草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第6話 レビュー
過ちを犯した若者たちが、人生のやり直しをかけて挑む「元受刑者特別支援プログラム」を描いたドラマ『地獄は善意で出来ている』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分~、フジテレビ/毎週木曜深夜0時45分~ ) も、いよいよ折り返しに入った。善意から差し伸べられたはずの一世一代のチャンス──その正体は、被害者が加害者に制裁を加える「被害者救済システム」だ。
第1話では、窃盗罪で逮捕された元ジムトレーナー・統晴(佐伯大地)が、被害者である画家の判断により、目を焼かれて亡くなった。第4話では、闇バイト組織のブレーンだった翔太(吉田健悟)が、深い悲しみに沈む遺族によって、制裁を受けた。残された参加者は、樹(草川拓弥)、琥太郎(高野洸)、理子(渡邉美穂)、夢愛(井頭愛海)の4人。ここで、ひとつの疑問が浮かぶ。「元受刑者特別支援プログラム」と表裏一体の「被害者救済システム」は、被害者の判断によって加害者の運命が決まる。いわば“死”のボタンを押す人物が、参加者一人につき存在するということになる。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』6話 立花理子(渡邉美穂)、一ノ瀬夢愛(井頭愛海)、小森琥太郎(高野洸)、高村樹(草川拓弥)
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すでに裁きを受けた二人には、明確な被害者がいた。孫娘の結婚式を控えていた老人は、翔太が指示した闇バイトの実行役の若者たちに殺された。統晴と翔太は、被害者と被害者遺族から報復を受けたのだ。
第6話では、その謎が少しずつ紐解(ひもと)かれてゆく。ふたたびスポットライトが当たったのは、恋人代行の男に唆され、身体の関係を迫っては金銭を巻き上げていた夢愛だ。
戸籍のない状態で生きてきた樹と同様に、彼女もまた「選択肢を持ち得なかった」子どもだったのである。育児放棄をした父母に代わり、幼い弟と妹の面倒を見るしかなかった。そんな日常から逃げるように家を飛び出したある日、ふと優しくしてくれた行きずりの男との間に、子どもを授かってしまったというのだ。
誰からも守られぬまま、大人にならざるを得なかった夢愛。壮絶な過去を悲観するのではなく、当たり前のように語る姿が、かえって胸を締め付ける。もし、親が“普通”だったら。手を差し伸べてくれる大人がいたら、と考えずにはいられない。
複雑な感情を抱えるのは、筆者だけではなかった。モニターを通して、夢愛の姿を見つめる真琴(遊井亮子)である。――彼女こそが、夢愛の“裁き”のボタンを握る人物なのだ。
もう一人、気になるのが琥太郎だ。絶対に何なにかありそうなのにるだろうなと勝手に思ってはいるものの、いかんせん彼については、具体的なエピソードがほとんど明かされていない。資産家の息子である彼は、親の金で開いたドラッグパーティーをチクられて逮捕された。親からは絶縁され、遺産相続からも外されたという話なのだが、本当にそれだけ……?樹も言っていたように、そんなパーティーを開くような人物には見えないのである。爽やかな高野洸の笑顔を、どうしても信じたくなってしまう。薬物使用で捕まったのだとすれば、彼の“裁き”のボタンを押すのは一体誰なのか。
さらに、カトウ (細田善彦) の言う「裏切り者」の正体も明かされぬままだ。謎が解けたと思えば、同時に別の謎が浮上する。安易な考察を許してくれないドラマだ。
「あなたは暴走するトロッコに乗っています。このままだと作業員5人を轢(ひ)いてしまいます。レバーを引けば、5人は助かりますが、別の線路にはもう1人いるためその人が犠牲になってしまいます。さて、どうしますか?」
思考実験で問われた琥太郎のように、我々視聴者もまた、運命に身を委ねるしかないのかもしれない。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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