草川拓弥(超特急)主演『地獄は善意で出来ている』第3話 レビュー
「俺は……権利を取り戻したい」
「権利を取り戻して、ただ普通に生きていきたい。ただ、それだけだ」
▶樹が「元受刑者特別支援プログラム」で取り戻したい“権利”とは
主人公・樹(草川拓弥)が第1話で口にした言葉が、妙に引っかかっている。約1ヶ月にわたる共同生活の中で、更生の意思を示した者に再出発のチャンスが与えられる「元受刑者特別支援プログラム」。他の参加者たちが大金を手にした後のビジョンを嬉々(きき)として語る中、樹だけは“権利”という言葉を選んだ。彼が取り戻したい“権利”とは、いったい何を指すのか。大金を掴(つか)んだとて、本当に取り戻せるものなのか――そんな疑問が残る。
一度の過ちで人生が終わるような世の中を変えたい。そう謳(うた)われていたはずの“支援プログラム”の正体は、被害者が加害者に罰を与える「被害者救済システム」だった。樹が部屋の壁で見つけた“逃げろ”の文字は、善意という舗装の下に隠された地獄を知らせる警告のようにも思える。
しかし、真の目的を知る由(よし)もない参加者たちは、今日もミッションに励む。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』3話 高村樹(草川拓弥)、立花理子(渡邉美穂)、一ノ瀬夢愛(井頭愛海)、小森琥太郎(高野洸)、堂上翔太(吉田健悟)
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運営のカトウ(細田善彦)が与える課題は驚くほどシンプルだ。掃除、ランニング、合唱…。“団結力”や“リーダーシップ”を測るという名目はあるものの、曖昧な採点基準が彼らの焦りを煽(あお)る。第3話では、いよいよ参加者同士で出し抜き合いが始まった。たとえば理子(渡邉美穂)は、ドッジボールの後に手作りのハチミツレモンを配る。普段から料理をしないことは、いびつなレモンの切り方を見れば一目で分かるが、気配りができる=更生の意志を示すためにとった行動なのだろう。
▶樹にとって共同生活は、初めての“居場所”
カトウからも一応褒められはするものの、限られた食料の中で余分なものを作ったことを咎(とが)められた。対して評価されたのが、黙々と作業をこなす樹だ。目立つわけでも、過剰にアピールするわけでもない。
実は樹には、誰よりも悲惨な過去があった。家庭環境は劣悪で、小学校すら通ったことがない。働こうとしても、まともに扱われることはなかった。つまりこの共同生活は、彼にとって、ある意味初めての居場所なのである。閉鎖的な空間で、ただひたすら作業を繰り返す日々さえも、もしかしたら樹が欲していた“権利”かもしれない。
しかし、頭ひとつ抜けて見えた樹の存在は、他の参加者たちの“嫉妬”の対象になっていく。再三になるが、この更生プログラムは“全員で合格すること”も可能なシステムだ。それにもかかわらず、彼らの矛先は樹へと向かう。
善い行いをして評価されることを諦め、下の立場を作ることで、自らの評価を保とうとする。まるでこの社会の縮図を見ているようなシーンだったが、この一連の流れさえも、カトウの思惑なのだろうか。
ドラマ『地獄は善意で出来ている』3話 小森琥太郎(高野洸)、高村樹(草川拓弥)
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▶“6,000万円横領女”理子は、エリート商社マンだった
そんな第3話でスポットが当たったのは、会社の金・約6,000万円(正しくは59,286,000円)を横領した罪で服役していた理子だ。一流商社で働き、真面目で優秀。バリキャリへのルートも進めたはずの彼女は、このプログラムとは最も縁遠いタイプのはずだ。だが今や“6,000万円横領女”として、世間から後ろ指をさされる日々を過ごしている。
「人なんて一回落ちたら終わりだからね。落ちないために自分で自分の価値を上げていくのは当たり前でしょ」
とある一件で、樹と二人きりになった理子は、そんなことを話していた。なぜ彼女が事件を起こしたのかはまだわからない。けれど、理子が言う“自分の価値を上げること”が、誰かの評価を下げることでしか成立しないのだとしたら、あまりにも虚しい。
「今の世の中、普通イコール底辺ってことだから」というセリフにも、現代の若者たちが置かれた状況の切実さが滲(にじ)み出ていた。たった一度の躓(つまづ)きで、いや、その躓きがかなり大きくはあるのだが、全てを失った理子。彼女のことを笑える人が、一体どれほどいるだろう。少なくとも私は、いよいよ他人事とは思えなくなってきたのである。
文:明日菜子
毎クール必ず25本以上は視聴するドラマウォッチャー。
『文春オンライン』『Real Sound』『映画ナタリー』などでドラマに関する記事を寄稿。
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