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激動の時代を生きた抽象画家、パウル・クレー展が神戸で始まる

2025.03.29

激動の時代を生きた抽象画家、パウル・クレー展が神戸で始まる
スイス・ベルン近郊の街に生まれたパウル・クレー(1879〜1940)。
20世紀を代表する抽象画家のひとりです。
何が代表作かと問われるとパッと思いつかない方が多いかもしれませんね。でも色鮮やかな四角形のモチーフは目にしたことがあるのではないでしょうか。

2025年3月29日(土)から兵庫県立美術館(神戸市中央区)で始まる『パウル・クレー展 創造をめぐる星座』は、オーソドックスにクレーの人生を辿ることができ、同時代に交流があった芸術家たちの目線を通してクレーを知ることができる充実の展示内容となっています。
芸術的な才能に溢れていた若きクレーは音楽家、詩人、あるいは画家になるか迷う中、画家になる決心をし、ミュンヘンへ留学。そこでクレーは、カンディンスキーらが形成した前衛芸術家集団「青騎士」と出会い、キュビズムの芸術家、パブロ・ピカソたちの作品を知ります。

留学した当時は100年前に発表されたゴヤの版画を参考に、モノクロの銅版画でデビューします。

パウル・クレー
≪老いたる不死鳥<インヴェンション>より≫
1905年 宮城県美術館

その後パリに旅行、当時盛んだった印象主義にも触れますが、あまり関心がなかったようで、ここでも時代をさかのぼり、マネが描くようなモノクロの世界の中で光を表現する手法に興味を抱きます。
≪おりたたみ椅子の子供≫はまさにこの時代の作品で、白から黒までのグラデーションだけで、よくここまで神々しく光の表現ができるなあ〜と感心してしまいます。

パウル・クレー
≪おりたたみ椅子の子供≫
1908年 宮城県美術館

時を同じくして「青騎士」を率いるカンジンスキーらと交流を深め、抽象画家たちから受ける刺激がクレーの作風に強く影響を与えます。それは、これまで参考にしていたゴヤやマネとは違う、色彩とキュビスムとの出会いでした。
モノクロの世界の中での光の表現から色彩に目覚めるクレー。
親しい画家仲間とのチュニジア旅行では、風景を格子状に分割し、そこに鮮やかな色彩配置を試みます。
現地のまばゆい光の元、仲間と対話を重ねることでクレーは鮮やかな色彩表現を獲得していきました。
≪ハマメットのモティーフについて≫はチュニジアのモスクがある風景を抽象化させた作品で、それ以前の作風とは全く違うのがよくわかります。それでも旅行は2週間もなかったといわれており、相当濃い日々を過ごしたんだろうなと想像します。

パウル・クレー
≪ハマメットのモティーフについて≫
1914年 バーゼル美術館

もしこの時代のクレーが描く喜びに満ちていたとするならば、その時はそうは長く続かなかったのかもしれません。
ほどなくして始まった第一次世界大戦に画家の友人たちは志願して出兵しますが、命を落としてしまいます。
クレーも徴兵されますが、飛行場で整備の作業に従事したので絵を描くことができ、戦争を題材にした作品を何点も描いています。
とにかく抽象的で、何を表現しているのか理解に苦労する作品が多いのですが、クレー自身ももしかしたら自分の表現力を持て余していたのかも知れません。自分の作品を切断して、上下逆転させ貼り付けて再構成したり、荒く描かれたジグザクの線など、作品に添えられたキャプションをよく読んでみると、実は戦争の凄惨な様子を想像させる作品だったりします。その時のクレーの心情を想像すると戦争って人類最大の罪だなと改めて思わされます。

パウル・クレー
≪深刻な運命の前兆≫
1914年 パウル・クレー・センター,ベルン

その後、クレーはドイツでの評価が高まり、その評判がパリにも伝わります。当時、詩人たちを中心に人間の無意識から生まれ出るものを探究するシュルレアリスム運動が広がりをみせており、クレーの自由に無意識に線を走らせることで姿が浮かび上がる作風は、無意識から出現する芸術だと、シュルレアリストたちと共鳴しあいます。
この時代のクレーの作品は、例えば≪上昇≫のように、子供が無邪気に描いた鉛筆画にも見えるような、ちょっとした抜け感を感じることができます。そこで彼が何を表現しようとしていたのかは計り知れませんが、「この世では、私を理解することなど決してできない」と言い残している言葉に甘ええたいと思います。

パウル・クレー
≪上昇≫
1925年 宇都宮美術館

最後にもうひと作品。多分、多くの方が目にしたことがあるかも知れない≪北方のフローラのハーモニー≫。格子状に区切られた画面にさまざまな明るい色をのせたこの抽象画はとても気持ちのいい作品です。
題名のフローラから想像するにおそらくいろんな花を抽象化したものなのでしょう。光にあふれ、リズムを感じるこの絵から、みなさんはどのような印象を受けられるでしょうか。

パウル・クレー
≪北方のフローラのハーモニー≫
1927年パウル・クレー・センター(リヴィア・クレー寄贈品)

本展覧会では学芸員やミュージアム・ボランティアによる解説会も開催。
作品にまつわる話を聞いて鑑賞するとより深くクレーのことが理解できて身近に感じられますよ。
詳しくはホームページをご覧ください。

展覧会概要

パウル・クレー展 創造をめぐる星座
【日程】2025年3月29日(土)~5月25日(日)
【休館日】月曜日※5月5日(月・祝)は開館、5月7日(水)は休館
【開館時間】10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
【会場】兵庫県立美術館3階 企画展示室1,2,3(兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1−1−1)
【料金】一般:2,000円/大学生:1,500円/高校生以下無料
https://www.ktv.jp/event/paulklee/

miyoka
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