聞いてみよか

俳優活動10年で深く理解したこと―伊藤健太郎インタビュー

2025.01.12

俳優活動10年で深く理解したこと―伊藤健太郎インタビュー
テレビドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』の放送が1月9日よりスタート。同作は、出版社に勤務する編集者・高坂健斗(伊藤健太郎)、彼の出版社の派遣社員でかつて一緒に小説家を志した相手・鈴木(柿沼)みなみ(愛希れいか)、健斗が担当する売れっ子漫画家・深田ゆず(弓木奈於(乃木坂46))らが、恋愛、仕事、夢と向き合っていく物語。今回はこの作品で高坂健斗を演じた伊藤健太郎に、役や物語についてじっくり語ってもらいました。
―伊藤さんは、高坂健斗というキャラクターをどのように捉えていらっしゃいますか。
とても興味深い人物です。たとえば人となにか作業すると、最後に「ありがとう」とお礼を言ったり、言われたりするじゃないですか。でも彼はそこで「『ありがとう』とか言われてうれしい?」みたいなことを言うタイプ。物語を見ていくと健斗がなぜそんな性格になったのかが分かるのですが、僕はそのセリフを口にしたとき「なんてひねくれた人なんだ」と驚きました。
健斗たちには「好きじゃないことを仕事に選んだ、その方がうまくいく」という考え方もありますが、この辺りへの共感はいかがですか。
僕自身、好きなことをできるだけ仕事にしていきたいと思っています。もちろん人それぞれの性格、考え方もありますが、自分は「好き」の割合が多ければ多いほど仕事にしたときに楽しいんじゃないかって。でも健斗は決してそうではない。その点も含めると、今回は普段の自分とはかけ離れているところがたくさんあり、だからこそ演じていておもしろかったです。

伊藤健太郎(ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』)2024年12月

―また健斗は、暇な時間ができるのが怖いからとにかく仕事ばかりしている。そういう気持ちはいかがですか。
その感覚は自分にもあります。撮影のスケジュールが詰まっていて、とにかく連日忙しく動き回り、そしてクランクアップを迎えた次の日とか、なにもないのに朝5時くらいに目が覚めるんです。で、「やばい、せりふを入れてない」と焦ってから、「あ、撮影ないんだ」と安心する。どうしても仕事のことばかり考えちゃいます。健斗とは仕事内容や方向性がちょっと違うけど、いざ、暇になったときの妙なドキドキ感は自分にもありますね。
―中には「休むよりも、働き続ける方が気分的に楽」という人もいますよね。
それぞれのやり方はあると思いますが、でも休めるなら絶対に休んだ方がいい! 僕は一時、撮影が詰まっていて休みが全然取れない時期があって。なかなか自宅にも帰れないし、そうなるとやっぱり心が壊れてしまう感覚に襲われるんです。だから「休むのも仕事のうち」と考えて、メンタルやフィジカルを整えることをおすすめします。それがきっとベストパフォーマンスに繋がるはずなので。特に俳優業はしっかりリセットをする時間を設けないと現場に迷惑をかけることもある。だから休みは大事ですね。
―ちなみに伊藤さんのリセット方法はなんですか。
僕はサーフィンです。海へ行くとリセットされます。ただサーフィンに限らず、自然と触れ合うのは良いリセット方法ではないでしょうか。キャンプ、釣りとか、アウトドアって現実と離れられますから。自然の空気を吸うのはとても大事なこと。あと、そうやってスマホなどデジタルなものを触らない時間を作ってみてください。きっとスッキリしますから。今はなにをやってもそういうものに囲まれていますし、ついつい触っちゃう。だからこそ強制的な“デジタルデトックス”が大事な気がします。

伊藤健太郎(ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』)2024年12月

―誰かと会って話をするのも良いリラックスになりますよね。でも健斗にとって本音を話せるのは、みなみくらい。伊藤さんにはそういう相手はいらっしゃいますか。
地元にいる高校時代の友だちですね。彼らだけは本音で喋れます。なぜかというと、同じ業種の方は作品を一緒に作る相手なので、自分の悩んでいる姿、弱い姿をあまり見せたくない。地元の友だちはそうじゃない分、まったく気にしなくていい。だから「いま、めちゃくちゃ疲れていて」「ちょっと悩んでいて」と本音を言ったりします。もちろん、抱えている問題に対する明確な答えが返ってくるわけではない。でも吐き出すことが、実は一番の答えになったりするんです。だから地元の友だちはとても大事な存在ですね。
―こうやってインタビューをしていても感じることなのですが、逆に伊藤さんは話しやすい雰囲気もありますよね。だから人の話を上手に聞いたり、話題を引き出したりするのがお得意なんじゃないかって。
僕は人が好きなんです。自分が通ってこなかった趣味や話題は、それまで興味がないものだったとしても話を聞きたくなる。人って、好きなことを話しているときが一番、いきいきとしますから。そういう顔を見るのが楽しい。今回共演した、愛希れいかさん、弓木奈於さんにもそうやって自分から距離感を縮めていきました。ただ、共演者の方たちの前情報はあえてなにも入れないようにします。まっさらな状態の方が素直なリアクションがとれる。共演者の方とはその場で生まれる空気感を大事にしています。

伊藤健太郎(ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』)2024年12月

―この作品にはいろんな要素がありますが、やはり仕事に打ち込んでいる中「こんなにがんばっているのに、何者にもなれていないな」と思い悩む人に見てほしいですよね。
健斗たちもそうですが、自分は何者であるか分かっている人はあまりいないはず。自分で自分のことを理解するのってすごく難しいですから。僕も、「俳優」と言っていいのかどうか迷っていた時期がありました。じゃあ、果たして自分は何者なのかって。ただ、出演作品を見に来てくださる方たちがいらっしゃり、そこで時間とお金も使ってくださっている。それなのに「自分は俳優です」とちゃんと言えないのは失礼だと気づいたんです。その責任を含めた上で「僕は俳優です」と言わないといけない。正直、今でも堂々と「俳優です」と言える人間になれているのかは分からない。それでもその責任があるから、ブレずにいられます。どの仕事もそうだと思いますが、もしなにかに迷ったときは、自分のために時間を使ってくれている人のことを考えるべきだなって。
―そういった考え方は、この10年の俳優活動の中でどんどん強くなっていったものなのでしょうか。
そうですね、経験と共に膨らんでいきました。作品にどれだけの方が携わっているか、そしてみなさんがいかに大変な作業をなさっているか。それがこの10年でより深く理解できるようになりましたし、また出演する作品が増えれば増えるほど、ご覧いただく方も広がっていく。その中で「作品に救われました」「この映画やドラマを見るためにがんばって生きています」と声をかけていただくこともあり、「中途半端な気持ちではやれないな」って。現場で支えてくださるスタッフや共演者のみなさん、そして作品をご覧いただくみなさんのおかげで、考えが良い方向に変わっています。だからこそこの『未恋』も、みなさんの心に響く作品になってほしい。「私だけじゃなかったんだな、この気持ちは」という風に感じてもらって、なにか温かいものを得ていただきたいです。

伊藤健太郎(ドラマ『未恋~かくれぼっちたち~』)2024年12月

『未練~かくれぼっちたち~』 https://www.ktv.jp/miren/
関連記事はこちら
インタビュー&文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
miyoka
1