「エモいって言っていいですか?」【対談】芳根京子×原田マハ
2024.03.29
(原田)こんにちは。芳根さんは東京展もご覧になったのですか?
(芳根)はい!「モネ100%」ってすごくないですか?空間からぜいたくさを感じます。
(原田)モネを浴びる感じですよね。
(芳根)《昼食》を初めて見た時びっくりしました。こんなに大きい作品とは思わなかったです。モネの「黒」っていうのは珍しいですよね?
(原田) 確かにそうですね。光の作り方とか、まだアカデミックな手法を踏襲している感じですね。若い時分の、画家としてまだスタートしたばかりのモネの迷いやチャレンジが見て取れて、人物の日常的なふとした表情のようなものを明確にとらえているところから、かなりテクニックを持っていたことがわかる、非常に秀逸な一作ですね。
(芳根)モネの作品って明るい印象がすごくあって、絵から光を放っている感じ。
(原田)そうですね。彼が青年時代に故郷のル・アーヴルの近くの町で、彼の恩師となる画家、ウジェーヌ・ブーダンに出会うんですね。ブーダンが「外の光で描きなさい」ということをモネに教えて、光を戸外に追いかけ続けてここで一旦、自分なりの結論を見出した風景画のように私には見えますね。
(芳根)《ヴェトゥイユの教会》(1880)は、この作品を見たときに引きで見ると水がとても美しく見えるのに、近くで見ると点々じゃないですか。もうなんていうのか、「トリックアートみたい!」ってびっくりして。
(原田)おっしゃるとおり。《印象・日の出》の後にはすごく軽やかなタッチで画面構成してくと言う自分の画法を変えていくんですね。点々で書くのを筆触分割というんですが、絵筆のタッチとか色を何色と何色を近くに寄せたら、それが目の中でまじりあって、見ている人はどういう科学的効果が得られるのかということを画家たちが考えはじめて、次の時代に移っていくステップのひとつだったと思います。
(芳根)モネの作品って、作品ごとに空気が変わる感じがします。水辺の作品が並んでいるのを見ると空気がひんやりとして感じるというか、目から受ける印象だけではなく、体験型って言ったらいいのか、なんていうか…。
(原田)わかります。没入感があるんですよね。
(芳根)《ラ・マンヌポルト(エトルタ)》(1883)と《エトルタのラ・マンヌポルト》(1886)ですが、荒々しい波と穏やかな海を描いたこの2枚が並んでいるのって、こういうのを「エモい」っていうのですか?
(芳根)あ~!なるほど!
(原田)ちょっとデフォルメというか、自分が一番描きたいところを強調して思いっきり描くというのが日本のアートの非常に優れたところですよね。
そういう意味でもこの2つの作品は相当面白いですね。
(芳根)こうやって並べて見られるのがこの展覧会の良さですね。
(原田)まさに、まさに!
(原田)「どっちがどっち?」って思うくらい似ているように見えるけれど、微妙に違いますよね。モネが時々刻々と変わっていくこの世界は無常であることを描いていることが非常によく表れている作品ですね。
(原田)モネの睡蓮の画面の作り方ですが、3つの世界を描き込んでいるんですね。水面は現実の世界であって、水の下には水底の世界、上には空があるので水面に空を映す上の世界。現実と水の下と上の世界、その3つの世界を水鏡を使ってモネは巧みに描きだしているんですね。
(原田)そうですね。きっと同じころに描いたんだと思いますね。でもやっぱり一日として同じ日はないっていうことをモネは連作を通じて私たちに教えてくれているんですね。それに縦の構図も面白いですね。
(芳根)珍しいですよね。
(左)《睡蓮》1907年、和泉市久保惣記念美術館の展示は3/24(日)で終了しました
(芳根)オランジュリー美術館で好きなところをアップで撮影したのが、いま自分のスマホの待ち受け画面になっています。
(原田)オランジュリー美術館にも訪れたのですね。モネの最期の、大装飾画と呼ばれている壁画のような作品がオランジュリー美術館にあるのですが、モネがそれを作ったときに、理想としては楕円形のギャラリーに、見ている人がまるで睡蓮の池に囲まれているような気持になるような設計にしてほしいと注文をつけて作ったらしいんですが、大阪展の「睡蓮の間」はまるでその様じゃないですか?
(芳根)「360度モネ」っていうのがオランジュリー美術館みたいだなと思います。
(原田)モネがジヴェルニーの池の周りを巡りながら「この角度でこういう連作を作ろう」って構図を決めていくと様子を私たちが追体験できる感じを受けますよね。
(原田)実はあの大装飾画はモネが「自分の死後に公開してほしい」って言ったんですよ。
(芳根)あ!そうなんですか?じゃあ、そもそもモネは見るつもりがなかった…。
(原田)これは私の想像ですが、彼はジヴェルニーで完結しちゃっているから、この絵はモネからの後世への、私たちへのプレゼントなんじゃないかな。
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