本音を打ち明けられない…草彅剛主演ドラマ『終幕のロンド』が描く、三者三様の「親子」のあり方

2025.11.10

本音を打ち明けられない…草彅剛主演ドラマ『終幕のロンド』が描く、三者三様の「親子」のあり方
草彅剛さんが遺品整理人を演じるドラマ『終幕のロンド―もう二度と、会えないあなたに―』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜よる10時)の第5話が11月10日に放送されました。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 草彅剛

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 草彅剛

これまで遺品整理を通して故人と残された人たちの心と関係を結びつけてきた、樹(草彅剛)たち。第5話では、樹が勤務する遺品整理会社「heaven’s messenger」の社員たちの背景や心情に焦点を当てて描かれました。以前より会社へやって来ては金をねだる母親・真理奈(雛形あきこ)の存在に戸惑っていた、新入社員の久米ゆずは(八木莉可子)。

金銭要求がエスカレートする真理奈に対し「無理」と断るゆずはでしたが、「パパ活……ウリ(売春)すれば?」「大丈夫だって、ゆず、私に似てかわいいもん」と強引に金の工面をさせられることに。

真理奈に流されるように“パパ活”をしようとするゆずはを説得するのが、彼女と衝突することが多かった先輩社員・矢作海斗(塩野瑛久)でした。

▶いっそう濃密に描かれた「親子の物語」というテーマ

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第3話 八木莉可子、雛形あきこ

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第3話 八木莉可子、雛形あきこ

筆者がこの『終幕のロンド』を鑑賞していて惹(ひ)かれるのは、まず「遺品整理」を題材にしているユニークさ、喪失を経た人々の率直な感情描写、そして今回の第5話で特に際立つ「親子のあり方」の描き方です。

『終幕のロンド』ではこれまで様々な「親子のあり方」が語られてきました。

第1話では孤独死した女性に「10歳のときに捨てられた」と思い込んでいた息子、第2話では娘の留学費用を用意できずに他界した父親、第3話では学校でいじめられている息子・陸と向き合う樹、第4話ではお笑い芸人を目指している途中でこの世を去った息子に対してやりきれない想いをぶつける父親――と、親子関係の物語が必ず出てきます。

こうした「親子の物語」というテーマが、第5話ではいっそう濃密に描かれていました。

前述した娘のゆずはに金をねだる母親の真理奈、そしてこれまで描かれ続けてきた余命3ヶ月の鮎川こはる(風吹ジュン)と娘の御厨真琴(中村ゆり)、大企業の御厨ホールディングスの社長の座を父の剛太郎(村上弘明)からいずれ引き継ぐことになる真琴の夫・御厨利人(要潤)のエピソードはどれも印象的でした。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 村上弘明

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 村上弘明

そしてこの3つの親子エピソードには共通点を推察することもできます。まず、利人です。彼は、御厨ホールディングスでこの10年、自ら命を断つ社員が多数出ている問題の対処に追われています。

しかし、状況の進展が見えないことに社長で父親の剛太郎は苛立ちます。「金でもつかませれば済む話じゃないか」と乱暴に言い放つ剛太郎に、利人は「金銭の話を持ちかけて、訴訟に持ち込まれた場合、裁判官の心証が悪く、不利になります」など現実的な判断を口に。

たまりかねた剛太郎は「時代だかなんだか知らんが、我々の頃は手段なんて選ばなかったもんだ。腰抜けが!」と罵倒するのです。

ただ、ここでの「親の考え」と「それを黙って聞き入れるしかない子」という一方通行の親子関係が第5話の鍵になっています。

▶︎親子の本音をどのようにして打ち明けていくのか

ゆずはとその母親・真理奈も、「親の考え」と「それを黙って聞き入れるしかない子」という一方通行の構造を当てはめることができます。真理奈がなぜそんなに金を必要としているのか、具体的には分かりません。

ただ、散財してしまう性質があることは間違いなく、そこで都合の良い存在になっていたのがゆずはだったのでしょう。真理奈は、親の立場を良いように利用しているのです。さらにゆずはと真理奈の場合も、「手段を選ぶな」という親の考えがあり、だからゆずはの気持ちを無視してパパ活を押し付けるのです。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 雛形あきこ、八木莉可子

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 雛形あきこ、八木莉可子

ゆずはが真理奈の金の無心に抵抗できないのは、「親子」という理屈では割り切れない関係性でつながっているからにほかなりません。利人と剛太郎、ゆずはと真理奈は、「親の言うことが聞けないのか」という支配的な関係が成立してしまっていて、どんどん歪(ゆが)んだ方向へ進んでいきます。

では、真琴とこはるはどうでしょうか? 第5話序盤、小さい頃の真琴の授業参観にこはるが訪れた話が明かされます。真琴は、こはるが毛玉のたくさん付いたセーターを着て来たことに腹を立て、「お母さんなんて大嫌い」と不満をぶつけたそうです。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 中村ゆり

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 中村ゆり

子ども時代、親に対して「嫌い」とついつい口を滑らせた経験がある人は多いのではないでしょうか。大人になると、「あんなこと言わなきゃ良かったな」と後悔するものです。

でも、そういう後悔や気持ちの変化を繰り返すことで本当の親子関係は築かれていくのかもしれません。そういう意味で「好き」「嫌い」といった感情を率直に言い合えるのはある意味、健全な親子の仲のようにも思えます。

ただ、真琴とこはるはお互いが素直すぎて毎回喧嘩(ケンカ)ばかりしています。こんなに喧嘩ばかりして、「ちょっと疲れませんか…」とさえ思ったり(笑)。それなのに、「お互いを想う大切な気持ち」という肝心な部分はちゃんと打ち明けられないのが、これまたいじらしいところでもあります。

第5話ではそのように、ゆずはと真理奈、利人と剛太郎、真琴とこはるの3組の姿を通し、親子の関係はどのようにして築かれていくのか、そして本音をどのようにして打ち明けていくのかという問いを、私たちにシビアさとやさしさをまじえて投げかけているようでした。
『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 草彅剛、風吹ジュン、中村ゆり

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第5話 草彅剛、風吹ジュン、中村ゆり

文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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