「どうして、好きな人を好きって言っちゃいけないんですか?」ドラマ『GTO』第10話で鬼塚英吉(反町隆史)が見守った16歳の恋

「どうして、好きな人を好きって言っちゃいけないんですか?」ドラマ『GTO』第10話で鬼塚英吉(反町隆史)が見守った16歳の恋
次週で最終回を迎えるドラマ『GTO』(毎週月曜 午後10:00~/カンテレ・フジテレビ系全国ネット)。その第10話が9月21日に放送されました。
第9話では、1年B組のクラスチャットで担任の鬼塚英吉(反町隆史)の評判を落とす書き込みを行なっていたのが、生徒の芦田綾乃(堀口真帆)だったことが判明。ただ、そんな綾乃は高校受験で志望校に落ち、私立誠進学園に入学した過去を引きずっており、さらに家庭内では居心地の悪さを感じていました。そんな自分を後ろ向きに捉えていた綾乃でしたが、鬼塚や副担任の柏原実央(生見愛瑠)は自分の可能性を信じることの大切さを伝えます。そして綾乃も、ようやく前を向くことができました。

第1話では誰もがタブレットに視線を落とし、鬼塚の方を見ていませんでした。しかし第10話では、ほぼ全員が前を向き、表情も晴れやかになりました。ただ、若槻琴音(梶原叶渚)はそんなクラスの雰囲気に馴染(なじ)めません。彼女は第3話で、クラスメートの吉田歩夢(川口和空)から想いを寄せられながら「恋愛ってコスパが悪いし、面倒くさいことばっかり」「そんな無駄なエネルギーを使ってる暇あったら、本読んでいた方が全然いい」と恋愛を拒否していました。ただ、彼女には好きな相手がいたのです。それは、鬼塚の元教え子で誠進学園の出向職員・宮澤龍之介(工藤阿須加)でした。
『GTO』第10話 反町隆史、梶原叶渚、工藤阿須加

『GTO』第10話 反町隆史、梶原叶渚、工藤阿須加

素直に“好き”と言えない現実的な事情

琴音は16歳、龍之介は35歳。琴音が龍之介を強く愛していることははっきりうかがえ、龍之介もまた彼女を大切に想っていることが分かります。ただ、そんな二人の関係を“禁断の愛”というもっともらしい言葉でくくることは、はばかられる気がします。やはり琴音と龍之介の間には、“未成年と大人”、“生徒と学校職員”という現実的な問題があるからです。龍之介も立場の違いを認識しており、深く踏み込むようなことはせず、琴音と距離をとろうと努めます。

一方で、学校外で二人きりで会ったことも何度かあり、琴音は「付き合ってるんじゃないの、私たち?」と考えていました。彼女は聡明(そうめい)な生徒です。しかしその分、芽生えた疑問を解消するためには、それ相応の納得できる理屈を求めるタイプでもあります。ですので、立場の違いがあったとしても、「好き」という人間的かつ自然発生的な感情を、なぜそのまま表に出してはいけないのか。琴音には、その理屈が簡単には受け入れられません。

第10話では、そんな琴音の「どうして、好きな人のことを好きって言っちゃいけないんですか?」という言葉が、重く感じられます。そこには、素直に「好き」と言ってはいけない現実への疑問。ひいては、自分の感情だけでは行動を決められない“大人の社会”への戸惑いが表れているのではないでしょうか。
『GTO』第10話

『GTO』第10話

「恋愛はコスパが悪い」と言っていた琴音の変化

鬼塚や柏原、そして当事者である龍之介も、琴音の気持ちは理解しつつ、しかしそれを直接的に受け止めることはできません。なぜなら“大人”だからです。読者のみなさんもそうかもしれませんが、仕事でも恋愛でも、大人になると、自分の感情や欲求をそのまま行動に移すわけにはいかない場面が増えていきます。「こうしたい」と思っても、立場や責任、相手への影響を考え、自分自身を抑えこむ必要も出てきます。

第10話の巧みさは、琴音の抑えきれない感情や、鬼塚や柏原、龍之介の大人の立場をいずれも否定せず、ラブストーリーを生み出そうとしていたところです。
『GTO』第10話 工藤阿須加、梶原叶渚

『GTO』第10話 工藤阿須加、梶原叶渚

そこでオマージュされたのが「月が綺麗(きれい)ですね」です。この言葉には、夏目漱石が英語教師をしていたとき、「I love you」を日本人らしく「月が綺麗ですね」と訳したとされる有名な逸話があります。それが後に、直接的ではない奥ゆかしい愛情表現として知られるようになりました。

第10話では、大人社会は感情を直接的に表せない場面も少なくないからこそ、別の言葉や行動に置き換えることで、その気持ちを伝えようとします。例えば、鬼塚と龍之介が意見を戦わせ、殴り合いに発展しそうになっても、二人は手を出しません。鬼塚はかつて暴走族で、ケンカをたくさんやってきましたし、1998年版ではハードな指導も見せていました。しかし、今は誰かを殴るようなことはしないと決めたと言います。一方の龍之介も少年時代はヤンチャでしたが、現在はそうした一面がほとんど見られません。そんな二人はここで、肉体的ではなく心と心をぶつける“殴り合い”をするのです。
『GTO』第10話 反町隆史、工藤阿須加

『GTO』第10話 反町隆史、工藤阿須加

「月が綺麗ですね」は、そんな第10話の展開を象徴する言葉でした。琴音と龍之介は「月が綺麗ですね」という一言で気持ちを確かめ合います。“未成年と大人”、“生徒と学校職員”という現実を受け止め、琴音が社会に出るまでは「月が綺麗ですね」でつながることを決めたのです。第3話で「恋愛はコスパが悪い」と言い、本を読む方がいいと話していた琴音。その彼女が、最後には文学的な表現を通して自分の恋愛と向き合うことになるのも興味深いところでした。

琴音は「どうして、好きな人のことを好きって言っちゃいけないんですか?」と問いかけた、第10話。そこで導き出された答えは、「好きになってはいけない」ではありませんでした。「好き」という感情は否定せず、しかし立場や責任から目を背けることもしない。その上で、どのような形なら相手とつながっていけるのかを考える。「月が綺麗ですね」は、そんな大人なりの答えだったのではないでしょうか。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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