万博きっかけで日本とオマーンをつなぐ料理。大阪の料理人が教えてくれた、和食の奥深さ

2025.10.15

万博きっかけで日本とオマーンをつなぐ料理。大阪の料理人が教えてくれた、和食の奥深さ
『大阪・関西万博』をきっかけに、世界中から各国要人が相次いで来日しました。中東のオマーン国からはジーヤザン皇太子が日本を訪問。その際には、「大阪市立美術館」(大阪市天王寺区)を貸し切った100人規模の晩餐(ばんさん)会が開催され、日本とオマーンの文化が溶け合う「フュージョン料理」を満喫しました。

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◆「型通り」にこだわらない、柔軟な和食の精神

その「フュージョン料理」に尽力したのが、大阪の日本料理界を牽引する室田大祐さん。一般社団法人大阪府日本調理技能士会の会長(代表理事)として、和食の技術を未来へつなぐ活動に情熱を注いでいます。最近では、イスラム教の戒律に沿ったハラール食や、高齢の方でも安心な「嚥下食(えんげしょく)」の普及にも力を入れています。

そして、この晩餐会を室田さんとともに成功に導いたのが、大阪を代表する格式高い料亭「料亭 天王殿」の料理長、藤丸道幸さんです。スパイスを豊かに使うオマーン料理と、「侘び寂び(わびさび)」の美意識が息づく日本料理。一見すると正反対に見えるこの2つの食文化を、どう融合させたのでしょうか? おふたりにお話を伺いました。
オマーン国の晩餐会における尽力から、感謝状を授与される大和一人さん、島田和明さん、山口滋己さん(2025年10月・大阪市内)

オマーン国の晩餐会における尽力から、感謝状を授与される大和一人さん、島田和明さん、山口滋己さん(2025年10月・大阪市内)

◆文化や歴史も考慮、型通りでない料理の融合

今回、晩餐会で披露された「フュージョン料理」は、オマーン国の料理人であるディナマキさんと室田さんが何度も打ち合わせを重ねてメニューを考案された、まさに一期一会のお料理です。

藤丸さんは当初、「オマーン料理がどんなものか、全くわからなかった」と正直な気持ちを話してくれました。しかし、「私たち“おいしい!”と感じる日本料理の良さを大切にしながら、そこにスパイスを加えていく、という感じでした」と振り返ります。オマーン国で好まれる独特の酸味が特徴のタマリンドなど、スパイスもフレキシブルに取り入れたそうです。

(ディナマキさんが自身のインスタグラムに、試作から晩餐会当日の様子が分かる映像をアップしています)
 
よく「引き算の料理」と言われる日本料理。スパイス料理とは正反対のような気もしますが、藤丸さんはとても柔軟な考えを持っています。

「最近はインバウンド需要も多く、海外からのお客さんのなかにはビーガン(完全菜食主義)やベジタリアンの方が結構いらっしゃいます。でも、日本には(平安時代から続く)精進料理もありますよね。そう考えると、そこまで違うものではないと思います」と語ってくれました。型通りに作るだけが料理ではない。食文化の本質を教えてくれる言葉です。

「日本の気候や土地柄、そして、海の幸・山の幸があって、それに適した調味料、味噌(みそ)やみりん、しょう油などが現代まで残っています。それはオマーン国も同じで、中東の暑い国で、スパイスや塩分を求める食文化があるんだと思うんですね。ですから、味だけでなく、生き方やあり方も関係してくると思います」(藤丸さん)
一般社団法人大阪府日本調理技能士会会長の室田大祐さん(左)と、同会の専務理事で、「料亭 天王殿」料理長の藤丸道幸さん(2025年10月・大阪市内)

一般社団法人大阪府日本調理技能士会会長の室田大祐さん(左)と、同会の専務理事で、「料亭 天王殿」料理長の藤丸道幸さん(2025年10月・大阪市内)

◆守り伝えたい「ほんまもんの日本料理」

室田さんは、今回の経験を「すごく勉強になった」と語ります。「晩餐(ばんさん)会の最後、皇太子がわざわざシェフに会いたいと立ち上がり、『大変おいしかった。ぜひ文化交流をお願いしたい』と言ってくださったんです」と、感激の瞬間を振り返ります。もちろん、短い時間でメニューを練り上げ、会場や器まで準備するのは、並大抵のことではなかったそうです。

「日本料理を世界に発信したい、その想いで踏ん張っています」と力を込める室田さん。「海外では、日本料理が本当に求められています。だから今、あちこちからハラールについて教えてほしいと呼ばれますし。ただ、その一方で“なんちゃって”も多い。だからこそ、“ほんまもん”の日本料理の技術と文化、歴史を正しく伝えていきたいんです」と言います。

その熱意から、料理人にとって欠かせない食材調達のため、お米の水耕栽培まで手掛けているといいます。「これは日本人魂ですね」と力を込める室田さんからは、和食を未来へつなぐ強い使命感が伝わってきました。
室田大祐さん(中央)が師範をつとめる「四条上方流 庖丁式」の様子、平安時代から伝わる厳粛な宮中儀式で日本料理の伝統継承にも尽力しています(2025年10月・大阪市内)

室田大祐さん(中央)が師範をつとめる「四条上方流 庖丁式」の様子、平安時代から伝わる厳粛な宮中儀式で日本料理の伝統継承にも尽力しています(2025年10月・大阪市内)

◆「見えないところ」まで整える、和食の美学

グローバル化が進む中で、料理人として大切にしていることを藤丸さんにも尋ねました。返ってきた答えは、「基本は、身なりです」。

「爪は伸びていないか、髪は整っているか、白衣や前掛けは清潔か。調理場にゴミは落ちてないか。包丁などの道具を整えるのは、その後なんです。それができて初めて、食材と向き合える。お客さまからは見えないからこそ、そこを大事にするんです」(藤丸さん)

礼儀作法や着付けには室田会長は特に厳しいと話す藤丸さんの言葉に、日本の料理が技術だけでなく、心と精神性から成り立っていることを改めて感じました。

取材・文:服部崇(di;hype)
関西在住のウェブディレクター&編集者。音楽や映画のインタビュー、イベントの企画立案なども。
miyoka
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