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「シークレット出演」白川愛役 ついに明かされる「月のうさぎ」の説話に込められたメッセージ 【ドラマ・『ロンダリング』】

2025.08.22

「シークレット出演」白川愛役 ついに明かされる「月のうさぎ」の説話に込められたメッセージ 【ドラマ・『ロンダリング』】

藤原丈一郎(なにわ男子)主演『ロンダリング』8話レビュー

さまざまな真実が見えてきたドラマ『ロンダリング』の第8話が21日深夜、放送されました。

第7話では、社会的弱者らが押し込まれていた共同住宅の一室について調べる中で浮かび上がってきた、貧困ビジネスの実態が徐々に明らかに。

そして、金がない患者を無料で診察するほか、若者やホームレスの支援活動なども行なっていた医師・黄森あゆみ(谷村美月)の失踪についても語られました。さらに、社会的弱者を食いものにしている裏社会の人間が、黄森の存在を疎ましく思っていたのではないかという疑惑も出てきました。
今回の第8話では、黄森の所在が分かります。また、アマミ不動産で働く売れない俳優・緋山鋭介(藤原丈一郎)の滞在先であるゴミ屋敷で見つかった白骨と、黄森と一緒にNPO法人でボランティア活動をしていた「白川愛」という女性の関連についても着目されました。

白川愛は幼少期から厳しい境遇で育ち、寝床を確保するために違法メンズエステで働き、一時期は暴力団員の情婦をするなどしていたそう。ボランティア活動に関わっていたのも、貧困ビジネスに加担させられていたため。ただ彼女自身は、そういった形で社会的弱者と関わることに苦しみを覚えていました。そして結局、彼女は…。
『ロンダリング』7話 緋山鋭介(藤原丈一郎)

『ロンダリング』7話 緋山鋭介(藤原丈一郎)

白川愛役に抜擢(ばってき)された「シークレット出演」の俳優の好演

「白川愛」を誰が演じているのかは、このドラマのサプライズ。ちなみに「みよか」では、白川愛を演じた俳優さんのインタビューも実施しているので、ぜひそちらもご覧ください。

一つだけ触れさせてもらうと、白川愛役の俳優さんが実に素晴らしい演技をされているという点。インタビュー記事でも話題に上げているのですが、その俳優さんの近作の演技が抜群で、作品鑑賞中は良い意味でその方であることを気づかせないほどだったのです。

『ロンダリング』でも役への浸透が見事。「シークレット出演」という大役をしっかり担ったどころか、白川愛がまとっている悲しみを、限られた出演時間の中で的確に表していらっしゃいます。またそのさんの演技は、自分から表現しすぎないところが印象的です。

いわゆる「受け」の演技がとても良く、物語で描かれる「状況」にうまく振り回されるのです。そういう部分で、白川愛役はその俳優さんにぴったりだったのではないでしょうか。

『月のうさぎ』のエピソードの意味

白川愛は、生まれ育った境遇が影響し、社会の裏側をずっと歩んできました。しかし性格は優しく、きわめて純粋で、なにより他人を思いやれる人だったようです。

ちなみに黄森は、支援活動を続ける中で自分の無力さを認識してしまったと言います。

「傲慢だったことに気づいたんです。人には人を救うことなんかできない。できるのは、自分で自分を救おうとしてる人の手助けだけ」と感じ、自分の身を守るためにも、その活動から手を引きました。しかし白川愛は「私は助けることを諦めたくない」と、支援活動にとどまることを決意。そして悲劇に遭います。
『ロンダリング』8話 黄森あゆみ(谷村美月)、アマミ不動産の天海吾郎社長(大谷亮平)

『ロンダリング』8話 黄森あゆみ(谷村美月)、アマミ不動産の天海吾郎社長(大谷亮平)

筆者は、黄森の考えも、そして白川愛の気持ちも、どちらも痛いほど理解できます。いや、筆者に限らずそのように感じた視聴者は多いのではないでしょうか。

困っている人、助けを求めている人たちは、できることなら全員救いたい。そのために、自分がやれることをやる。困っている人たちがいる場所へ実際に行って何かお手伝いをしたり、寄付をしたり。サポートの形はいろいろあります。

やはり、困っている人は見て見ぬふりをしたくないですよね。困っている人をなくすことは、現実的にできないでしょう。でも大事なのは、少しでもいいから「手助けする」という精神性。見て見ぬふりをしない社会が理想です。
『ロンダリング』8話 蒼沢夏凜(菅井友香)

『ロンダリング』8話 蒼沢夏凜(菅井友香)

筆者も無理がない範囲でサポートを心がけています。その背景にあるのは「あのとき、こういう行動をしておけば良かった」という過去に経験した後悔です。筆者もたくさん「見て見ぬふり」をしてきました。たとえば少年時代、道で見つけた野良猫を保護してあげられなかったこと。

大人になってからも、なんらかの理由で若い男性に激怒されて困っているお母さんと小さな子どもを地下鉄のホームで見かけましたが、仕事に向かっていたため助けることができませんでした。

でも理由はなんであれ、自分がそのとき「行動」ができなかったことへの後悔は、何年、いや何十年経ってもずっと心に残っています。そのときのことを思い出して苦しくなったりもします。だからこそ今は「困っている人には手を差し伸べる」という意識を常に持って日々を送っています。
『ロンダリング』8話 灰田徹(和田正人)、桃丘健太(真田理希)

『ロンダリング』8話 灰田徹(和田正人)、桃丘健太(真田理希)

一方、誰かを守ることで自分の身を危険にさらす場合もあります。自分を守ることも、とても大事です。ですから、白川愛も、黄森もどちらも正しいと思います。

そんな白川愛が好きだったというのが、仏教説話として有名な『月のうさぎ』。山の中で倒れている老人を見つけた猿、きつね、うさぎが、その老人を助けるために思案する内容です。猿は木の実を集め、きつねは魚を獲って来るのですが、何も採ってくることができなかったうさぎはたき火の中に飛び込みます。そう、『月のうさぎ』は自己犠牲について説く物語なのです。
『ロンダリング』8話 灰田徹(和田正人)、桃丘健太(真田理希)

『ロンダリング』8話 P.J.(橋本涼)、緋山鋭介(藤原丈一郎)

人にはそれぞれ守るべき人やものがあります。守るべき人やものがある限り、自己犠牲に踏み出すのは難しいでしょう。この第8話で『月のうさぎ』のエピソードが登場したのは、「自己犠牲の精神を持つべきだ」「そうまでして困っている人は助けるべきだ」ということではありません。

前述しましたが、そこに込められたメッセージは、自分ができる範囲のことについて「考える」という点なのではないでしょうか。「見て見ぬふりをやめる」もその一つ。そうすることで、社会が良い方へ向かう可能性があるように思えます。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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