「売れるとこ見せられなくて…」からの伏線回収!今井らいぱち、背水の陣でつかんだ『R-1』王者の栄冠【田辺ユウキ氏寄稿】

「売れるとこ見せられなくて…」からの伏線回収!今井らいぱち、背水の陣でつかんだ『R-1』王者の栄冠【田辺ユウキ氏寄稿】
日本一のピン芸人を決める『R-1グランプリ2026』が3月21日に開催され、今井らいぱちさんが24代目王者に輝きました。
『R-1グランプリ2026』王者となった今井らいぱちさん(2026年3月21日)

『R-1グランプリ2026』王者となった今井らいぱちさん(2026年3月21日)

6年前に投稿した「売れるとこ見せれなくて、すいませんでした」

らいぱちさんは2024年春、活動拠点を大阪から東京へ移しました。ただ、大会直前に行った公式インタビューでは「もし決勝に進めなかったら帰阪して、芸人ではなく別の道へ進むことも頭にあったんです。芸人としては、決勝へ行くしか救われる道がありませんでした」と背水の陣だったと語っていました。

そのため、悲願の決勝進出で浮かれた部分もあったそうですが、東京と大阪で離れて暮らしている奥様に「いや、決勝行くのは当たり前で、優勝せえへんかったら私たちの人生、変わらへんから」と気を引き締め直され、「優勝して家族全員の人生を変えたいです」と決意を口にしていらっしゃいました。

らいぱちさんはもともと、関西のお笑いファンに根強い支持を集めていたコンビ・ヒガシ逢ウサカとして活動していました。ただ、2020年に解散。Twitter(現在のX)で「売れるとこ見せれなくて、すいませんでした」とつづっていました。劇場でお笑いを鑑賞する人なら誰もが認める実力を持っていらっしゃり、また愛されるキャラクターの持ち主だけに、その一文見て筆者は心がキュッとしたことを覚えています。
『R-1グランプリ2026』王者となった今井らいぱちさん(2026年3月21日)

『R-1グランプリ2026』王者となった今井らいぱちさん(2026年3月21日)

夢を語ろうとしていた大人が、気まずさに襲われるネタ

そんならいぱちさんが見せた今回の『R-1』のネタは、興味深い点もありました。特に1位タイで通過したファーストステージのネタ「講演会」です。

同ネタは、らいぱちさんが演じる“スペシャルドリームアドバイザー”の財前一樹が、高校で講演会を開くというもの。財前は、学生たちに「自分に自信はありますか?」などと問いかけ、失敗や挫折の乗り越え方を伝えるつもりでした。パワーポイントで作った資料をモニターに映しながらアドバイスを届けようとしたところ…学生全員、自分に自信があって困難の乗り越え方も分かっていたため、どれも使えずじまいに。

きっと財前はこの講演会のために、いろんな資料をがんばって作ってきたはず。パワポに備え付けられている多彩なエフェクトも駆使し、メッセージを贈ろうとしていました。ただ無情にも、パワポ資料を見せることなく早送りすることになった財前。意気揚々と夢を語ろうとしていた大人が、いきなり気まずさと切なさに襲われてしまう瞬間が描かれ、それが大きな笑いに結びつきました。
『R-1グランプリ2026』王者となった今井らいぱちさん(2026年3月21日)

『R-1グランプリ2026』王者となった今井らいぱちさん(2026年3月21日)

「フリップネタ」の構造そのものへのメタファー

同時に同ネタについて筆者は、昨今のピン芸で定着している「デジタルフリップネタ」を逆手に取っているようにも思えました。

ちなみに「デジタルフリップネタ」とは、モニターとパソコンを使って、文字や絵が描かれた画面を切り替える手法。紙を使った「フリップネタ」のデジタルバージョンで、2021年と2022年の『R-1』で準優勝したZAZYさんが得意とするやり方です。

『R-1』で定番となっているフリップ系のネタですが、今大会は見当たりませんでした。そんな中、らいぱちさんの「講演会」は「デジタルフリップネタ」に近い要素がありました。ただ、むしろこれは、あらかじめ用意しておいたパワポ資料=デジタルフリップがすべて無効化する状況に直面したとき、人は一体どうなるのかが表現されていました。

つまり「講演会」の内容は、ピン芸の表現手法の一つ「フリップネタ」の構造そのものへのメタファーとしても捉えることができるのではないでしょうか。あらかじめフリップに書いておいた内容をお客さんがすべて先読みしていたら…? 画面をめくることすらできない事態になってしまったら…? 「フリップネタ」は、ネタとして成立しづらくなるでしょう。財前がパワポを早送りする姿は、フリップ芸の構造的な弱点と重ねて見ることができました。

らいぱちさんは『R-1』優勝を機に、劇場公演はもちろん、バラエティー番組などでも活躍されるはず。コンビ解散時「売れるとこ見せれなくて、すいませんでした」と投稿してから、6年。ついに売れるところを見ることができて、喜ぶファンはたくさんいらっしゃるはずです。
取材・文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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