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目の前にいるのは貝沼か瀧本か、薪の心を溶かした青木の言葉

2025.04.07

目の前にいるのは貝沼か瀧本か、薪の心を溶かした青木の言葉

『秘密~THE TOP SECRET~』第11話 レビュー(Xの反応)

最終回なのに、こんなに予想を裏切られることってあるの!?というくらい、まさかの展開に驚きを隠せませんでした。そして最終回まで、こんなにも泣かせてくれるとは……憎いドラマです。寂しさは拭いきれませんが、振り返っていきましょう。

かつて「第九の人間が捜査に命をかけるようになったらおしまいだ!」と青木(中島裕翔)を叱責(しっせき)していた薪(板垣李光人)が、黒幕を突き止めるためにおとり役を買って出ます。その行動に隠されていたのは、大切な部下やその家族に被害が及んだことで、自分を犠牲にしてでも悪と立ち向かう覚悟だったのです。岡部(高橋努)や青木が第九に来たことで、他者を一切寄せ付けぬようにしていた薪に、心を許せる存在がようやく見つかったということなのでしょう。そしてそれは同時に、敵に付け込まれる隙にもつながってしまうのですが……どんなに孤独な道を進もうとも、やはり安らぎを求めてしまうのが人というものなのかもしれません。

岡部靖文(高橋努)、曽我育秀(濱津隆之)、今井理央(梅舟惟永)

とうとう正面対決を試みる薪と瀧本(眞島秀和)。ここからのシーン、どんでん返しの連続で、一瞬も見逃せませんでした。まず、瀧本が狙っていた秘密とは、石丸大臣(相島一之)が生前に目撃したクオリア教会の深い闇。現在新代表となった佐山が、4年前に前教祖・江良を殺害していた。そしてその事実を知ってしまったことで、石丸大臣は暗殺された。石丸大臣は、クオリア教会と政府与党の癒着を見抜き、一人闘っていたのです。映像を見つめる瀧本は、あまりに切ない表情をしていました。

そして、またもや衝撃の事実。瀧本を第九に派遣したのは、あの恐ろしき貝沼(國村隼)だったというのです。さらに瀧本の脳は、薪に対する貝沼のおぞましい執着心と狂った愛に犯されているなんて、本当に怖すぎる。死してもなお、貝沼は薪を追い詰め、踏みにじり、地獄に引きずり込もうというのです。BGMが止まり、瀧本に貝沼が憑依(ひょうい)した瞬間、本当に心臓が止まるほど恐ろしすぎました……。うろたえる薪を見ながら満足そうに「とってもいい気分だよ」と呟いたあのシーンは、國村隼さんの怪演の真骨頂を見た気がします。

貝沼清孝(國村隼)

再び瀧本に憑依(ひょうい)した貝沼への怒りに震え、とうとう銃口を向けてしまった薪。ここからは怒涛(どとう)の展開でしたね。SATが突入し、薪も瀧本も射殺されてしまうかと思ったら……。第九のメンバーの巧みな連携と絆の強さが示されたワンシーンだったと思います!

最後に明かされた、瀧本の秘密。涙なしには見届けることができませんでした。クオリア教会の宗教二世だった彼が、教団に母親を殺害されていたなんて、こんな悲劇があっていいのでしょうか。教団に狂わされた母親を救うために立ち上がってくれた石丸大臣も、同じように教団の手によって殺されてしまった。教団から第九に派遣されたスパイとして暗躍しながらも、実際はたった一人で闘っていた、本当に孤独な存在だったのです。そのうえ、貝沼の私欲にまで利用され……幼き瀧本少年は、ただ家族と一緒に、幸せな日々を送りたかっただけなのに。ただの悪人だと信じ込んでいたのが情けなくなりました。そして、薪だけは彼の秘密に感づき、なんとか救う手立てはないかと模索していたことにも、ここで気付かされました。瀧本が息を引き取ってから、彼の脳に撃ち込んだ1発は、薪なりの弔いだったのでしょう。

瀧本幹生(眞島秀和)、薪剛(板垣李光人)

最後に、薪と青木の対峙(たいじ)シーンですよ……。鈴木(中島裕翔/一人二役)の最期とは、対照的に描かれていたように感じます。鈴木に詰め寄られ、彼の命を奪ってしまった3年前の薪。半狂乱で威嚇射撃をする薪に、銃を投げ捨て抱きしめる青木。自分の胸で泣き続ける薪に、優しくも力強く語りかける青木の一言一言には、氷のように冷え切った薪の心をゆっくり溶かしていくあたたかさがこもっていました。まっすぐに向けられる青木の言葉と、静かにそれを受け取り涙する薪。美しすぎて、神秘的にすら感じられる2人。気を失いながらも念じた薪の「鈴木、すまない。まだしばらくそちらには行けない」が、名残惜しそうにも心安らかにも聞こえました。誰よりも自分のことを呪い続けた薪が、自分の命を全うする希望をようやく手に入れた瞬間だったのかもしれません。

青木一行(中島裕翔)、薪剛(板垣李光人)

青木って、最後の最後まで走ってるなぁと、第九から駆け出した彼を眺めながらふと感じました。青木と雪子(門脇麦)の幸せを願う薪。涙を拭う青木の背中をさすってあげたくても、じっとこらえていて。青木のそばにいるべきは自分ではないのだと身を引くところも、最後まで薪らしくて泣かせてくれます。

三好雪子(門脇麦)、青木一行(中島裕翔)

そして、車内での薪のセリフ。寂しさをグッと堪える青木にかけた「急がなくていい、待ってるから」は、上司としてではなく、一人の友としての言葉だったのではないかと思います。ときに冷淡にも感じられるほど厳格な室長だった薪からこぼれた、優しい別れの言葉。びっくりして車を飛び出した青木の「薪さん」には、今まで以上の慕わしさと恋しさがにじんでいて。交わらないけれど、確かに心が通いあっているのが感じられる、薪と青木らしい最後だなと感じました。

Xでは、「自分に銃を向けている人に丸腰で抱きしめにいくって、これ以上ない愛だと思う」と薪と青木の間に宿る深い愛情に感動する声や、「本当に幸せな期間でしたありがとう…」「ドラマ秘密、急がなくていい。急がなくていい。続編待ってる」と、ドラマ秘密との別れを惜しむ声があふれていました。

薪や青木、雪子、鈴木の切ない人間模様や、正義の名の下に秘密をのぞき見る是非、人としての在り方・生き方を幾度も考えさせられた3ヶ月間。きっとこのドラマを、今後も忘れることはないでしょう。薪も青木も雪子も、岡部や第九の面々も、この世界のどこかで笑顔を浮かべていてくれますように。願わくば、ぜひ続編を!

薪剛(板垣李光人)、青木一行(中島裕翔)

文・神田 佳恵
フリーライター 兼 一児の母。
取材・インタビュー、エンタメ記事、エッセイなど、複数媒体・分野で執筆中。
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