見てみよか

自分の居場所はどこ?ホームを出るゆず(弓木奈於)【未恋】

2025.02.07

自分の居場所はどこ?ホームを出るゆず(弓木奈於)【未恋】

『未恋〜かくれぼっちたち〜』第5話レビュー

2月6日深夜に第5話が放送された、ドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』。

前回は、漫画雑誌『コミックブーン』に派遣社員として携わる鈴木みなみ(愛希れいか)が過去に小説の新人賞を受賞していたことが明かされ、また同誌の売れっ子漫画家・深田ゆず(弓木奈於)のもとには別の漫画雑誌『ブリエ』の副編集長・桔川悠(松下優也)から「ぜひ一度お会いしてお話しさせていただきたいことがありまして」と意味深なメールが…。ゆずの担当編集者で恋人の高坂健斗(伊藤健太郎)は、『コミックブーン』が企画する「第二の深田ゆず育成プロジェクト」との向き合い方、そしてゆずとの仕事と私生活の切り分け方などに難しさを覚えている様子が伺えました。

第5話の脚本の妙味「家出」のエピソード

今回の第5話で考えさせられたのは、多くの人にとっての普遍的なテーマ「自分がやりたいことや好きなことをできているか、どうか」だったのではないでしょうか。

特にゆずのエピソードは印象的でした。学生時代から「漫画が描きたい」という夢があったものの、優しくも正論で固めてくる親の考えに窮屈さを感じ、「私のやりたいことが飲み込まれていってしまう」と高校三年生の時に家出を経験。さらに人気漫画家になった現在も、「私はホントは、もっと真っ直ぐに自分の感情をぶつけたり、自分が読む人に影響を与えたり、新しい世界が見えるような作品を作りたいのかもしれない」と、自分らしさを模索するようになります。

そんなゆずの背中を押すのが、『ブリエ』の桔川です。桔川によって、ゆずの家出話が引き出されましたし、なんなら彼自身も高校時代はエレキギターにハマっていて、進路を迷っていたそう。「今ではこの仕事(漫画雑誌編集)、天職だと思ってるんですけど」と言いますが、それはもちろん「結果論」です。結果的にその仕事にやりがいを感じているのかもしれませんし、夢を諦めた人間特有の自分への言い聞かせかもしれません。少なくとも絶対的にやりたいことを仕事にできたわけではないですよね。だからこそ、好きなことを貫くために家出を決行したゆずに対し「家出って、すごいパワーが必要じゃないですか」とリスペクトを示します。

ちなみに脚本的な妙味でいくと、この「家出」が第5話を語る上ですごくしっかり生かされていますよね。「漫画家になりたい」という信念があり、それをうまく丸め込んでくる親の存在を振り払って、「ホーム」を飛び出したかつてのゆず。さらに人気漫画家になっても、本当に描きたい作品のために、自分を育ててくれた「ホーム」である『コミックブーン』の外の世界での活動を考え始めるところ。第5話の最後では、漫画家として新たに挑戦することを決めて、一緒に住んでいた健斗の自宅から出るところも描かれています。つまり「ホーム」を出るということが徹底的に表現されていました。

一つのテーマをすみずみまで行き渡らせた、まさにお手本のような脚本です。そもそもこの『未恋』は自分の居場所を探して回る人たちの物語なので、この「ホーム」という言葉は実はすごく重要なのかもしれません。

好きなことを仕事にするのは、どうなのか?

自分がやりたいこと、好きなことができる場所はどこなのか。その場所探しは誰もがやること。でも巡り合わせとか、才能とか、現実的問題とか、いろんなものに影響されて、やりたいこと、好きなことができなかったりします。ゆずの場合は親のやんわりとした反対を振り切ることができましたが、そういった身近な人からの圧力って、やりたいことができない理由の一つになりますよね。

なんとなく筆者の実感ですが、世の中には「やりたいこと、好きなことを諦めた人」の方が多いと思います。そして桔川のように結果的に「今の仕事がおもしろい」となったり、もしくは自分にそう言い聞かせたり。そうやって世の中ってなんとなくうまく流れて行っている気がします。やりたいこと、好きなことを押し通す過酷さは、かなりのものから。ですので、ゆずのパワーはやはりすごいなと思えます。そもそも、漫画を描かせてもらうために、まだ何者でもないのに出版社をひたすらまわること自体、できることではありませんよね。あと、彼女を見出し、力を伸ばした『コミックブーン』の長井篤子(伊勢佳世)もすばらしい。誰と、どんな風に仕事をするのか。それによって才能や実力の行方って大きく変わるのではないでしょうか。

一方、健斗のように、みなみから「この仕事を好きでやってる?」と尋ねられ、「好きじゃない」「好きじゃないことを仕事に選んだ。好きじゃないことを仕事にした方が上手くいくんだよ。仕事に感情移入したって、判断見誤って」という考えもどこか納得できます。みなみから「くっだらねえ」と否定されますし、みなみ自身の背景を想像するとそれが正しいリアクションな気もします。

でも、好きなことを仕事にすると、逆にそれが好きじゃなくなったり、あと熱意を込めすぎることで見えなくなるものもあったりします。生活や稼ぎのことを考えると、それくらいドライな立ち位置で仕事をした方が良いこともあります。なにより「好き」が身近にあることで、その物事とどのように接して良いのか分からなくなったりしますよね。

では果たして、健斗はこれからどのように仕事と向き合っていくのか。そしてなにより、ゆずとの関係性はどうなっていくのか。そもそも健斗は、ゆずのことをどれくらい好きだったのでしょうか。自分の好きな人のことを「仕事」にしていた健斗ですが、そもそも「好きを仕事にすること」を否定的に考えているので、第5話を機にゆずへの接し方もかなり変化するはず。次回以降も気になって仕方がありません。
見逃し配信はこちら(TVer)
見逃し配信はこちら(カンテレドーガ)
次話先行配信はこちら(FOD)

文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
miyoka
0