クライマックスが近づいてきたドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』の第8話が2月27日深夜に放送されました。
前回は、新人漫画家・本島りん(外原寧々)の連載デビューに向けて、漫画雑誌の派遣編集者・鈴木みなみ(愛希れいか)が奮闘。また「自分が本当に描きたいものはなんなのか」を探し求める漫画家・深田ゆず(弓木奈於)から別れを切り出された、恋人の編集者・高坂健斗(伊藤健太郎)も、彼女への思いや仕事の向き合い方について改めて考えるようになりました。
第8話では、健斗の後輩編集者である星たける(鈴木大河(IMP.))が退職願を提出。会社を辞める理由は、大学時代の漫画サークルの後輩である本島りんのがんばりを目の当たりにしたこと。諦めかけていた漫画家の道をもう一度目指すために、大きな決心をします。そして堂島貞一編集長(金井勇太)もその申し出を了承します。
回を重ねるごとに、みなみ、ゆず、星は「自分がやりたいことはなんなのか」「自分がいまできるのはどういうことなのか」を見つけ出していきます。つまり、自分自身を殻の中に閉じこめて生きていた“かくれぼっち”たちが、不器用ながらも一歩ずつ前に進むのです。
そんな同回で考えさせられたのが「若さ」について。なにをもって「若さ」とするのかは、人それぞれ。分かりやすいところでは、年齢があるでしょう。10代、20代はやはり「若い」です。美容や健康を気遣っている方は、何歳になっても若々しく見えます。あと精神面から若さを感じ取ることもできるはずです。
健斗は、自分より年が下である、ゆず、星が「自分がやりたいこと」に突き進む姿を間近で見て、「みんなすごいなと思って。若いのに」とつぶやきます(ちなみに健斗は27歳、みなみは34歳、ゆずは24歳、星は23歳)。一方で、みなみからの「自分だってまだ若いでしょ」というつっこみに対して、「うーん、若いのかな……」と疑問を持ちます。
この第8話のおもしろさは、「若さは強い武器である」を描きつつ、「そのときにしかできないことを、逃してはならない」というメッセージが描かれているところです。
健斗の口ぶりでは、彼はきっと、小説家になりたいという夢や目標に対し「自分はまだ若いから」「もっといろんな経験が必要じゃないか」とし、それらを先送りにしてきたのではないでしょうか。でも、その気持ちはすごく分かります。なにかに飛び込んだり、挑戦したりするのってたくさんの勇気が必要です。大人であれば、生活のことも考えなければいけませんし。
そもそも、なにかやりたいことがあっても、シンプルにめちゃくちゃ疲れますよね。体力が要ります。趣味であれば気楽にやれますし、やめたいときにやめればいい。でも、もしそれを仕事にするとなると、そうはいきません。最終的に疲れることは分かっているし、自分の才能の限界を知るかもしれない。だから結局、理想は理想で終わらせた方が楽。そのためになんとか「やらない理由」「できない理由」を探す。自分なりに納得できる言い訳を見つけて「やらない」で済ませた方が、なにかと安全です。一番、手っ取り早い言い聞かせが「忙しいから」「自分はまだ若いから」「もっと経験が必要」あたりではないでしょうか。
好きなことを仕事にしたくない健斗は、まさにそうなのだと思います。彼の中には、やらない言い訳の一つとして「自分はまだ若いから」があり、そしていつの間にか年齢を重ね、次は「自分はもう若くないから」を、やらない理由に変えているのではないでしょうか。あと「暇な時間ができるのが怖い」という性格も、つまりそういうこと。忙しくしていた方が、夢を見なくていいですから。でもこれって結構「あるある」ですよね?
あと、すぐに会社を辞めて漫画家を目指したいと話す星を引き留める、堂島貞一編集長(金井勇太)の言葉「なんとかの上にも3年っていうし」も、厄介な存在ですよね。社会人の中に知らず知らずのうちに染み付いている「とりあえず3年やってみる」という意識。これっていったいなんなのでしょうね? いつの間にか「とりあえず3年」がそこにありませんか?
星は「3年……、そうやって先延ばしにしたとして、僕の人生に責任とれるのは自分しかいません」ときっぱり。これはなかなか言えるものではありません。もちろんこの場面で「仕事を全部途中で投げ出して……。星はけしからん!」という人もたくさんいるはず。ただ、そこはドラマ的な飛躍として受けとりましょう。ここで大切なのは、自分に言い訳をして夢を夢のままにしておくことが多い中、はっきり決断を下す星の姿です。その言葉にハッとさせられます。
筆者も痛感することですが、現実的に、年齢を重ねた上で仕事でコケたら再スタートは切りづらいもの。そうなると、今の仕事や生活の状況をなんとかキープすることが重要になってきます。その点「若さ」はやはりいいものです。年齢的にも、たとえ失敗してもやり直せる機会はたくさんありますから。だから星も退路を断って夢が追えるのでしょう。なにより「後悔しないための選択とはなんなのか」ということですよね。
で、これらを踏まえた上でやっぱり堂島編集長の考え方がこの第8話でも際立っています。「戦って、やり尽くして、それで負けるなら別にいいと思う」「いいんだって、人間なんだから。負けたって、諦めたって死にゃあしない。つらくなったらいつでも辞めてもいいんだよ」は、本当にその通りです。つまり、現実的にやり直しがきかなくなるような年齢に達するまでは、どんなことでも挑戦した方がいい。逆にこれは、誰もがいつかやり直しがきかなくなる時期・年齢が必ず来ることも示しています。つまり、温かいながらもとてもシビアな言葉でもあるのです。だからこそ「そのときにしかできないことを、逃してはならない」のではないでしょうか。
そういった点でこの『未恋』というドラマは、自分がこれまでどのように生きてきたのか、そしてこれからどうするのかを考えさせられる話であると、改めて感じました。
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文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。