夢愛 (井頭愛海)の罪と罰、「大人」になることを強いられた“ヤングケアラー”の悲しい末路【ドラマ・地獄は善意で出来ている】

2025.11.28

夢愛 (井頭愛海)の罪と罰、「大人」になることを強いられた“ヤングケアラー”の悲しい末路【ドラマ・地獄は善意で出来ている】

草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第7話 レビュー


「樹も一ノ瀬も、まともな環境だったら罪を犯さなかったのかな」


琥太郎(高野洸)がぽつりと呟(つぶや)いた一言が、妙に胸に残っている。罪を犯した若者たちが人生の再起をかけて挑む「元受刑者特別支援プログラム」もとい、被害者が加害者を裁くための「被害者救済プログラム」。道を踏み外してしまった彼らの過去が明かされるたびに、頭によぎる疑問でもあった。

傷害罪で逮捕された樹(草川拓弥)は、親から捨てられ、出生届も出されないまま、無戸籍者として、社会から存在を認められずに生きてきた。美人局を繰り返していた夢愛(井頭愛海)は、幼い弟妹の面倒を見ながら、大人になることを強いられたヤングケアラーだ。

だからといって、彼らの罪を許容することはできない。──だが、琥太郎のように裕福な家庭に生まれていたら。理子(渡邉美穂)のように、そのままの自分を受け止めてくれる両親がいてくれたら。存在するはずのない“もしも”に想いを馳(は)せずにいられない。  
『地獄は善意で出来ている』(カンテレ/毎週木曜深夜0時15分~、フジテレビ/毎週木曜深夜0時45分~ )第7話は、人が人を裁く「被害者救済プログラム」の危うさを、あらためて突きつけられた回だった。前回明らかになったのは、実年齢より幼く見える夢愛に子どもがいたこと。見知らぬ男性との間に子を授かった夢愛は一人で出産したものの、責任の重さに耐えられず、“永愛”と名付けた子どもを施設に置き去りにしてしまったのだ。

そんな劣悪な環境で生きざるを得なかった夢愛にも、ひとりだけ頼れる“良い大人”がいた。美人局の被害者であった鏑木(山口森広)である。そして皮肉にも、彼女の“裁き”のスイッチを握っていたのは、鏑木の妻・真琴(遊井亮子)だった。
ここでひとつ、引っかかったことがある。「鏑木は本当に“良い大人”だったのか」という点だ。

小さな町工場を営む鏑木は、行き場を失った夢愛に声をかけてくれた。誕生日を祝ってくれたこともある。夢愛と同年代の子を持つ父親という立場もあり、気にかけてくれていた。恋人代行業のカイ(山下永玖)に言われるがまま、体を売っていた夢愛にとって、性的欲求を向けることのない鏑木は、“信頼できる大人”に思えたのだという。

だが、たとえ肉体関係がなかったとしても、まだ未熟な夢愛に“救い”を求めていた鏑木には、どうしても危うさを感じてしまう。だからこそ、乱暴な言葉ではあっても、樹の「無責任な野郎だな」という指摘が入った瞬間、どこかほっとしたのだ。

むしろ、夢愛にとっての“良い大人”は、鏑木ではなく真琴だったのかもしれない。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』7話 一ノ瀬夢愛(井頭愛海)

ドラマ『地獄は善意で出来ている』7話 一ノ瀬夢愛(井頭愛海)

娘は不登校となり、鏑木と真琴は近所でウワサに…追い詰められていった鏑木は、 最終的に自ら命を絶った。そんな背景がありながらも、真琴は夢愛本人と向き合おうとしていたのである。しかし、生前の鏑木の想いを知り、嫉妬に駆られた真琴は“裁き”のスイッチを押してしまうのだ。

結果的に、被害者遺族である真琴に夢愛は赦されなかった。しかし、「元受刑者特別支援プログラム」という観点で見れば、もっとも成長したのは夢愛だったのではないだろうか。
いまの自分の幸せしか考えず、衝動的だった夢愛が、仲間たちの願いが叶(かな)うようにと編んだミサンガ。理子が塗ってくれたネイルが視界に入った瞬間、噛(か)み癖をふと躊躇(ためら)った瞬間。いずれも大人になりきれなかった夢愛が、「誰かのために」「自分を大切にするために」踏み出した大人になるためのささやかな一歩だった。

なによりも胸を衝かれたのは、前回のトロッコ問題で夢愛が語っていた「もし線路に永愛がいたら永愛を助けるって答えられるような人間になりたい」 という願いが、このような形で果たされてしまったことである。天真爛漫(てんしんらんまん)だった彼女の死は、樹たち参加者だけでなく、“裁き”のスイッチを押した真琴自身にも、深い影を落とすことになるだろう。
もう一人、気になるのが琥太郎だ。絶対に何なにかありそうなのにるだろうなと勝手に思ってはいるものの、いかんせん彼については、具体的なエピソードがほとんど明かされていない。資産家の息子である彼は、親の金で開いたドラッグパーティーをチクられて逮捕された。親からは絶縁され、遺産相続からも外されたという話なのだが、本当にそれだけ……?樹も言っていたように、そんなパーティーを開くような人物には見えないのである。爽やかな高野洸の笑顔を、どうしても信じたくなってしまう。薬物使用で捕まったのだとすれば、彼の“裁き”のボタンを押すのは一体誰なのか。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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