草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第5話 レビュー
『地獄は善意で出来ている』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分~、フジテレビ/毎週木曜深夜0時45分~ )第5話は、それまで断片的に散りばめられていた違和感が、ふと繋(つな)がりはじめた回だった。
前科者たちが人生のやり直しをかけた「元受刑者特別支援プログラム」の真の顔である“被害者救済システム”で、二人目の制裁が静かに行われた。
更生の意志を示せなかった翔太(吉田健悟)が、被害者遺族の決定で殺されたのである。過ちを犯した者が、心を改めることはできないのか。裁きを下すことが、被害者にとっての救済になり得るのか。道を踏み外してしまったら、二度とやり直すことはできないのか。その答えはまだ出そうにない。
カトウ(細田善彦)から翔太のリタイアが告げられるものの、あまりに突然の出来事に、参加者たちは動揺を隠せない。そして、ひとつの疑問が浮かび上がる。もしかして、カトウはなにか隠しているのではないか。
最初に違和感を口にしたのは樹(草川拓弥) だ。部屋に残されていた“逃げろ”のメッセージに加え、翔太のものと思われるタバコが、箱ごと廊下に落ちていたのである。施設内は禁煙だが、翔太は監視の目を盗んではたびたび吸っていた。――そんな彼が、タバコを落としたまま気づかないものだろうか。
樹の推理は正しかった。前回の第4話で、最終テストに呼び出された翔太は、机の上に置き忘れたタバコに気づき、「あっ」と慌てて取りに戻っていた。その直後に彼は制裁を受けた。樹たちに残されたビデオレターも、カトウの指示で“合格者コメント”として撮ったものだ。
そしていよいよ、樹たちは、本作で一番怪しい男・カトウの素性を調べ始める。
さらに、樹が欲している“権利”が、戸籍であることも明らかになった。つまり樹は、無戸籍者として生きてきたのである。「高村樹」という名前も、戸籍の売買で手に入れたものだった。
このエピソードで、昔たまたま目にした無戸籍問題の番組を思い出した。樹のように、戸籍を持たないまま生きざるを得ない人は、決して少なくない。
2019年に法務省が発表した無戸籍者は830人とされているが、あくまでも把握できた人数にすぎず、実際には一万人以上にのぼると推定されている。戸籍がなければ、健康保険証や住民票、マイナンバーといった身分証が作れない。
つまり、身分を証明できる手段が一切ない。病院にも行けず、銀行口座も開けず、賃貸契約もできない。一般的な就業にも大きな制約が生じてしまう。
無戸籍者の背景にはさまざまな事情がある。経済的・家庭的事情から出生届を出せなかった場合だけではなく、いわゆる「離婚後300日問題」で戸籍の壁に阻まれるケースも多い。これまで、離婚から300日以内に生まれた子どもは、法律上“前夫の子”として届け出なければならなかったため、新たなパートナーとの子であっても、届け出をためらい、結果的に無戸籍となった例も多いという。
※2024年4月の民法改正により、離婚など婚姻解消の日から300日以内に生まれた子どもであっても、母親が前夫以外の男性と再婚した後に生まれた子どもは、法律上、再婚後の夫の子どもとしてみなされるようになりました。
本作でも触れられていたが、さらに深刻なのは、そうした困難に直面する人たちが、正しい情報にアクセスしづらいことだ。
情報収集する手段がなく、頼れる人もおらず、SOSを出す術もわからない。なんらかの支援策があったとしても、なかなかそこへ辿(たど)り着けず、樹のように、気づいた時には手遅れになってしまう人も多いだろう。
だが、予期せぬところから道が開けることもある。その特集では、ふとテレビで流れていた報道番組をきっかけに支援団体の存在を知り、実際に戸籍を取得した例が紹介されていたのだ。
樹の過去を知った3人は、あまりの重さに息をのみ、「絶対に合格しよう」と心をひとつにする。容赦のない展開が続いているものの、この出会いが樹の“救い”になるのではないか。彼らが生きる地獄に、ほんのわずかな光が射した瞬間だった。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』5話 一ノ瀬夢愛(井頭愛海)、立花理子(渡邉美穂)、高村樹(草川拓弥)、小森琥太郎(高野洸)
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一方その頃、どこか含みのある笑みを浮かべながら、カトウはモニター越しに参加者たちの姿を眺めていた。彼の口から飛び出した“裏切り者”とは、一体誰のことなのだろうか。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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