1月にスタートしたドラマ『未恋〜かくれぼっちたち〜』がまもなく最終回を迎えます。3月6日深夜には、エンディング目前の第9話が放送されました。
前回は、漫画編集者・高坂健斗(伊藤健太郎)の後輩・星たける(鈴木大河(IMP.))が突然、会社を退職。その理由は、目標だった漫画家を再び目指すため。自分がやりたいことに真っ直ぐ進もうとする星の姿を目の当たりにした健斗は、小説家を目指していた過去と向き合います。一方、小説の新人賞受賞経験を持つ鈴木みなみ(愛希れいか)は、新人漫画家・本島りん(外原寧々)の連載デビュー作のプロットなどを思案。りんを支えることにやりがいを見出していきます。
今回の第9話を鑑賞して、健斗たちと一緒になって考え込んだのが「好きに理由や意味が必要なのか」ということ。
たとえば恋愛関係において、パートナーに「自分のどこが好きなのか」と尋ねたり、尋ねられたりすることって、誰もが一度は経験しますよね。これはあくまで筆者の持論なのですが、「自分のどこが好き?」と相手に尋ねる人は、欲しい答えをあらかじめ持っている気がするんです。もしそこでこちらが的外れな答えを返すと、なんだかしっくりこない雰囲気が流れます。筆者はそういう状況を何度か味わっていて、いつも不正解を叩き出してきました。「どこが好き?」と尋ねられて、ヒネった答えを出しちゃうんです。そのため、微妙な空気が流れることが多々ありました(苦笑)。
ちなみになぜわざわざ答えをヒネるのかというと、「誰にも言われたことがない言葉をプレゼントしよう」と考えるから。対する相手は、そんなことを求めているのではないんです。すでに自分の中にある答えをきっちり当てて欲しいのではないでしょうか。相手が自分をちゃんと理解できているかどうか、それを確かめているのかもしれません。
なぜ好きなのか、どこが好きなのか。それを的確に言葉にできた方が得だと思います。だけど、やっぱりこう感じるんです。「好き」に理由や意味が必要なのかな、と。
第9話では、健斗が「好き」について考えます。漫画編集者という仕事に対して、小説家という夢に対して、そしてみなみや元恋人で漫画家の深田ゆず‘(弓木奈於)らとの関係性に対して。健斗は、ずっと漫画を描き続けているゆずに「わずかに劣等感を感じていた」のだそう。なぜなら彼女は、「好き」の力だけで前に進む方法を知っていたから。逆に、「好き」を原動力にがむしゃらに進むことができなかった自分を悔やみます。
そんな健斗は、「好き」を理屈で考えるタイプ。彼は「俺なんかが理解できないほど、緻密で繊細なものを『好き』でまとめるのが違うと思った」と言います。そんな健斗の脳内に現れたみなみは、「理屈っぽい。『好き』ってそういうことじゃないでしょ」「(好きとは)もっと、得体の知れない“何か”なんじゃない?」と指摘。そこでようやく「好き」はもっと漠然としたものでいいと気づくのです。漠然としているからこそ、何事にもとらわれない大きなパワーを秘めていることを知ります。
それでも就職の面接試験なんかで、「好きだから」で押しても通りづらいですよね。結局「なぜ好きなのか」の理由が求められます。これが現実社会の難しいところ。では、うまく言葉にできなくても「好き」を伝えるにはどうしたらいいのか。ゆずのように、なんらかの「作品」を生み出すことだと思います。行動あるのみなんですよね。
この『未恋』で言えば、漫画を描くこと、小説を描くこと。「やらされている」ではなく、自分が本当にやりたいことをやる。そうやって「作品」をつくり上げるためには、動き出さなければなりません。行動するとなると、それなりの時間や労力を要します。ちょっと理想論っぽくなりますが、でもそういう過程を経て出来上がった「作品」には説得力が漂いますし、そこに込められた努力は伝わるものです。前述したように、あらかじめ欲しい答えを持っている相手だったとしても、自分の「好き」が詰まった「作品」を示すことができれば、納得させられたり、感動させられたりすることができるかもしれません。
その「作品」がおもしろいかどうか、好きになってもらえるかどうかはその先の話。まずは「作品」という形を示すこと。それでもこちらの気持ちが全然伝わらない相手は、「あっ、自分とは合わないんだな!」ときっぱり諦めて次へ進みましょう(笑)。
そう考えると、健斗のライバルであり、ゆずを“引き抜き”した漫画編集者・桔川悠(松下優也)って決して憎い相手ではないんですよね。ゆずの作品が好きだから、漫画編集者としてのこれまでの経験・熱意という名の「作品」を押し出して猛アタックし、彼女の連載を手に入れたのですから。桔川を見ていると、改めて行動することの必要性が感じられます。
第9話終盤ではみなみが考えたプロットで連載デビューを控えた、りんについて言及されます。ところが健斗は、この作品でデビューさせてはいけないと言い、ゼロからのスタートを提案。なぜならその作品は、みなみの色に染まり過ぎているから。りんの「好き」が「作品」から感じられないためです。
その連載デビュー作は、りんが、相手が欲しい答えに合わせにいき過ぎていたのではないでしょうか。相手というのは、プロットを考えたみなみのことかもしれませんし、読者のことなのかもしれません。実際、その作品内容は、いまヒットしている転生モノの要素が入っているようですし。つまり、誰かに合わせにいっているということです。
りんは自分の「好き」をしっかりと出すことができるのでしょうか。そして、健斗、みなみ、ゆずは「好き」を見つけられるのか。3月13日の最終話で、その答えが描かれるはずです。
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文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。