めないんだろう」のような葛藤があって。そんな状況を打破するための手段が創作でした。嘘偽りのない自分をさらけ出さなきゃいけないのですが、苦しむ期間があることによって救われるような気がします。
衝動を表に出さなくても平気な方はいると思います。でも私はあまりできなくて。消すことのできない自我を、定期的に受けとめて慰めるタイミングが必要です。いい意味で好奇心旺盛で、悪い意味で自己中心的なのかもしれません。
私はあまり上手に切り替えられるタイプではないので、自分自身をすべて消して臨むのではなく指名してくださった方が私に何を求められているのかを想像した上で、いろんな顔をお見せしたいです。
オファーしてくださった方にとって納得のいくアウトプットだったら、私もうれしいです。
昔はアイドルである自分を前面に出さなきゃ、と思っていた時期がありました。でも隠しきれない自我があって。そこを知ってもらいたい欲求から、創作活動に向かったような気もします。
でも歳を重ねて、いつの間にかどちらの自分も肯定できるようになりました。ある意味、境界線がなくなってきたような。それを感じたのが、実はこの『時をかけるな、恋人たち』の現場でした。
これまでの個展やクリエイティブ仲間と取り組んできたことを生かせている実感がありました。パトロール隊員のロゴマーク(STMP:Space Time Management Station Patrol crew 時空管理局パトロール部略称)がカッコいいから、「このデザインをベースにしたグッズをつくりませんか?」と提案して完成したのが、いまスタッフの皆さんが着てくださっているTシャツや缶バッジです。
私が思いつきで発した意見を肯定しておもしろがってくださったことがすごくうれしかったです。「自分がやりたかった光景って、これかも」と感じました。
『時こい』の現場で受け入れてもらえて、これまで「ひょっとしたら自分で勝手に溝をつくっていただけだったのかな」とも感じました。何かアイディアを思いついても、最初から諦めていたことが多かったのですが、肩の力を抜いて私らしさを発揮すればよかったんだと。
そうですね!「楽しいからやっているんだ」「みんなが喜んでくれるからやりたい」という感覚だけで満たされます。「それだけで幸せでしょ?」と、過去の自分に言ってあげたいです。
万理華さん演じる天野りおんの左眼下に施されているのは、逆三角の形をしたポイントメイク。撮影を遠巻きに眺めていると目の下にクマがあるように見えたので「天野は左眼だけ疲れている設定なんですか?」と素朴な疑問をぶつけたら、笑顔で「いえ、未来人のビジュアル特徴です」と一蹴されました……すみません!(苦笑)。アイラインにしのばせるなど、アクセントカラーのオレンジ使いにも注目です!
取材・文 岡山朋代
編集・ライター。ぴあ、朝日新聞社「好書好日」など主にエンタメ系メディアで取材・執筆を手がける。
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