草彅剛さんが主演を務めるドラマ 『
終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜よる10時〜)。
同作で、母・こはる(風吹ジュン)を通して知り合った遺品整理人・鳥飼樹(とりがい・いつき/草彅剛)と徐々に関係性を深めていく絵本作家・御厨(みくりや)真琴を演じたのが、中村ゆりさん。
劇中では、大企業の後継者である利人との愛のない夫婦関係に悩み、また、こはるに対しても素直になれないなど、真琴の繊細な感情を表現しています。今回はそんな中村さんに、同作について話を聞きました。
▶︎母娘の話に共感「一番近くて、一番大切で、一番心を許している存在」
―『終幕のロンド』は遺品整理・生前整理という、テレビドラマとしてはこれまでほとんど取り上げられなかったものを題材としています。
遺品整理・生前整理を題材にすると、いろんな登場人物からこんなにたくさんのドラマが生まれるものなのだなと、その観点におもしろさと驚きがありました。
私自身も年齢を重ね、親の今後について考えることもあり、残す方、残される方、どちらの立場もきっと大変だろうと切実に感じました。ですので『終幕のロンド』は決して他人事ではありません。
一方、この作品は遺品整理を通じて「本当に伝えたかった思い」「伝えきれなかった思い」にも着目しています。登場人物それぞれの表向きとは違った姿や人間の奥深さ、多面性が丁寧に描かれていると思います。
―「本当に伝えたかった思い」「伝えきれなかった思い」というのは、特に中村さんが演じた真琴の心境そのものですね。彼女は、母親・こはるへの本音をうまく口にできないもどかしさを抱えています。
私がこのドラマに共感できるポイントの一つは母と娘のお話なんです。真琴にとって、こはるさんは一番近くて、一番大切で、一番心を許している存在。
でも根底には、こはるさんへの甘えがある。だからこそ優しくできなかったり、強がったりしてしまう。それらはすべて、母親に甘えているからこその行動である気がします。
―たしかに「親はどんなことがあっても、自分を愛してくれるだろう」というような、親から受ける無償の愛は甘えにつながると言えるかもしれません。そういう甘えが背景にあるからこそ、真琴はこはるに厳しく当たったりするのかも。
母と娘というのは、ある一定の年齢までは「お母さんと娘」だと思います。でも成長していくと目線が対等になってしまうと私は考えているんです。他人であれば許せるようなことも、母と娘の関係だとどこか厳しくなってしまう。もちろん、そういう関係性が大事なときもあります。
でも母親に対して遠慮なく厳しくできたり、こちらの勝手な言い分をぶつけたりできるのは、それだけ甘えているからではないかなって。そういう風に考えると、本作の真琴とこはるさんの関係性がすんなり自分の心に入ってきました。
―ちなみに“「目線が対等になる」というのはどういう関係性なのでしょう。
あくまで私のイメージなのですが、多くの男性にとってお母さんはずっと「お母さん」ではないかと思うんです。
―たしかに真琴の夫・利人とその母親(小柳ルミ子)の関係を見ると、その通りですよね。
でも女性の場合、いろんな人生経験を積んでくると、それまで「お母さん」という絶対的存在だったものの中に潜んでいたダメな部分が生々しく感じられるようになる。そして友人や恋人よりも辛辣なことを言い合ったりするんです。時には、互いに傷つけ合うようなこともあるかもしれません。真琴はそういうところに後悔などを抱えていると私は捉えています。母と娘はそういう時期を迎えた上で、関係性としてまた前進していくのではないでしょうか。
▶︎誰かにとっての大切な作品に出続けたい
―またこの作品からは、「自分はこれからどのように生きるか、なにを残すか」についても考えさせられます。
私はその点について具体的に「どうするか」とは考えていないのですが、常々「なるべく、人に迷惑をかけないようにやっていこう」と心がけています。もしかすると自分が死を迎えるときも、そうなのかもしれません。自分が生きてきたこと、これから残すもの、すべてにおいて人にはあまり負担をかけたくないなって。
―「残すもの」という意味では、俳優という仕事は、本人がこの世から去っても作品はずっと残っていって、それが「自分という存在」として語り続けてくれますよね。たくさんの人にとっての「遺された作品」になるというか。
作品が先々まで見続けられるというのは、たしかにとても特別なことですよね。どんな作品でも良いものは時代が変わっても良いですし、せっかくこういうお仕事をしているのであれば、人にずっと愛されるような作品に少しでも関わっていきたいです。「自分自身を残したい」という意識はないのですが、「誰かにとっての大切な作品に出続けたい」というのは一つの目標です。そのためには、目の前にあるお仕事を丁寧に、一生懸命やっていくだけ。その結果として作品が残ると思っています。
―『終幕のロンド』の序盤は、母・こはる、夫・利人らとの関係性に葛藤する真琴の姿が印象的です。彼女がこれからどうなっていくのか、気になります。
現代を生きる女性として、自分の軸を上手に見つけられず、不器用な幸せの探し方をしていますよね。でも樹さんやこはるさんとのやりとりを通して、いろんなことを学んでいきます。序盤は頼りないところがありますが、どんどん彼女が強くなって殻を破っていく姿を見てほしいです。
―なるほど。
またこの作品は、それぞれの登場人物の様子がとても丁寧に描かれています。一つ一つの台詞が無駄ではなく、人生の温かさと厳しさに誠実に向き合っている物語です。「良い脚本は、役者のすごくいいところを引き出してくれる」と改めて感じました。それが、みなさんの素晴らしいお芝居につながっているのではないでしょうか。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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