遺品整理を題材にしたドラマ『終幕のロンド―もう二度と、会えないあなたに―』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜よる10時)の第7話が11月24日に放送されました。
余命3ヶ月の鮎川こはる(風吹ジュン)の生前整理をきっかけに出会った、シングルファーザーの遺品整理人・鳥飼樹(草彅剛)とこはるの娘・御厨真琴(中村ゆり)。樹はこれまで、お互いに素直になれなかったこはると真琴の親子関係を優しく見守ってきました。さらに真琴は、大企業である御厨ホールディングスの次期社長候補である利人(要潤)との冷え切った夫婦関係に悩んでいたこともあり、温かい心の持ち主である樹に徐々に心を許していきます。
第7話では、そんな樹と真琴の仲に進展が見えます。樹の息子・陸も真琴に懐いている様子で、その姿はまるで家族のよう。そして真琴はついに、利人に対して離婚の意思を示すことに。しかし利人はそれを拒否。一方で、樹が働いている遺品整理会社「heaven’s messenger」でもさまざまな出来事が起きます。新人社員の高橋碧(小澤竜心)が闇バイトに手を染めかけてしまい、怪我を負ってしまうのです。さらに碧を我が子のように可愛がる社長・礒部豊春(中村雅俊)にも、ある決断が迫られます。
▶生きる上で避けられない「喪失」と「前進」
第7話では「喪失」と「前進」という、人が生きるうえで避けられないテーマが丁寧に描かれていたのではないでしょうか。
『終幕のロンド』はこれまでも、遺品整理というテーマを背景に、残された人たちが喪失を経験しながら、それでも何とか前へ進む姿が描かれていました。それは遺品整理の依頼人たちだけではなく、樹が勤めている「heaven’s messenger」の社員たちも同様でした。
樹は5年前に亡くした妻との思い出を大切にしながら、しかし真琴と出会ったことで、気持ちを前へ進めていきます。真琴もまた、利人との夫婦関係に行き詰まりを感じていましたが、樹がかけがえのない存在になっていき、新しい人生を歩もうと考えます。二人はそれまで、自分たちの境遇や立場もあって気後れするところが大きかったはず。しかし樹は仕事として、真琴は娘として、やがて必ず来るこはるの死という「喪失」と向き合うことで、お互い前進することを決めるのです。それが「大人の恋愛」という形へ発展していきます。
「heaven’s messenger」の社長・礒部豊春と妻・美佐江(大島蓉子)も大きな「喪失」を抱え、その穴を埋められず生きています。その「喪失」とは、息子・文哉の死――。
文哉はかつて、御厨ホールディングスの系列会社・御厨ホームズで働いていました。しかし在職中、自ら死を選びました。豊春は社長として明るくしっかり振る舞っていますが、ふとしたときに文哉の面影を碧に重ねてついつい名前を呼び間違えてしまいます。また美佐江も、文哉の服を碧にプレゼントします。そういう姿からも、二人の時間が文哉の死から止まっていることが分かります。
▶︎「私の前ではがんばらなくていい」という言葉
そんな豊春と美佐江の“心の成長”が第7話では感動的に綴(つづ)られました。きっかけは、闇バイトに加わりかけながら、思い直して抜け出した碧の真意を知ったこと(ちなみに厳密には碧は、その仕事が闇バイトとは知りませんでした)。
碧は、昔の仲間から「稼げる仕事」の話をもらいます。しかし最初は、「heaven’s messenger」に就職したことを理由に誘いを断ります。しかし参加を決めたのも、少年院から社会復帰した自分を受け入れてくれた「heaven’s messenger」の経営状況などを慮ってのこと。そして土壇場で闇バイトから抜けたのも、「昔の仲間ではなく、今の仲間」を思ってのこと。つまり碧の行動は、過去に縛られず、“今”という時間を生きるための決意なのです。
豊春と美佐江はそれを知って、文哉でできた「喪失」を、碧で埋めようとしていたことに気づくのです。そして豊春は「文哉は文哉、碧は碧」と口にします。豊春と美佐江の人生がようやく前進した瞬間でした。
さらにもう一つ、豊春は大きな決断を下します。それは文哉の死にも関連する、御厨ホームズで相次ぐ不審死 に対する集団訴訟に加わること。豊春は、社長である自分が集団訴訟に加わってしまうと「heaven’s messenger」の仕事に影響が出て、社員にも迷惑がかかるのではないかと危惧し、躊躇(ちゅうちょ)していました。それでも戦うことを決意した豊春からは、前へ進もうとする人間の強さを感じさせます。
「喪失」と「前進」が描かれた、第7話。ただ、人ってそんなに強く居続けられないですよね。「喪失」と「前進」の過程で必ず傷つくことがあります。そんなとき、終盤で樹が真琴にかけた一言が胸に響きます。「笑わなくていいです、私の前ではがんばらなくていいですから」――。
人は、一人でも前へ進むことはできます。でも、誰かがそばにいてくれるだけで、心の支えはまるで違うものになる。強さだけではなく、弱さも分かち合える存在がいれば、私たちはもっと前へ進む勇気を持てるのではないでしょうか。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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