いよいよ終盤戦に突入したドラマ『ロンダリング』。その第7話が14日深夜、放送されました。
第6話では、不可解な現象によって解体作業が進まない共同住宅の一室で何が起きていたのかが明らかに。そこには、身寄りがなくてその日暮らしの高齢者らが押し込まれていた場所。社会的弱者の路上生活者たちを暴力団などが囲い込み、生活保護の給付金の搾取、医療費免除を悪用して薬の不正入手・転売の利用といった貧困ビジネスが行われていたのです。ただ、アマミ不動産の天海吾郎社長(大谷亮平)は、そんな貧困ビジネスの被害者のことを「死ぬ前からすでに負けていた連中」「生きてるときに自力で居場所が作れなかったやつら」と切り捨て、作業を進めようとします。
そして第7話では、アマミ不動産に勤める緋山鋭介(藤原丈一郎)と蒼沢夏凜(菅井友香)が、それぞれの特殊能力を生かし、貧困ビジネスの黒幕に誰がいるのか追求。そのなかで浮かび上がってきたキーパーソンが、黄森あゆみ先生(谷村美月)。彼女は、金がない患者を無料で診察し、ほかにも夜回り先生のような活動やボランティアでホームレス支援なども行っていた医師です。ただ勤務先の診療所は潰れ、黄森先生も行方不明に。その背景には、黄森先生の存在を疎ましく思っていた裏の人間たちがいるのではないかという話になります。
第7話のキーワードは「演じること」
第7話でとても興味深く感じたところがあります。それは「演じること」について描かれていた点です。
同話のストーリーをひも解く上でおさらいしておきたいのが、『ロンダリング』の主人公である緋山のこと。彼は役者になるために大阪から上京し、売れないながらも俳優活動をしています。そんなとき、自分の特殊能力を買ってくれた天海社長のもとで働くことになりました。そして、さまざまなワケあり物件の真相を解明するために、ときには警察官、ときには霊媒師に変装していきました。つまり、霊の声が聞こえる能力だけではなく、しがないながらも役者としてやってきた「演じる」という力も役に立ってきたのです。
その前提を踏まえた上で第7話を鑑賞すると、おもしろみが膨らみました。どういうことか?それはつまり、人は誰でも、何かを「演じている」ということです。
さまざまな事件の重要参考人の一人は間違いなく、行方不明中の黄森先生です。黄森先生の事情を夏凜に詳しく丁寧に話してくれたのが、NPO法人「あかるいわがや・みんなのかぞく」の代表である宇佐井孝介(堀内正美)。宇佐井は、黄森先生が勤務していた診療所の所長による不祥事についても説明するなど、夏凜の質問に対してなにも包み隠すことなく話してくれ、頼りがいがあるように感じられました。
しかしP.J.(B&ZAI・橋本涼)によると、そんな宇佐井も「助成金をチョロまかしたり、支援を名目にパパ活したりして、そちらも告発される寸前だった。だからあいつも黄森が消えてほっとしたはずです。この件に関わってるやつは、どいつもこいつもクズばかりだ」と、裏がある人間であるそうなのです。このP.J.の証言をもとにすると、「あかるいわがや・みんなのかぞく」という団体名も、ものすごくウソっぽく見えますよね。
誰もがいとも簡単にフェイクへと流される時代
宇佐井の振る舞いと夏凜の反応から分かることは、なんなのか。それは、「良い人」を演じるのは決して難しくなく、人はその演技をいとも簡単に信じ込んでしまうことです。たしかに過去回で、緋山が身分を偽って警官や霊媒師を演じたときも、相手はそれを信じちゃいましたよね。そういうものが伏線的にうっすらありました。
ほかにも、黄森先生について調べるために緋山は路上生活者にふんし、ベテランの路上生活者たちに話を聞いてまわるところ。いろいろ探っていくなかで緋山は、ある路上生活者と出会います。この路上生活者も、緋山にいろんなことを教えたり、忠告したりした上で、黄森先生の情報を教えると話します。一見、良い人そうに思えます。一方、この路上生活者は、緋山が路上生活者を演じていることも見破ります。さらにその後、チンピラ二人を連れてきて緋山に襲いかかるのです。この路上生活者もまた、親切な人間をうまく演じていたのです。
普段から役者としてなにかになりきってきた緋山が、ホームレスを演じていることを見破られ、その上、相手が良い人を演じていることに気づかなかったのは、屈辱的だったのではないでしょうか。なにより役者としてなかなかうまくいかない緋山の人生の挫折が、ここで改めて浮きぼりになりました。筆者としてはとても残酷なシーンのように思えました。
また同話は、今の現実を表しているようにも感じられました。いろんな手を尽くして誰かをだましてお金などを奪い取る非情な事件が横行し、深刻な社会問題になっています。さらに、精巧な技術でできあがった映像や写真を用いたフェイクも広がりやすくなっています。SNSには、なにが事実で、なにがウソなのか見分けがつかない投稿が多数あり、混乱をきわめています。この現実は、自分が考えている以上に楽々とフェイクへと流されやすいものになっています。
第7話では、登場人物を通してそういった今の世の中を表現しているという風に思いました。そしてまた、正しいことをしている人たちが、私たちの気づかないうちに葬られている状況についても語られていたのではないでしょうか。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
カンテレIDにログインまたは新規登録して
コメントに参加しよう