六甲山系西の麓の道を歩いていると、畑の横に突如金属製の黒い外壁のモダンな建物が現れました。壁面には「MOON BREWERY」(神戸市西区)の文字が白抜きされています。こんなところにビール醸造所が!?と訪ねてみると、日焼けしたヘッドブルワーの坂本和也さんが迎えてくれました。
同ブルワリーの開業は2023年12月で、1年半ほどがたったころ。建物内には4つのタンクがあり、4種類のビールを仕込んでいます。坂本さんが日焼けしているのは、昼間は米農家として畑仕事をしているから。坂本さんのビールには、自分で収穫したお米がたくさんはいっています。
お米は有機栽培のコシヒカリで、精米すれば普通のお米と同じように食べられるけれど出荷はできない、割れたりちょっと虫に食われてしまった“くず米”をビールづくりに利用しています。
お米がたっぷり入っているので、うっすらとお米の香りがして、ビールの味はすっきりまろやか。定番ビールは、ゴールデンエール「金月」と、アメリカンIPA「薫月」の2種類。訪れた日のタンクには、知り合いの農家から仕入れたトマトでつくるビール「トマトサワー」、坂本さんのお母さんが育てたイチゴをつかったビールも仕込んでいました。
「建物の前に見える田んぼは、ほぼ我々がお米を作っている畑なんですよ。今は北区の区役所からの依頼で、放置している竹林を伐採した竹を有効活用するビールもつくっています。なんでも使えるところが、クラフトビールのおもしろいところです。どういうふうにつくるかは、めちゃくちゃ思案しますけど」と坂本さん。
実は坂本さん、ブルワーになる前は、鉄道設備を整備するサラリーマンでした。高校の同級生にビールタンクなどの機材メーカーを紹介してもらって、「エイヤー!ではじめました」と笑いますが、実際は醸造免許を取るのに約3年の時間がかかり苦労したそうです。
トマトやイチゴなどのビールは、収穫時期が限られるため、1年に1回くらいしかつくれません。「去年のトマトサワーは良かった。でもイチゴは量が全然足りてなかったから、今年は倍の量にしようという感じで作っています。ビールの好みは人それぞれなので、万人ウケするビールというのはないんですね。でもね、クラフトビールのイベントなんかで、目の前で『おいしい』って言ってくれたら、なんかすごくうれしいなぁ!って思います。そういうのって今まで体験したことがなかったからすごく楽しいですよ」と、人生の選択に満足そうです。
ただし醸造だけではまだ生活できないそう。そのため農業や以前の仕事を手伝うアルバイトをしながら作業しています。慣れない仕込みに時間がかかるため、1日を有効に利用するために朝3時に起きることもあるそうですが、楽しいのでまったく苦ではないと話します。
ところでなぜ「MOON BREWERY」の名前をつけたのでしょうか。「月の満ち欠け人の生活に密着している、そんなブルワリーでありたいと思いました。それに、雲が晴れる満月のように、注いだビールの泡がなくなっていくとおいしいビールだと聞いたことがあって、それもいいなと思って」と、坂本さんは笑顔で語りました。
ムーンブルワリーのビールは、オンラインショップでの販売のほか、「こうべアグリパーク」(旧 農業公園)や「有馬街道温泉 すずらんの湯」などで飲むことができます。週末はイベントにも積極的に出店しています。イベントスケジュールはインスタグラムでご確認ください。
文:太田浩子
「美味しい」&「楽しい」関西の魅力をご案内。プライベートでは和菓子にハマっています。
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