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生瀬勝久VS伊武雅刀、娘を誘拐された父と娘を失った父の戦い

2025.03.10

生瀬勝久VS伊武雅刀、娘を誘拐された父と娘を失った父の戦い

『秘密~THE TOP SECRET~』第7話 レビュー

先週の予告を見て、疑問を抱いた方も多かったのではないかと思います。「容疑者がまだ生きている状態なのに、なぜ第九が捜査を?」「そもそも、容疑者はなんで機密機関であるはずの第九の存在を知ってるの?」……謎の多い今回の事件、壮大なスケールと繊細な心情描写の連続で、放送直後の今、フルマラソンを走り切ったかのような心地よい疲労感に襲われています。​

青木一行(中島裕翔)、薪剛(板垣李光人)

千堂外務大臣(生瀬勝久)の娘・咲(葵うたの)が、突如何者かによって誘拐。過去に千堂と接触していた人物・吉田さなえ(千葉雅子)の自宅に警察が踏み込むと、すでに彼女は首を切って自殺した後でした。さなえの脳を取り出し、咲の行方を特定して連れ戻すべく、この事件は第九に捜査が託されます。被害者が国の重鎮の娘ということもあり、第九にはいつも以上に緊張感が走っていました。

敏腕捜査官・薪(板垣李光人)の洞察力の高さが、あらゆる場面で見事に描かれます。さなえの記憶の中に一瞬映し出されたアラビア語を解読したり、咲に違いないと思われた少女の耳に開いたピアスの穴を見逃さず、千堂の妻(霧島れいか)に自分の娘かを確認してもらったり。さらには、捜査中に青木(中島裕翔)が雪子(門脇麦)と食事に出かけられるように機転を効かせ、さりげなく買い出しに行かせたり(あの計らいは粋でしたね……)。敏腕さが光りまくる中、挑発的な物言いで千堂の怒りを買った瞬間に返した「だから、まだ警視正なんです」は格好良すぎてめちゃくちゃシビれました!

薪剛(板垣李光人)

今回は、ゲスト俳優陣の演技も大きな見どころの一つだったように感じます。「TRICK」や「ごくせん」、大河ドラマなど、シリアスからコミカルまで幅広いキャラクターを演じ分け、多数の作品で活躍する生瀬勝久さんは、今回娘を誘拐された千堂外務大臣を演じました。あらゆる権力を振りかざして娘を守ろうとしますが、誘拐被害者が自分の娘でないと確定した途端、もうどうでもいいといった態度で、即座に船の立ち入り捜査を取りやめる。卑劣とも取れますが、底の浅い感じがものすごく人間らしいというか……千堂の心の機微が生瀬さんの表情からありありと伝わってきました。

黒幕・淡路真人を演じた伊武雅刀さんの怪演も、思わず鳥肌が立つほど!病床に伏しながら千堂を連れてこいと述べた後の、あのゆっくりねっとりと上がっていく口角……!淡路はきっと、元々は心優しい普通の男性だったのでしょう。拉致被害者の娘のために長年闘ってきたのに、とうとうその願いが聞き届けられなかった。その結果、千堂への復讐(ふくしゅう)に燃える本当の鬼となったのでしょうね。

「どんな悪党にも、生きる権利はある。」

かつて千堂が淡路の娘の命をあっさりと見捨てたように、今度は淡路が千堂の娘の命をもてあそぶ。底知れぬ怒りは、人をここまで恐ろしく変ぼうさせてしまうのですね。

淡路真人(伊武雅刀)

「始めに死体ありき。」

神の領域を蹂躙(じゅうりん)したと呼ばれる第九が、このように翻弄(ほんろう)されるなんてこと、あってはならないはずです。第九が死者の見てきたものを暴くのではなく、死者が意図的に記憶を見せ、見た者を思いのままに操るとは。本作は、ひたすらに人の命の重さ、向き合い方への問いを突きつけてきます。人の命を犠牲にしてでも相手に苦しみを味わわせたい。想像を絶するような憎悪が、人をここまで突き動かすのです。

薪の端正な顔立ちと、強気な態度の裏に隠れた弱々しい部分、感情の揺らぎも鮮明に描かれていました。いつもは冷静沈着の薪が、呼吸を荒くしてモニターを見つめ、刻一刻と迫るタイムリミットに焦りをあらわにし、その様子は青木にも伝わるほど。額の傷を心配する青木の手を振り払い、岡部(高橋努)や第九の面々に強気な姿勢で的確な指示を出す姿は、まるで青木への思いをかき消そうとしているかにも見えましたよね。

今週のハイライトは、階段の踊り場のシーンです。青木に手をのけられ、思わず青木と見つめ合うも、すぐに顔をそらす薪。かわいぎて身もだえしてしまいました。そしてそんな薪を、優しいまなざしで見守る青木……。まるで塔の上でとらわれの身になっている姫と、彼女を助けにきた勇敢な騎士。「閉じ込められたのが、もし雪子さんだったら?」「もし薪さんだったら?」その前後の薪の表情の変化に、ときめきが止まらない……。青木、帰ってから何を言うつもりなんでしょうね。雪子には悪いですが、お願いだからこのふたりの思いが通じあってくれることを祈るばかりです。こんなことを言うこと自体、やぼなのかも知れません。それくらい、彼らが胸に秘めるものの神聖さすら感じてしまいました。

青木一行(中島裕翔)、薪剛(板垣李光人)

あぁ、またこのソワソワを抱えながら、次の月曜日を指折り数えてまたなければならないのか……。なんとも幸せな悩みです。千堂の娘と、身代わりになった少女の居場所、そして薪・青木・雪子の関係性……来週も見どころ満載になること間違いなしです。一緒に注目しましょう!
文・神田 佳恵
フリーライター 兼 一児の母。
取材・インタビュー、エンタメ記事、エッセイなど、複数媒体・分野で執筆中。
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