草彅剛の「静の才能」光る『終幕のロンド』「カップ麺」で表現した孤独死現場との距離感【新ドラマ・終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-】

2025.10.13

草彅剛の「静の才能」光る『終幕のロンド』「カップ麺」で表現した孤独死現場との距離感【新ドラマ・終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-】
草彅剛さんが主演を務めるドラマ『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜よる10時〜)が10月13日よりスタートしました。

同作は、妻を亡くし、シングルファーザーとして生きる遺品整理人・鳥飼樹(とりがい・いつき/草彅剛)が、遺品に刻まれた「最期の声」に耳を傾け、残された者へのメッセージを解き明かしていく物語です。

第1話では、孤独死した女性の部屋の特殊清掃と遺品整理をすることになった樹が、故人の思いが詰まった“あるもの”を見つける内容。

ちなみに故人の息子(吉村界人)は10歳のとき「母親に捨てられた」と感じて以降、疎遠に。しかし、樹が見つけた“あるもの”によって心情が変化します。

『終幕のロンド-もう二度と、会えないあなたに-』第1話
鳥飼樹(草彅剛)

そんな樹のもとにはもう一件、依頼が届きます。それは余命3ヶ月を告げられた清掃会社勤務・鮎川こはる(風吹ジュン)の生前整理。

こはるの依頼を受けたことをきっかけに、こはるの娘・真琴(中村ゆり)とも知り合うことに。

真琴は大企業・御厨ホールディングスの後継者・利人(要潤)の妻なのですが、愛のない結婚生活に悩みを抱えていました。

▶︎「カップ麺」で表現した孤独死現場との距離感

筆者は第1話を鑑賞する前に脚本を読ませてもらい、その時点で本当にすばらしいストーリーだと感じていました。物語序盤、前述した女性の孤独死現場のところは、脚本の段階だけで心ががっちりつかまれました。

樹が勤務する会社「Heaven’s messenger」の新入社員・久米ゆずは(八木莉可子)にとっては、これが初仕事。現場には、故人が亡くなった跡が生々しく残っています。ゆずはは「こんなんなのかよ、孤独死現場って」と興味深く見渡します。

しかし畳の上の遺体痕、備えられた白い花を目にしてふいに死の実感が湧いてきて、言葉を失います。そして「寂しかっただろうな。(死後)2週間も放っておかれて」と故人を慮ります。
そのとき樹は、やさしい口調でこう言うのです。「そこ、見てください」「白ごはんに玉子焼き、煮物。故人様にとって、その日は普通の朝でした」と。

そして、急須が転がっていたことから「突然、倒れられたのでしょう。苦しんだ形跡もありません」と、決して苦痛な死ではなかったのではないかと言うのです。それを聞いてゆずははほっとします。

脚本でこの場面を読んだとき、いつもと変わらない朝の風景を送ろうとしていた矢先に死を迎えた故人の姿がありありと浮かびました。まるでゆずはと同じように、その光景を一緒に見ているような気持ちになったのです。

そしてこれまたゆずはと同様、樹の言葉を聞いてなんだか穏やかな気分になりました。
秀逸なのは、さらにそのあと。ゆずははカップ麺が入った箱を見つけます。「これ、『マジ盛麺』のバターみそ味。時々しか出なくて、見つけると、私も必ず箱買いするやつ」「激辛豆板醤(トウバンジャン)ヤキソバもある。一緒だ…」と言うのです。

つまりここでは、自分たちと故人は決して遠い存在ではないことが表されています。ゆずはだけではなく、視聴者である私たち自身も、故人が送っていた日常の温もりに触れることができます。

あと、「特殊清掃」「孤独死現場」という言葉に、どこか現実味を持てない人はまだ少なくない気がします。でもこの場面では、それは決して遠い世界の出来事ではなく、私たちの日常のすぐ近くにあるものなのだとも気づかされます。

そういったいろんな距離感を「カップ麺」で表現したのは、さりげないながらも見事な着眼点ではないでしょうか。

▶︎「静の才能」を持つ草彅剛

脚本を読んだだけでこの場面の良さを実感しましたが、実際に出来上がった映像を見ると、さらに好印象になりました。俳優さんらの演技が加わると、その場面が立体的になります。ここで取り上げたいのは、草彅さんの好演です。

『終幕のロンド』は第1話から非常にテンポが良く、各登場人物の複数のエピソードを同時に走らせ、少しずつ伏線も散りばめながら、それでいて一つ一つの断片が非常に濃いものになっています。それらはいずれも優れた「ドラマ的展開」と言えます。
一方で、草彅さんの演技はどこか映画的にも思えます(誤解がないように言いますが、ドラマの方がすごい、映画の方がすごいという意味ではありません)。

草彅さんの演技は見る者の想像をかきたて、深い味わいを与え、まるでその瞬間だけ映画を見ているような感じになるのです。

草彅さんの演技のパートでは部屋の明かりが消えて”映画館化”し、テレビ画面もワイドに見えるというか…!

中でも、樹が孤独死した女性が息子に残した“あるもの”を見つける場面。タンスの中にあった箱を取り出し、静かに手袋を外して、箱を開ける。この静かな動作のなんと美しいこと。

そして“あるもの”を目にしたとき、細かい表情の変化で「“あるもの”にどんなメッセージが込められているのか」に気づく。

草彅さんのこの一連の流れに、筆者はスーッと吸い込まれていく気がしました。

ここでの締めの一言「必ずお伝えします」も、鳥飼樹のキャラクターをしっかりつかんだ上での言い方ではないでしょうか。
筆者はずっと以前から、草彅さんの俳優としてのすごさを高く評価している一人です。

草彅さんは、たとえば「静」の演技でも、深海まで潜り込むような「静」を発することもあれば「静」だけどなにかうごめいているように思えることもあり、いろんなパターンの「静」を見せてくれます。

この『終幕のロンド』では、そんな「静の才能」を持つ草彅剛により磨きがかかっていました。

脚本を読んだ時点ですでに傑作の予感がしていましたが、第1話を鑑賞して予感は確信に変わりました。

『終幕のロンド』はどうやらものすごいドラマになりそうです。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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