藤原丈一郎さん(なにわ男子)が地上波連続ドラマ初主演を務める『
ロンダリング』(毎週木曜深夜)。藤原さんが「死者の声が聞こえる」という特殊能力を持った売れない役者・緋山鋭介を演じ、不動産会社から事故物件のロンダリングを依頼される中で、社会の闇に消された人々の非業の死の真相に迫っていく物語です。
そんな同作の特徴の一つは、映像の美しさ。テレビ画面だけではなく、スマホ、タブレットなどでの鑑賞にも適した美しさを誇ります。今や世界の映像市場では、高品質な機材を使用するなどして映像のクオリティがどんどん上がっています。映画やドラマは配信が主流になり、膨大な量の作品が世界中で生まれているとあり、進化と発展が常に求められています。
『ロンダリング』はそういった世界の映像市場に通用する映像作りにチャレンジしています。小型画面で鑑賞しても美しさが損なわれないように制作されました。そうやってどのような端末でも、そしてどのような鑑賞環境でも、しっかり世界に没入させる映像作りに取り組んだのが、若手の技術スタッフのみなさん。今回は、このドラマを語る上で欠かせない4名の技術スタッフに話をききました。
『ロンダリング』の映像はなぜ色鮮やかなのか
スマホなどの画面で映像作品を鑑賞する際、暗い場面になると、はっきり見えなかったり、自分の顔が反射したりすることはありませんか? しかし『ロンダリング』は、そういった鑑賞時のストレスを生まないように、撮影時より思案されています。その点についてまず語ってくれたのが、照明担当の小橋力さんです。小橋さんは「ドラマ鑑賞という点で、スマホは決して良い鑑賞条件とは言えません。自宅以外の場所でご覧になることも多いでしょうから。ですので、現場では撮影時、照明をあまり暗くしすぎないように常に考えました」と振り返ります。
しかし明るめに設定しすぎると、事故物件や幽霊の声などが登場する『ロンダリング』の世界観が損なわれます。一方で、コミカルな場面も出てきます。照明は、いろんな要素を持つ作品のイメージを左右します。小橋さんは「たとえば1話冒頭のコインランドリーのシーン。誰か分からない女性の姿からこのドラマが始まります。あの女性は一体誰なのか。分かりそうで分からないように、照明を当てています。顔の特徴が少しでも分かってしまうとドラマのすべてがダメになる。しかし何をやっているのか、その動作が伝わらないとご覧になる方が話に入り込めない。そういった心構えをしっかり持って、照明を作っていきました」と話します。
もちろん、撮影の役割も非常に重要です。同作のくっきりとしていて色鮮やかな映像は、山下耕平さん、宮田大さんをはじめとする撮影担当のみなさんの腕とアイデアが光っています。中でもこだわったのが、LUT(ラット)という色編集の技術。
ちなみにLUTについて簡単に説明すると、みなさんもスマホなどで撮影した映像にフィルターをかけて、映画っぽく見せたり、レトロ調にしたりしますよね。LUTはそういった色調の加工をおこなうツールのことです。多くのドラマ制作では、専門的なカラーリストのスタッフが最終段階で担当する作業なのだそう。しかし同作に関しては技術スタッフが自分たちで意見交換しながらLUTを調整・共有し、撮影現場でも各部はそのLUTをもとにして臨んだとのこと。
山下さんは「みなさんが普段活用されている、撮影・編集機材やソフトに予め備わっているLUTは、使用できる場面が限定されてしまいます。多くの場合は、夜の場面なら夜、日中の場面なら日中にしか生かせないものばかり。そこで画作りに携わる技術スタッフ全員で、どのようなLUTが合うのか事前に考えて、ある程度、どの場面でも共通して使用できるLUTを作りました。照明部と、撮影の宮田くんが中心となって提案してくれました」と言います。
宮田さんは「木村淳監督の意向もあり、色のトーンは緑を軸にしました。緑色の映像は不気味さが表現され、『ロンダリング』の世界観にも合います。ちなみにオレンジ色などは温かみがあるので、作品の方向性とはずれてしまう。技術スタッフは監督がなにを目指しているのか汲み取ることが大切。今回はいろんな緑色のLUTを重ねながら撮影しました。しかし被写体となる俳優さんたちに緑色をのせるとホラーになる。このドラマはそうではないので、いろいろ調整しました」と色味の効果を話します。
藤原丈一郎さんの髪の毛の一本、一本が立体的に
現場にはいろんなカメラ機材が使用されます。撮影された映像は、機材によって色や雰囲気が異なります。そういった映像に統一感を持たせていくのが、VEを担当した大西祐輔さんの役割です。大西さんは「照明を12年やってきたのですが、VEの経験は撮影当時、まだ半年ほどでした。撮影の山下くんを中心に勉強会が開かれ、そこで分からないことなどを教えてもらいながら作業を進めていきました」と言います。そんな大西さんは、「スマホとテレビのどちらの機器で見ても両立できるよう、映像を調整していきました」と上がってきた映像を常に細かくチェック。
照明、撮影、VEなどが撮影前から色調整を綿密に行ってLUTを作っていったことで、たとえば夜の場面でもとても見やすい映像が仕上がりました。なかでも興味深かったのが、緋山鋭介役の藤原丈一郎さんの髪の毛の映り方。茶色い髪の毛が一本一本、立体感をもってとてもきれいに映し出されているのです。
撮影担当の山下さんが「基本は照明部のみなさんの力。僕たち撮影担当が最初に作ったLUTだと、髪の毛がやや潰れがちになっていました。しかし照明部のみなさんが提案してくださったLUTは、光の当て方なども細かく計算されていてとてもきれいに見えるものでした」と指摘すると、照明担当の小橋さんも「藤原さんの髪の毛が鮮やかに見えるのも、暗くしすぎないように考えてやっていった結果ではないでしょうか。それが、髪の毛に一本、一本に立体感を生んだのだと思います」と話します。
「藤原丈一郎さんたちの演技に応えなければいけない」
また4人は、異例のスピード感で撮影が進行していったことも明かします。ちなみに『ロンダリング』は次々とカットが切り替わるなど、とにかくカット割が多いドラマです。このカット数を実現させるには、撮影にかなりの時間と日数が必要になります。しかし実際はかなりタイトなスケジュールだったようです。宮田さんは「ドラマとしてやるべきことをやるために、技術スタッフも次の場面の撮影の動きを先回りして考え、準備を進めました。だらける瞬間を作らず撮影を進めていく、という意志を持ってやっていました」と言います。加えて「俳優さんたちのお芝居を、何度も、何度も、ぶつ切りで撮らないという意識でやっていました」と思い返します。
山下さんも「タイトなスケジュールでしたが、スピーディーに撮れたのは俳優さんたちの力が非常に大きいです。特に藤原丈一郎さんは、膨大なせりふをほぼNGなしで、一連で演じていかれました。宮田くんが話したように、あのせりふ量だったら本来、何度もぶつ切りで撮影します。しかし藤原さんたちが芝居を止めずにやってくださったので、ワンシーンの撮影時間がかなり短縮されました。俳優さんたちがそこまで芝居を固めてやってくださっているのだから、僕たちスタッフもそれに応えていかなければなりません」と出演者たちの気持ちに後押しされたのだそう。
VE担当の大西さんは「普通は台本1ページにつき、撮影は1時間から1時間20分はかかる。でも今回は1ページ40分でしたから。このスピードで撮影された現場は、僕は初めての経験でした。またVEとしては、各部署がiPadを活用して撮ったばかりの映像を共有し、すぐに確認できるようにしたのが大きい。持ち場から遠く離れたベース(撮影基地)までわざわざ行って確認して、戻るということをしなくて良くなった。すぐにチェックして『こうしてほしい』と連携がとれたのも、撮影が早く進んだ理由の一つです」とシステム面も良い影響があったようです。
『ロンダリング』は、事故物件に振り回される緋山たちの物語や、藤原丈一郎さん、大谷亮平さん、菅井友香さん、橋本涼さん(B&ZAI)ら出演者の演技が大きな見どころです。しかしその背景には、スタッフのみなさんのアイデアや撮影にあたっての心構えがあるのです。
インタビュー・文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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