いよいよ大阪・関西万博の開幕(2025年4月13日~)が間近に迫ってきました。
世界中からたくさんの人やモノ、そして英知が集まる万博ですが、日本の魅力を海外の方のみならず、私たち日本人もあらためて再発見する機会でもあります。
万博が開催される関西エリア(奈良、京都、大阪)は、古くからの歴史と文化が今も残る地。万博にあわせて、関西の3つの大型ミュージアムで国宝にまつわる特別展が開催されます。
2025年4月19日から、奈良国立博物館(奈良市)で開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』、京都国立博物館(京都市)で特別展『日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―』が開幕。ちなみに関西の国立館(奈良博と京博)が特別展の同時開催をおこなうのは、初めてのことです。
4月26日からは、大阪市立美術館(大阪市)で大阪・関西万博開催記念 大阪市立美術館リニューアル記念特別展『日本国宝展』が開幕します。
三館どの展示作品も、私たちが小中学生・高校生時代に社会科や歴史の教科書・資料集で一度は目にしたことがある国宝や重要文化財ばかり。これほどまでに、関西で一挙にメジャー級の国宝が集結する機会は、おそらく二度と無いかもしれないので、絶対に見逃せません。
一体どんな日本の美に出会えるのか?関西で開催される三大「国宝展」の各見どころをまとめてご紹介します。
【奈良国立博物館】開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』
まず、仏像・仏教美術ファンが歓喜しそうな奈良国立博物館(以下、奈良博)の開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』から。万博開幕の年だけでなく、開館130年を迎えるメモリアルイヤーとも重なった同館。「超 国宝」の英語タイトルは、なんと「Oh! KOKUHO」です。(約140件が出陳予定)
このインパクト大のタイトル「超(Oh!)」に込められた3つの思いについて、同館の井上洋一館長が「奈良博の研究員が選りすぐったすばらしい国宝を集めたという意味、これだけ古い伝世品が残っているのは日本が誇れる点なので、時代を超えて次世代へ語り受け継がれるものであること、そして受け継いできた先人たちのいのり(心)です」と、事前の記者会見で力説するほど気合が入っています。
奈良博といえば、奈良・法隆寺の「百済観音(くだらかんのん)」(観音菩薩立像)は絶対に外せません。130年前の開館当初の頃(明治30年頃)から、昭和5年くらいまで、入り口すぐの巨大なガラスケースで展示されており、館を象徴する仏像として知られています。仏像ファンでなくとも、一度は、このすらりとした細身かつ長身で独特のプロポーションが個性的な姿をテレビ等のメディアで目にしたことがあるのではないでしょうか?
かつては、虚空蔵菩薩(こくうぞうぼさつ)として伝わっており、記録もほとんど残っておらず、謎だらけの像で、同展担当の岩井共二美術室長が「百済観音の呼び名のわりに百済に似た像がない」というほど、ミステリアスな魅力でいっぱいです。展示会場内では、百済観音の8K映像が上映される予定で、かなり詳細な部分までクローズアップして堪能できそうです。
「仏教美術の殿堂」と呼ばれる奈良博ですが、明治までの日本は神仏習合(日本固有の神の信仰と外来の仏教信仰とを融合・調和するために唱えられた教説)だったので、神道美術も充実しています。
唯一無二の姿を持つ、異形の鉄剣「七支刀(しちしとう)」は、奈良県天理市の「石上神宮(いそのかみじんぐう)」のご神宝で、注目作品のひとつ。身の左右に各3本の枝刃を段違いにつくり出した古墳時代の剣で、両面にあわせて60余字の銘文があり、その内容から、『日本書紀』に記された百済から献上された「七枝刀(ななつさやのたち)」ではないかと推定されています。
古代日本をめぐる国際関係を垣間見る超一級品の名宝であり、さらにこのあまりにもユニークな形状ゆえ、ミュージアムグッズとして、ふわふわ&モコモコのペンケースが販売される予定。いろいろな意味で注目の名品です
開館130年記念特別展『超 国宝―祈りのかがやき―』
【会場】奈良国立博物館 会期 東・西新館
【会期】2025年4月19日(土)~6月15 日(日)
公式サイト
https://oh-kokuho2025.jp/
【京都国立博物館】特別展『日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―』
万博のテーマ「持続可能な社会を国際社会の共創によって推し進める」を意識して、国宝・重文を通じ、多角的な視点で日本文化をとらえ直そうと試みたのが、京都国立博物館(以下、京博)の特別展『日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―』です。(約200件が出陳)
タイトルの「美のるつぼ」について、「日本の古美術は、独自性があると思いがちですが、実際は、古今東西の異文化が混じり合い、ダイナミックに形づくられてきた歴史があるので、世界との交流を軸にとらえ直す意味があります」と、同展担当の永島明子学芸部列品管理室長。
「国宝」の文字がありませんが、国宝だけでなく、重要文化財も含めた古今東西の名品がオールジャンルで充実しており、「海外から渡来したモノが日本でこんな使われ方をして文化財に!?」といった驚きとともに、いかにも国際都市・京都らしい、いつもとは違う多様な見方で日本の美のルーツを再発見できる内容です。
世界に見られた日本美術、世界に見せたかった日本美術、世界と混じり合った日本の美術という3つ視点で構成されているのですが、注目は、葛飾北斎の浮世絵です。
「世界に見られた日本美術」として展示される北斎の浮世絵は、19世紀の万国博覧会を契機に欧米で流行したジャポニスムの象徴。江戸時代、浮世絵が庶民に広がりましたが、あくまで大衆文化であり、美術品といえる存在ではありませんでした。欧米でのジャポニスムで大ブレイクした北斎の名声は、逆輸入され、近代日本における北斎評価につながったのです。
「国宝」といえば、真っ先に琳派を代表する俵屋宗達の「風神雷神図屏風」(京都・建仁寺所蔵)を思い浮かべる人も多いのでは?実は、江戸時代の消息は定かではなく、この作品の存在が広く知られるようになったのは明治時代後半、意外にも近代に入ってからでした。同じく琳派を代表する尾形光琳や酒井抱一も、日本より先にヨーロッパで高く評価された絵師です。現在、日本の伝統美として認識されている琳派の概念は、明治期の近代国家として歩み始めた頃に、「伝統の創出」として形成されたものだったです。
そして、ユニークなのは、「世界と混じり合った日本の美術」の視点。京都・石清水八幡宮に伝わる「クリス」と呼ばれる短剣は、現在のインドネシア周辺からやって来た舶来品です。日本においては、剣先が蛇(龍)のように蛇行する形状から雨乞いに用いられたのではと考えられているのだとか。
他にも、豊臣秀吉所用の重要文化財「鳥獣文様綴織陣羽織(ちょうじゅうもんようつづれおりじんばおり)」は、南蛮船がもたらしたサファヴィー朝ペルシアのものを秀吉の陣羽織に仕立てたもの。日本文化は異国の影響を受けたものが意外とたくさんあるのです。
特別展「日本、美のるつぼ―異文化交流の軌跡―」
【会場】京都国立博物館 平成知新館
【会期】2025 年4月19日(土)~6月15日(日)
公式サイト
https://rutsubo2025.jp/
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取材・文 いずみゆか
奈良を中心に関西の文化財やミュージアムを訪ね歩くのが大好きなライター
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