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ピン芸人の戦い方に変化?R-1グランプリ2025

2025.02.05

ピン芸人の戦い方に変化?R-1グランプリ2025
ピン芸のナンバーワンを決めるお笑いコンテスト『R-1グランプリ2025』の準決勝が2025年2月2日(日)にNEW PIER HALL(東京)で開催され、ヒロ・オクムラさん、ハギノリザードマンさん、田津原理音さん、友田オレさん、チャンス大城さん、ルシファー吉岡さん、さや香 新山さん、マツモトクラブさん、吉住さんの9人が決勝進出を決めました。
今大会は、23代目王者の称号をかけて、大会最多の5,511人がエントリー。34人が競った準決勝には、テレビなどで大人気のヒコロヒーさん、キンタロー。さん、ベテランのふかわりょうさん、2021年大会・2022年大会と2年連続準優勝のZAZYさん、2013年大会準優勝のヒューマン中村さん、『M-1グランプリ2022』王者のウエストランドの井口浩之さんらも登場しましたが、それぞれ決勝進出にはなりませんでした。

「生身感重視」の傾向が顕著に

『R-1グランプリ』に限らず大型お笑いコンテストの準決勝で披露されるネタは、そのまま決勝での勝負ネタになる場合がほとんどなので詳しい内容は控えます。ただ全体的に一つ言えることは、ピン芸ではおなじみで、『R-1グランプリ』でも多くの芸人の武器となっていた「フリップネタ」「モニターネタ」がかなり絞り切られた印象であることです。

簡単に説明すると、「フリップネタ」はフリップにあらかじめネタ内容を書いて仕込んでおき、紙芝居形式でそれをめくったりしながら話を進めていくもの。「モニターネタ」も、仕込んでおいたネタをデータ化し、パソコンなどを使用してそれらを映し出していくもの。「モニターネタ」は自由度が高く、自作のアニメーションなどを仕込んで展開していく場合もあります。いずれもそこには文字、イラストなどが描かれています。

たとえばZAZYさんはもともと紙芝居形式の「フリップネタ」をやっていましたが、2021年大会の優勝がかかったファイナルステージでフリップがうまくめくれない“悪夢”を経験。その悔いからか、2022年大会ではそういったミスが起きづらい「モニターネタ」へシフトチェンジしました。また今大会でファイナリストになった田津原理音さんも、優勝を飾った2023年大会でカードゲームネタを披露しましたが、そのときは手元にあって見えづらい自作カードゲームの絵柄や解説をモニターに映し出していました。

「フリップネタ」「モニターネタ」はまさにピン芸の主流スタイルなのですが、近年、ファイナリストでその手法を使う芸人は多くは見当たりません。2024年大会では「フリップネタ」はゼロ、「モニターネタ」はkento fukayaさん、寺田寛明さんのみ。どちらも手法として定番になりすぎて、斬新さやサプライズ感が薄らいでしまい、勝ち抜くのが難しくなったと考えられます。寺田さんは2025年1月18日投稿の自身のnoteで、2024年大会について、以前のようにモニターに映し出される文を読むスタイルではなく、漫談っぽい方向性へ変えたかったと記述しています(結果「仕上がらなかった」とのこと)。

2022年大会で審査員のバカリズムさんが、kento fukayaさんの変則的な「フリップネタ」に対して「本人以外の要素があまりにも大きかった。音声やイラストの割合が多かった」と講評されました。その言葉のように『R-1グランプリ』においては年々、そういった物質的なことやデジタル的なものより、ピン芸人の「生身感」がいかに出ているかどうかが重要視されている気がします。2024年大会の優勝者である街裏ぴんくさん、準優勝の吉住さん、3位のルシファー吉岡さんはまさに「生身芸」でしたよね。

5年連続でR-1グランプリのMCを務める霜降り明星

今大会の台風の目になるか?ハギノリザードマン

2025年大会決勝の顔ぶれもその傾向が色濃く出ているような気がします。

準決勝では「フリップネタ」「モニターネタ」が数多く、敗退したヤナギブソンさんにおいては、両方の手法自体をパロディ化したネタで攻めていました。これは『R-1グランプリ』における「フリップネタ」「モニターネタ」の一つの転換期を象徴するネタのようにも感じられました。

ファイナリストを見渡しても、「誰が」という部分は言及しませんが、しかし「フリップネタ」「モニターネタ」はかなり絞られた印象です。やはり「生身芸」が強さを発揮したのではないでしょうか。

そんな中、手法面の言及は抜きにして筆者が優勝候補筆頭に挙げたいのが、吉住さんです。2024年大会のファーストステージでは、政治家の汚職問題への抗議デモを終えたばかりの女性が、その足で交際相手の実家へ結婚のあいさつへ行くという一人コントを披露。なかなか刺激的な内容だったことから、SNSなどで賛否両論が起こりました。

ただ今回の準決勝では、吉住さんらしい毒っ気は健在ながら、高い共感性やなじみ深さがあるネタを見せて勝ち上がりました。演技力も抜群。まさに圧巻の内容で、筆者個人のイチウケは吉住さんでした。SNSユーザーによる決勝進出者予想にも、吉住さんの名前はほとんど入っていたのではないでしょうか。これで4度目の決勝進出なのですが、その芸には貫禄すら漂っていて、決勝で負ける図が浮かばない感じがしました。

2024年大会のファーストステージをトップ通過したルシファー吉岡さんもさすがの仕上がり。『R-1グランプリ』を獲ることに焦点を絞ってネタを磨き上げてきた感があり、話芸として洗練されていました。ダークホースはハギノリザードマンさん。準決勝後に行われた決勝進出者発表会見で「1年間、『R-1』を研究してきました」とコメントしていましたが、ストーリー性がある上で「生身感」も抜群。なおかつアイデアも富んでいます。力技なネタですが、空気をつかめばファーストステージを突破するのではないでしょうか。

お見送り芸人しんいちさん、街裏ぴんくさんといった歴代王者も近年はテレビ番組などで大活躍中の『R-1グランプリ』。もう「夢がない」とは言わせない、それを証明する2025年大会になるのではないでしょうか。『R-1グランプリ2025』は2025年3月8日(土)、カンテレ・フジテレビ系全国ネットで放送されます。
文:田辺ユウキ
芸能ライター。大阪を拠点に全国のメディアへ寄稿。お笑い、音楽、映画、舞台など芸能全般の取材や分析の記事を執筆している。
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