近年、多くの寺社が公式SNSのアカウントを運営し、さまざまな情報を発信する時代になりました。今の時期は紫陽花(アジサイ)を含め、境内に咲く四季折々の花々や風景の写真がオシャレ過ぎる(美しい!)と注目を集め、フォロワー数が年々増えている奈良県内の5つの寺院(般若寺、岡寺、室生寺、長谷寺、壺阪寺)をご紹介します。
実は…オシャレな写真の撮影者は、なんとお坊様!インスタで注目を集め続ける秘訣や撮影について、各寺院の撮影を担当するお坊様に伺いました。
(トップ画像は般若寺)
般若寺(奈良市) まるでアート!SNSで全国に広まった初夏のアジサイガラスボール
もともとは、境内に15万本30種類のコスモスが咲くことから、県内屈指の「コスモス寺」として知られている般若寺(奈良県奈良市)。秋のコスモスだけではなく、夏コスモス、さらには、初夏のアジサイが約1500株も咲き、冬も水仙が境内を彩るほど、四季を通じてお花が美しい、飛鳥時代創建の古刹(こさつ)です。
2019年から本格的にスタートしたインスタ運営と写真撮影を担当するのは、工藤顕任(くどうけんにん)住職。「“花の寺”として、風景や季節ごとの変化をより多くの方々に写真を通じて伝えたくなり、特に見頃の景色を多くの人にお届けするために撮影をし、インスタの活用を始めました。
インスタ活用当初から、「写真がオシャレ」と人気になり、フォロワーを着実に増やしていましたが、大きな転機となったのが、2021年初夏から始めた「アジサイガラスボール」です。
球体ガラスの器にアジサイの花を入れた花手水で、このユニークなアイデアと工藤住職が撮影したアートのようなアジサイガラスボールの写真がインスタをはじめとするSNSでバズって注目を集めました。
アジサイガラスボールを目当てに、若年層のカップルや家族連れにも広がり、老若男女問わず多くの人々が訪れるように。「きっかけはさまざまですが、多くの方々にお越しいただけるようになったことは本当にうれしく、 それぞれが花を通じて感じる心の潤いを持って帰っていただけることが、何よりの喜びです」(工藤住職)
19歳頃からカメラを始めた工藤住職は、本格的に学んだことはなく、すべて独学なのだそう。カメラ歴は約20年で、「感覚を大切にしながら撮影しています。写真や絵を観ることが好きで、その中からインスピレーションを得て、学びを深めています」と語ります。
そして、「花の盛りや朝の柔らかな光など、タイミングを意識して撮影することもありますが、単に「きれいだから撮る」というよりも、“命が輝いている瞬間”を感じたときに撮影することが多いです。例えば、雨に濡れたアジサイの葉が光を受けて輝いていたり、境内に差す西日を浴びて一輪だけ咲いていたりする瞬間などに出会うと、“この瞬間を伝えたい”と強く思い、その感動をインスタで投稿しています」と、撮影秘話を教えてくれました。
インスタ僧侶が伝授する撮影のコツ
「アジサイガラスボールのガラスの輝きと花の美しさが絶妙にマッチしているので、ガラスの輝きと花の色を引き立てることがポイントです。アジサイガラスボールが並ぶ姿も非常に美しいので、全体のバランスを考えて撮影するのもおすすめです。それでも、各々が「これがきれいだ!」と思った瞬間を楽しみながら、自分なりの視点で撮影することが、一番素敵な写真を撮るコツだと思います」(工藤住職)
岡寺(明日香村)インスタも全国に広がる「花手水」もさきがけて、今年で祝10年
奈良県明日香村の岡寺といえば、日本で最初の厄除け霊場として知られるだけでなく、フォトジェニックな「花手水」のさきがけのお寺として、ご存じの方も多いことでしょう。
同寺は2015年春から、全国にさきがけて、手水舎の手水鉢(ちょうずばち)に花を浮かべた花手水である「華の池・華手水舎」を始めました。そして、まだインスタを導入している寺院がほとんどなかった2015年11月から、インスタ運営をスタート。世の流行りやセンスをいち早くキャッチし、取り入れた柔軟さがキーポイントでした。
花手水は、今でこそ全国の寺社に広まりましたが、同寺がインスタにアップした頃は、他で目にする機会はほぼなく、華やかで映える写真がたちまち注目を集め、インスタ女子を中心に話題に。
岡寺は檀家がなく、巡礼者と祈願者によって支えられているお寺なので、インスタを始めた理由について、「1300年受け継がれてきたこの寺院を護持していくため」と川俣海雄(かわまたかいゆう)副住職。
「もっと広く皆様に岡寺のことを知っていただく方法ないだろうかと試行錯誤している中で知ったのがインスタでした。このオープンで、写真を中心に載せていくシンプルなアプリであれば、岡寺のことを知らない人にも目にしてもらい、興味を持って実際にお越しいただく機会が増えるのではないかと思い始めました」と説明します。
撮影時に川俣副住職がもっとも大事にしているのは、「岡寺にいる僧侶の目線」。学生時代からカメラは好きで、住職(川俣副住職の父)が昔使用していたフィルムカメラを借り、写真を撮っていましたが、本格的に写真を学んだ経験は無いのだとか。
カメラ歴は約25年で、「春のシャクナゲや天竺牡丹(ダリア)を池や手水舎に浮かべるシーズン、紫陽花シーズン、紅葉シーズンなど境内がきれいに彩られる時期は、広く皆様にご興味を持っていただき、実際に岡寺にご参拝に来ていただければという思いで投稿しております」と語ります。
インスタ僧侶が伝授する撮影のコツ
「お花自体は、午後よりも午前の方がシャキッとして元気があり、気温が高くなりすぎる前の午前中がおすすめです。あと、雨との相性もいいので、しっとりとした感じでアジサイを撮るのもおすすめです」(川俣副住職)
室生寺(宇陀市) 写真家・土門拳が愛した聖地は、どこもかしもフォトジェニック
室生寺(奈良県宇陀市)と言えば、戦後の日本を代表する写真家・土門拳(1909~90年)が愛し、足繁く通った寺としてご存じの方も多いのでは?
2016年からインスタをスタートした室生寺。2.5万人ものフォロワーがいます。現在、写真撮影をおこない、インスタを担当しているのが教化広報執事の山岡淳雄(やまおかじゅんゆう)師です。
同寺がインスタを始めた理由について、「さまざまな人に室生寺の魅力を知ってもらうためです」と説明します。
インスタ掲載のフォトジェニックな写真について、「特に強いこだわりがある訳ではありませんが、数枚同じカットの写真を撮影し、その中から自分の中でこれだ!と一番良いと思う写真を選んでおります」と山岡さん。
カメラを学んだ経験は無く、自分でカメラを触って色々試しながら、自己流で写真撮影をしているという山岡さんは、花の盛りのシーズンやお寺の行事(行事日程)の告知でインスタに写真を掲載することが多いそう。「毎日少しずつ違う雰囲気を感じますので、この風景を皆さんに見ていただきたいと思った時や、空いている時間に境内を歩きながらその時の気分で撮影をしております。また、撮影をしながら、写真をご覧になられている方々に気持ちがホッとしていただけるようなコメントを考えながら撮影をしている時もございます」と思いを語ってくれました。
確かに、現在開催中の『大和観音 あぢさゐ回廊』(2025年7月6日(日)まで)紹介のインスタ画像には、「微笑み地蔵様の周りにもあじさいを並べております。この時期のお地蔵様のお顔が1番微笑んでいるように思います」とのコメントが添えられ、なんだかホッとして幸せな気持ちに。
インスタ僧侶が伝授する撮影のコツ
「アジサイの背景に池、仁王門が入るように撮影するのがおすすめです。スマートフォンでも十分良い写真が撮影できると思います。室生寺は、写真家・土門拳さんが愛してくださったお寺です。写真撮影が好きな方がたくさんご参拝されますので、逆にポイントをお聞きしたいくらいです(笑)」(山岡さん)
長谷寺(桜井市) 圧倒的なフォロワー数を誇る「花の御寺」
インスタのフォロワー数が6万人を誇り、県内でも指折りの大人気インスタを運営している長谷寺(奈良県桜井市)。150種・約7000株の牡丹(ボタン)をはじめ、サクラ、シャクナゲ、アジサイ、紅葉と春夏秋冬いつ訪れても美しい「花の御寺」として知られています。
まだ寺院の公式インスタ運営がめずらしかった2016年5月から開始し、圧倒的な写真の美しさで多くのファンや参拝者を魅了してきました。
このインスタと写真撮影を担当するのが、長谷寺教務部の瀧口光記師。インスタを始めた理由として、「私が奉職し始めた頃、参拝者は年配の方が中心でした。若い方が年配になると来るようになるか?と考えた時、長谷寺を知らなければ年配になっても来ない、今知ってもらうしかないという思いがありました。写真がメインのSNSなら長谷寺の魅力を伝えるには一番良い方法だと考えたからです」と説明します。
瀧口さんがすごいのは、近年、プロカメラマンやSNS運用代行会社に委託してアカウント運営する寺院も多い中、たった一人「中の人」として、フォロワーを6万人集めたこと。インスタ僧侶として、さまざまなメディアにも登場しています。撮影のポイントは、自分のお気に入りのカメラとレンズを使用していることなのだとか。「気に入って使っているというところが写真に出ているのかもしれませんね」(瀧口さん)
インスタを始めてから、参拝者が増え、特に若い方が増えたと感じるそう。さらに、インスタで直にメッセージのやり取りや悩みなども聞くことで、長谷寺と参拝者との距離が縮まったとも感じているそうです。
20歳のインド旅行がきっかけで、デジタル一眼レフを購入し、24歳から本格的に始めた瀧口さんの写真歴は約20年。「写真の教本などで独学し、フィルムカメラから仕組みを理解して、フィルム現像と印画紙への焼き付けを自分でして楽しみながら学びました」と語ります。
「日常で起こった特別にきれいなこと、長谷寺にいても稀に起こる現象などがあれば皆さんに見てもらいたいなと思いながら(写真を)上げています。メッセージなどは出来るだけ簡素にして、写真を見て感じてもらい、音楽に乗せて上げています」と、撮影秘話ともいえる思いを教えてくれました。
インスタ僧侶が伝授する撮影のコツ
「(大和観音 あぢさゐ回廊が開催中なので)アジサイは紫色、水色、そして緑色が多いので、これらの色が好みの色になるよう調整してみてください。キレイだなと思ったものを撮る時、一歩引いてみて、中心となるところとそれ以外のところに注意するとバランスの良い写真になります。アジサイは、晴れでも雨でも絵になるので、写真を始めようとする方や得意でない方も魅力的な写真が撮りやすいです」(瀧口さん)
壷阪寺(高取町) ユニークな取り組みや毎日リアルタイム更新のSNSで大人気
2020年4月頃、境内の桜が大仏様(天竺渡来 大釈迦如来石像)をぐるりと囲み、まるで桜の衣をまとっているようにも見えるSNSの画像が、「桜大仏」としてバズり、大きな話題となった壷阪寺(奈良県高市郡高取町)。インスタをスタートしたきっかけは、2015年の開創1300年で伽藍修復などの境内整備が進み、それらを紹介したいとの思いからなのだとか。
他にも、約4500体ものひな人形によるユニークな「大雛曼荼羅(だいひなまんだら)」(2月~4月)などの取り組みをおこない、同寺のSNSアカウントは常に注目を集め続けています。
写真撮影や運営を担当する壷阪寺執事の喜多昭真(きたしょうしん)師は、「実は、スマートフォンのみで撮影しております。桜や花の時期には、インスタやX等でリアルタイムの状況を毎日配信するように心がけています」と説明します。
喜多さんは、「皆様にお寺の今の姿をいろいろな角度から見ていただき、少しでも興味を持ってご参拝していただけたら。そして、観音様とご縁を結んでいただく事を願いながら撮影しています」と思いを語ってくれました。
確かに、現在開催中の「大和観音 あぢさゐ回廊」では、大仏様の御前にアジサイと和傘が荘厳され、さまざまな角度から撮影された写真をSNSで楽しめます。SNS更新は、花のシーズンや行事の様子だけでなく、山寺として気象状況等も案内することが多いとのことで、常に参拝者目線の細やかな心配りも。
SNSを始めてからの反響について、「私どもが撮影した写真の影響力というよりは、ご参拝の皆様のインスに投稿された写真画像によって、特に桜の季節は、今までの約10倍以上の参拝者がお越しくださるようになりました。さらに、コロナ禍以前は全くいなかった外国人観光客が大幅に増えました。毎年各メディアで取り上げて頂いております」と喜多さん。
インスタ僧侶が伝授する撮影のコツ
「(現在、あぢさゐ回廊が開催中なので)一つ目のおすすめ角度は、真正面やアジサイ越しに下から大仏様を望んで撮影することです。二つ目は、舞台より大仏様を斜め方向から撮影することです」(喜多さん)
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