上方(大阪)でもっとも歴史が古い漫才の賞『第60回上方漫才大賞』が2025年4月12日に開催され、結成20年の銀シャリ(鰻和弘さん、橋本直さん)が大賞に輝きました。
『上方漫才大賞』の大賞はこれまで、夢路いとし・喜味こいし、横山やすし・西川きよし、オール阪神・巨人、ダウンタウンらが受賞。近年も、笑い飯、ミルクボーイ、かまいたち、ダイアン、千鳥、ブラックマヨネーズ、中川家ら人気コンビが名を連ねています。同賞には新人賞、奨励賞、大賞の3部門があり、新人賞が若手登竜門、奨励賞が大御所になるためののれんを掲げるものとするなら、大賞は大御所ののれんをくぐるようなイメージではないでしょうか。
結成20年の銀シャリの大賞受賞は「満を持して」どころか、ちょっと遅すぎた印象があります。それだけここ数年、大賞候補者が大勢いて“詰まり”を起こしていたと言えるのかもしれませんが、それでも銀シャリは若手時代から漫才のうまさが高く評価されて各漫才賞を次々と受賞し、2016年には大賞の“前哨戦”となる奨励賞も勝ち取り、同年『M-1グランプリ』も制しましたから。
大賞受賞が発表されたあと、銀シャリはウイニングランならぬ“ウイニング漫才”を披露しました。そのパフォーマンスを見て、あらためて大賞にふさわしいおもしろさを持つことを実感しました。この日の銀シャリのネタは、「子どもの頃の遊び」や「童謡」を題材としたものでした。
昨今、若手の漫才はボケ、ツッコミという明確なポジションを設けず進められることが増えました。大阪の若手なら、例えば炎なんかはタキノルイさんが、つかみ、ボケ、ツッコミなどを一手に引き受け、相方の田上さんは漫才コントを展開する上でのパートナーとしての役どころを担っています。はたまた『M-1グランプリ2024』ファイナリストで今回の新人賞候補だったジョックロックも、福本ユウショウさんは立場上はツッコミではありますが、彼の言葉で爆笑が起きるシステムにもなっています。相方のゆうじろーさんはそれほどボケの要素が濃くなく、例えば炎同様に漫才コントの“共演者”っぽい形になっているのです。ジョックロックの独特さは、極端に言えば“ボケ不在”で笑わせるところではないでしょうか。
その点、銀シャリの漫才は鰻さんがボケ、橋本さんがツッコミという風に分かりやすい役割分担がなされています。良い意味でクラシカルな漫才スタイルと言えるでしょう。
ボケ、ツッコミの役割がしっかり設けられていても、現在はツッコミのターンで大きく笑わせるやり方が主流。ですので、ボケの火力はややおさえ気味になる傾向があります。
しかし銀シャリは鰻さんのボケでしっかり笑わせてきます。たとえば鰻さんはネタの中で「最近太った」とお腹をさすって「昔(子どものとき)から比べたら67キロ太った」と言うと、まず客席がドカンと沸きます。この日の約8分間のネタでは、鰻さんが全編にわたり一つも外すことなくボケできっちり笑わせていました。
そしてツッコミとして多大なリスペクトを集めている橋本さん。どういうところに橋本さんのツッコミのすごさがあるのか。一つはツッコミのワードセンスです。鰻さんが「子どもの頃にピンポンダッシュをして遊んでいた」として、その模様を激しい動作で再現してみせれば、すかさず「突き指大丈夫か」とはさんでくるなど、橋本さんのツッコミに関しても百発百中でウケていました。
なによりすごいのが、「2段」になっているツッコミの強弱です。どういうことかというと、橋本さんは大体、鰻さんのボケに対して2回ツッコミをいれますが、1段目のツッコミは、鰻さんのボケに対して客席がドッと沸いて聞こえづらくなることを見越して、弱めなんです。聞こえても、聞こえなくても大丈夫なツッコミになっています。でも2段目のツッコミはその笑いの量がほんの少しだけ落ち着くことを計算したかのように、もうひと盛り上がりできるツッコミをぶつけてくるんです。ワード内容もキレキレです。そうすることで絶え間なく爆笑が起きるようになっています。
この日の銀シャリのネタを見ていたら、「うまいなあ」と熟練の技や構成に感心しつつ、若手漫才師たちが賞レースで見せるような勢いも感じました。ベテランのうまみと若手の新鮮さがブレンドされた今の銀シャリは、非常に良い状態なのではないでしょうか。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。