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【天満のひと】野菜で元気になって(大宝青果商店・雪辰周平さん、伊藤理恵さん)

2024.05.24

【天満のひと】野菜で元気になって(大宝青果商店・雪辰周平さん、伊藤理恵さん)
大阪・天満のJR環状線高架下に大きな白い暖簾がひときわ目立つお店があります。その名も「ihatov」。
実はこのお店、1980年ごろからこの地で商売を続けている老舗・大宝青果商店が手掛ける、野菜のお惣菜やフルーツドリンクなどを提供する昼間だけ営業の立ち飲み屋なのです。
野菜・果物にとってもお客様にとっても生産者にとっても、「ihatov=桃源郷」でありたいという思いが込められた店名。目指すところはどこなのか、大宝青果商店の3代目社長、雪辰周平さんとihatovのシェフ・伊藤理恵さんにお話を伺いました。
―大宝青果商店とは?
(雪辰さん)
1968年に祖父が創業しまして、大阪市の東部市場の促成野菜(大葉、菊の花など小さいもの)専門の仲卸でした。市場のせりで落として八百屋さんに品物を卸す仲卸です。
その後、父の代になって、仲卸から購入してホテルやレストランへ納品する専門会社として、天満に大宝青果商店を開きました。それが1980年ごろです。
ランチで使い切った野菜をディナー用に補充したいといったお店からのリクエストに臨機応変に対応してフォローできるように心がけています。

僕は長男なのでいつか継ぐのかなと思っていました。でも実はセロリとか食べられなくって特別野菜好きでもないんですよね(笑)。それでも時々は野菜が食べたいっていう時がありますね。
旬のものは安くておいしい。今はハウス栽培が盛んで何が旬なのかよくわからなくなってきていますが、露地ものだと、その野菜に一番適した季節にできているものだから、安くて使いやすいんじゃないかと思います。
目で見て季節を感じられるのは野菜でしかできない事だと思っています。
―最近は旬が変わってきた?
そうですね。例えばそら豆は今まで一年中売ることができていたんです。
12月に鹿児島の新物から始まって、どんどん北に上がって、9~10月は北海道で採れて、そしてまた鹿児島。旬が途切れなかった。北海道はいま8月くらいが旬でしょうか。温暖化の影響なのかな。
鹿児島のスタートは変わらないので、北のほうが暑くなってきているのかもしれません。
それともっと深刻なことに、生産者が減ってきました。高齢化で農業を継ぐ人がいないんです。
2020年は2015年に対して農業従事者が20%以上減っていますし、65歳以上の方が全体の70%を占めています。
例えば、岡山の牛窓の白菜。おいしいし高値で売れるけれど、農家の平均年齢が70歳を超えていると聞いています。あと5年後はどうなるのか。そんなことでどんどんいい産地がなくなっていく。後継者不足はどうしたらいいのかな。
―大阪のいい野菜は?
キャベツはとてもいいですよ。「松波」という泉州の品種です。大阪農家の「松波」はぴかいち。甘味も強いし葉も柔らかい。お好み焼きで使ったらびっくりすると思いますよ。旬は9月くらい。
泉州は玉ねぎとか水ナスとかいろいろいい野菜がとれるんですが、絶対量が少ないので全国展開がしにくいんですよね。京都は伝統野菜がブランド化できたけれど、大阪はまだまだこれからですね。
―いま野菜の値段が高いですね。
天候不良が原因です。ちょっと前は寒かったし。胡瓜は曇天が4日続いたら値段が上がるし。需要と供給のバランスがうまく取れていないのも原因かと思います。
胡瓜やトマトといった果菜類は気温が35度超えると花を落とすから実がならない。去年は花が落ちて実がならなかったことで高騰しました。
果物は年に1回しかとれないから大きな台風がきたら大変です。
去年は台風が来なかったので柑橘類が多かったし、リンゴも実が落ちなかったので充実していましたが、今年はどうなるのかな。
そして果物は輸出が盛んですね。日本のはとてもおいしく仕上がっているから香港・マカオにどんどん輸出されている。イチゴ、桃、リンゴ、ブドウ。高値で売れるからそれにつられて国内値段も上がってきていますね。
―ihatovを始めたきっかけは?
コロナです。飲食店が営業できなくなって、野菜の納品がゼロになりました。
僕たちは受け身の仕事なので、なにかしないと立ち行かなくなる。
それで、僕自身が以前から飲食業に興味があったこともあり、ihatovを開店しました。
当時は野菜の小売りをしたりしていました。ちょうどその頃、instagramでウチの野菜を使って家庭料理をしている理恵ちゃんを見つけ、ihatovの表現に合うと思いDMしました。今はお昼のみ営業のお惣菜をアテにお酒も飲める立ち飲み屋さんです。
市場から野菜や果物を箱単位で買い付けて納品は個数単位。半端数が残ることがあるのでそれを利用してお惣菜やフルーツドリンクを作ってもらってます。
(理恵さん)
そうなんです。社長にお声掛けいただき、すばらしい形態だなと共感し、野菜料理はなんぼでも作れるのでお受けしました。
常時6~7種類はお惣菜を作っていて、小さなお子さんのいるお母さんたちや、一人暮らしのおばあちゃんが誰かが作ったご飯が食べたいと言って立ち寄ってくれます。
4月は特に駆け込んでくるお母さんたちが多かったです。みんなちょっと疲れていたのかな。
アドバイスができるわけじゃないけれど、だれかに話を聞いてほしいというときに、このお店は適当な役目でちょうどいいんだと思います。
ご近所の飲食店さんは社長に野菜の相談に来る。困ったら聞かれる。ここはそういう場所なのかも。

天満は赤ちゃんからおばあちゃんまで会える下町の雰囲気が好きです。実家も商売をしていたので家業でやっている大宝青果の中にいるのもなじみがある環境だったりします。誰かが困ってないかな、しんどくないかなっていうのが気になるだけで、みんな仲がいいこの雰囲気が好きです。気を配りあっている感じがいいですね。
―それにしてもお昼からお客さんが途切れませんね。
ずっと高架下で老舗として存在しているから入りやすいのかな。
大きな暖簾もおじいちゃんおばあちゃんには商店ってわかりやすいのかもしれないですね。

私はこのihatovを大宝青果という会社を表現する場にしたいと思っていて、代々受け継がれている老舗感を表現したいです。昔から続いている会社があって、そこの野菜が食べられて、みんなでワイワイできる空間を作る立場になれたら素敵かな。
なので、誰でも来られる場所、空気感を大切にしたいです。いつか食べたことがあるような懐かしいお惣菜やちょっとカラフルで見た目も楽しいお惣菜を食べて元気になってほしいのです。私もそうだから。
家から出られないおばあちゃんのためにって注文を受けることもあるけれど、そういう時は彩が豊かで季節感のある野菜でお惣菜を作ります。心が動いて楽しんでもらえるから。野菜で元気になってもらえたらうれしいです。
大宝青果商店 https://taiho-seika.com/
ihatov https://www.instagram.com/taihoseika/
11:00-15:00(水・日祝休)
大阪市北区黒崎町2-1
miyoka
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